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第18話 王都の災厄(?)再び!エレボス、まさかの講演会デビュー


王都の祭り騒動から一夜明け、エレボスは宿のベッドの上で伸びをしていた。


「うーん……よく寝た。昨日はさすがにドジが過ぎたな……。あの屋台の人、怒ってなかったのが逆に怖い」


モフモフは横で丸くなりながら「フモォ」と寝言を言っていたが、エレボスはそれを無視して朝の準備を始めた。が、ドアを開けた瞬間――


「エレボス様ァァァァア!!」


ぶわっと、宿の廊下に溢れる民衆。


拍手!歓声!花束!


なんと昨夜の「数々の偉業(という名の事故)」がすでに王都中に広まっており、エレボスは“王都の福笑いの星”という謎称号を与えられていた。


「な、なんで!? 何がそんなに受けたんだ!?」


困惑するエレボスを尻目に、王都主催の「英雄講演会」のポスターが目に入る。そこには笑顔のエレボス(転倒直前の写真)が大きくプリントされていた。


《本日午後、中央広場にて開催!“語れ、伝説の英雄エレボス!”》


「いや、俺そんなに語ることないし……講演会って何を話せばいいんだよ……あの辛いやつ食った話?」


だがもう遅い。彼が朝食のトーストを一口かじる間に、どこからともなく高級っぽい衣装が用意され、ドレスアップされたモフモフとともに市民に担がれて講演会場へ運ばれていた。


会場には千人以上の観客。


「エレボス様が……!」

「生エレボス!」

「トロフィー片手に激辛悶絶した伝説の英雄!」


――どこからツッコめばいいのか分からなかった。


壇上に立ったエレボスは、マイクらしき物を渡される。が、明らかにそれは、楽器のラッパの先端。


「……あの、これって本当にマイク?」


「はい!“エレボス様にふさわしい特注品”です!」


なんだその選定理由。


とにかく講演が始まった。エレボスは困ったように頭をかきながら、


「えー……あー……みなさん、こんにちは。えっと……昨日は色々すみませんでした」


それだけで爆笑。


「いや、俺ほんと、ただ普通に生きてるだけなんですよ。昨日の屋台だって、ジャンプが予想より高く出ちゃって……あ、あと激辛団子は油断しました。鼻がマグマかと思いました」


それだけでまた拍手喝采。しかもなぜか「勇気ある正直者」として王都の新たな教育指針に加えられる騒ぎに。


講演終了後、王都の子供たちに囲まれるエレボス。


「エレボス様、あたしも将来、激辛食べても負けない英雄になります!」

「僕はモフモフと旅に出るんだ!」

「ラッパマイクで演説してくる!」


エレボスは「なんでそうなるんだ……」と思いながらも、微笑みを浮かべる。


仲間のミラがそっと近づいて、いつものように囁く。


「エレボス様、今日も素晴らしかったですね。まさに、笑いと勇気を届ける“真の英雄”でした」


「……褒められてる気がしないのに、褒められてるってことになってるの、どうにかならないかなあ……」


そう呟きながら、エレボスは王都でさらなる“伝説”を生んでいくのだった。


王都にて過剰に盛り上がった講演会から一夜明けた朝、エレボスは布団の中でうめいていた。


「なんか昨日、すごく人に囲まれて『奇跡!』とか叫ばれた気がするけど……夢だよな、あれ……。うん、夢夢。現実なわけない」


そんな彼の寝言に反応するように、部屋の扉が無遠慮にノックされた。


「エレボス様、お目覚めのところ恐れ入ります。王命でございます」


「ふぇぇ!? 王命って、あの王? 本物の?」


慌ててドアを開けると、スーツの男が厳かに一礼し、ハート形の便箋を差し出した。と同時に、強烈なラベンダーとカスタードの混ざったような香りが部屋に充満する。


「匂いの暴力じゃん……。えっ、これ王の匂い? これが権力の香りってやつ……?」


便箋を開いて中を読むと、衝撃的な依頼が。


> 「エレボス様へ♡

> 王家の祝祭にて使用する“メルティ・オブ・デス”の調達を、ぜひ貴方にお願いしたく♡

> このプリンは、聖なる甘味と恐怖の遺産にして、迷宮の奥にて“泣き叫ぶスライム”たちにより保管されております。

> なお前回の調達者はスプーンを持ったまま消息を絶ちました。

> お気をつけて♡

> 王国国王より」


「祝祭のデザートのために俺使う!? もっと他に適任いるでしょ!? 甘味処の人とか!?」


しかし、横で真剣な表情を浮かべている仲間たちが違った。


「ついにこのときが来たか……」

「“メルティ・オブ・デス”の話は、かつて我が村にも伝わっていたわ」

「恐怖と甘味、二つの極致が一つになった神のデザート……」


「ちょっと待って。なんでそんな“封印された災厄”みたいなテンションなの?」


エレボスは困惑していたが、仲間たちはやる気満々だった。


「エレボス様の手にかかれば、伝説のデザートなど朝飯前!」

「スライムごと食べてしまうのでは?」


「それは無理だから!? というか、俺の食生活どうなってんの!?」


とはいえ、王命は王命。ということで一行は、プリンの材料を求めて再び旅立つことに。


最初に向かったのは、黄金の卵を産むという“幻のニワトリ”の住む森。だがそこにいたのは、異常に知能の高い鳥だった。


「エレボス……お前、卵目的で来ただろ? 俺の美しい娘の卵を……食べるつもりだろ?」


「違う違う! 言い方がなんかまずい! すごく犯罪のにおいする!」


次に向かったスライムミルクの採取地では、透明なスライムたちが音楽に合わせてボディパーカッションを披露していた。


「いや、なにしてんの!? お前ら今、芸術活動中!?」


「彼らのパフォーマンスは“出し物”です。報酬を払えば、搾乳の権利を与えてくれます」


「搾乳っていう言い方やめてぇぇぇ!!」


そんな騒動を経て、ついにプリンの材料が揃うころ、エレボスは一言つぶやいた。


「なんか……冒険っていうより、どんどん買い物ミッションになってない?」


が、その背後では仲間たちが静かに目を潤ませていた。


「エレボス様のこの謙虚さ……やはり器が違う……」

「この慎ましさが、神のプリンを受け取る資格……!」

「もはやプリンに選ばれし者としか……」


「いや、勝手に選ばれてる感出すのやめて!」


エレボスの脳内では「ただのお菓子調達」が、仲間たちの中では「国の未来を握る使命」になっていた。にもかかわらず、当の本人はプリンの完成を想像してよだれを垂らしていた。


「はぁ~……うまかったら、おかわりできないかなぁ……」


その一言に、周囲の騎士団全員がひれ伏す勢いで感動していた。


「おかわりだと……? 伝説の……おかわりを目指すのか……!?」


「英雄の胃袋、恐るべし……!」


プリンの迷宮突入は、次回へ続く。

だがエレボスはただ一人、満腹にならないか心配していた。

王都から東へ三日、噂の“プリンの迷宮”に一行は到着していた。

表面上はお菓子工房跡地。だが中に足を踏み入れれば、空気が一変する。


――甘い。

信じられないくらい甘い。


「な、なんだこの匂い……!? 鼻腔がシュガーで埋め尽くされる……!」


「空気、かるい……カスタード蒸気……吸いすぎたら糖尿なるわこれ……」


一同が顔をしかめる中、エレボスだけがご機嫌だった。


「うわぁ~! なんか、ずっとお菓子屋の裏にいるみたいな匂い……! これ、布団に詰めたら絶対寝れる……!」


「エレボス様!? 今、すやすやモード入られました!?」


先を進むと、空間が突然広がる。そこは一面ツルツルとしたカラメルの地面、天井からはバニラビーンズがぶら下がり、ところどころで“ぷるん”と揺れるスライムたちが踊っていた。


「おぉおおお!? スライムたちが……踊ってる!? ラテン!? しかもシンクロしてる!?」


「こっち来るぞ! 武器を――」


「いやいや、ちょっと待って。ノリ良すぎない? なんかBGM流れてない? どこスピーカー?」


気づけば、迷宮の壁面からは音楽が鳴っていた。パーカッション、ブラス、軽快なリズム……完璧なラテン・ミュージック。


そこに現れたのは――


「Bienvenido, aventureros!!(ようこそ、冒険者たちよ!)」


――ハットをかぶった巨大スライムだった。肩からポンチョをかけ、ひげらしきものが黒糖で描かれている。


「私は“ドン・プリーノ”。この迷宮のリーダーにして、伝説のプリンの守護者だ。まずは君たちのプリンへの情熱、見せてもらおうか!」


「ねぇ、なんか番組始まってない? 情熱ってなに? 熱血要素出てきたよ?」


「リーダー、お気をつけて。彼ら、見た目より深い情熱の持ち主ですわ」


「誰が!? どこが!? オレ寝坊してここ来たんだけど!?」


だがスライムたちは、エレボスの「寝坊して来た」という発言を誤解した。


「そうか……寝坊するほど余裕をもってこの迷宮に挑むとは……」


「恐るべし……寝てなお強者……ッ!」


すっかり「余裕の風格」と解釈された。


「では、第一試練――『リズム・オブ・プリン』、始めよう!」


ステージがせり上がる。唐突に流れるラテンジャズ。突然、足元のカラメル床がビートに合わせて光り出す。


「え、なに、ダンスゲーム!? ダンレボ!? ここで!?」


「そうですわ、エレボス様。床が音楽に連動し、正確にステップを踏まなければ落とし穴に……!」


「地味に高度な罠!?」


しかし――エレボス、驚きの展開に!


「えっ、これ……なんか足動く……楽しいかも……!」


本能だけでダンスを踏み始めたエレボス。だが周囲は仰天。


「う、動きが美しい……!」

「まるでプリンのように滑らかで……弾力があって……カラメルを感じる!」

「なんで味覚的比喩なの!?」


踊りながら本人は心底不思議そうだった。


「んー……なんでみんな感動してんだろ……? オレ、ただの変なノリで体揺らしてるだけなんだけど……」


ドン・プリーノは帽子を胸に当てて震えていた。


「彼こそ……プリンのリズムと一体化した“神のダンサー”!」


「待って待って、オレ今ちょっと足つっただけだから!!」


試練は合格。

しかしこの迷宮、まだまだ終わらない。

第二試練は――“カラメルの地獄鍋”だった。


エレボスの知らぬ間に、どんどん試練はクライマックスへ向かっていくのであった。


王都から東へ三日、噂の“プリンの迷宮”に一行は到着していた。

表面上はお菓子工房跡地。だが中に足を踏み入れれば、空気が一変する。


――甘い。

信じられないくらい甘い。


「な、なんだこの匂い……!? 鼻腔がシュガーで埋め尽くされる……!」


「空気、かるい……カスタード蒸気……吸いすぎたら糖尿なるわこれ……」


一同が顔をしかめる中、エレボスだけがご機嫌だった。


「うわぁ~! なんか、ずっとお菓子屋の裏にいるみたいな匂い……! これ、布団に詰めたら絶対寝れる……!」


「エレボス様!? 今、すやすやモード入られました!?」


先を進むと、空間が突然広がる。そこは一面ツルツルとしたカラメルの地面、天井からはバニラビーンズがぶら下がり、ところどころで“ぷるん”と揺れるスライムたちが踊っていた。


「おぉおおお!? スライムたちが……踊ってる!? ラテン!? しかもシンクロしてる!?」


「こっち来るぞ! 武器を――」


「いやいや、ちょっと待って。ノリ良すぎない? なんかBGM流れてない? どこスピーカー?」


気づけば、迷宮の壁面からは音楽が鳴っていた。パーカッション、ブラス、軽快なリズム……完璧なラテン・ミュージック。


そこに現れたのは――


「Bienvenido, aventureros!!(ようこそ、冒険者たちよ!)」


――ハットをかぶった巨大スライムだった。肩からポンチョをかけ、ひげらしきものが黒糖で描かれている。


「私は“ドン・プリーノ”。この迷宮のリーダーにして、伝説のプリンの守護者だ。まずは君たちのプリンへの情熱、見せてもらおうか!」


「ねぇ、なんか番組始まってない? 情熱ってなに? 熱血要素出てきたよ?」


「リーダー、お気をつけて。彼ら、見た目より深い情熱の持ち主ですわ」


「誰が!? どこが!? オレ寝坊してここ来たんだけど!?」


だがスライムたちは、エレボスの「寝坊して来た」という発言を誤解した。


「そうか……寝坊するほど余裕をもってこの迷宮に挑むとは……」


「恐るべし……寝てなお強者……ッ!」


すっかり「余裕の風格」と解釈された。


「では、第一試練――『リズム・オブ・プリン』、始めよう!」


ステージがせり上がる。唐突に流れるラテンジャズ。突然、足元のカラメル床がビートに合わせて光り出す。


「え、なに、ダンスゲーム!? ダンレボ!? ここで!?」


「そうですわ、エレボス様。床が音楽に連動し、正確にステップを踏まなければ落とし穴に……!」


「地味に高度な罠!?」


しかし――エレボス、驚きの展開に!


「えっ、これ……なんか足動く……楽しいかも……!」


本能だけでダンスを踏み始めたエレボス。だが周囲は仰天。


「う、動きが美しい……!」

「まるでプリンのように滑らかで……弾力があって……カラメルを感じる!」

「なんで味覚的比喩なの!?」


踊りながら本人は心底不思議そうだった。


「んー……なんでみんな感動してんだろ……? オレ、ただの変なノリで体揺らしてるだけなんだけど……」


ドン・プリーノは帽子を胸に当てて震えていた。


「彼こそ……プリンのリズムと一体化した“神のダンサー”!」


「待って待って、オレ今ちょっと足つっただけだから!!」


試練は合格。

しかしこの迷宮、まだまだ終わらない。

第二試練は――“カラメルの地獄鍋”だった。


エレボスの知らぬ間に、どんどん試練はクライマックスへ向かっていくのであった。


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