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うさぎメイクと口裂け女

朝7時。1人の女の子が鏡の前で真剣な顔をして前髪をクリップで留めていた。これから大事な大事な儀式である“メイクアップ”をするのだ。

今日は可憐でか弱いおなごを演出したいのでうさぎメイクとやらに挑戦する。

年若い女にとってツヤ感は命。下地を塗って最小限の量だけ粉をのせる。

眉毛は瞳よりも少し明るい茶色でふんわりと書き足す。

そしてアイシャドウ。これが最も楽しいメイクの作業であり、メイクといえばこれである。

ピンク色のキラキラとした粉を目尻と涙袋の中央にふわっとのせる。のせすぎは厚ぼったく見えるので要注意だ。

そしてブラウンのアイライナーでタレ目を…と見せかけてすこーし上げる。この下げて上げる書き方が顔の余白を小さく見せるコツだ。

このままでも可愛いがもう少し目力が欲しい。ここで束感のあるつけまつげ登場。慎重に慎重につけまつげを付けて乾かす。そして感嘆の声を上げた。

「かんわいいいぃ〜〜〜!!!買って良かったこれ〜〜!まじ顔面国宝級!!!」

メイクに必須の自己肯定タイムである。自分を可愛いと思うことがメイクで最も重要だ。

女子高生という生き物はキラキラが好きなのでザックザクの星屑のような大粒のラメを上まぶたと下まぶたの中央にのせる。

目に満足がいったら頬の高めの位置と鼻にピンク色のチークをふわっとのせる。

この鼻チークがうさぎメイクの醍醐味だ。

鼻の高さを出すためさらにハイライトをのせる。

と、ここで終わってはいけない。唇に命を吹き込まなければ。薄ピンクのリップを唇に塗るとチュルチュルと瑞々しいしい果実が実った。

「完成〜!!上手く出来た〜!!それじゃあ行ってきまーす!」

メイクが大好きな可愛い女子高生、時田香菜は元気良く家を出ていった。彼女の学校は校則がゆる〜いおかげで、今日も可愛いが作れるのだ。

「香菜おはよう〜!!今日も可愛い〜!」

声をかけてきたのは幼馴染の佐藤美和子である。

「おはよう美和子!リップ可愛いじゃん。」

「新作のやつ買ったの〜!ところで香菜、あの噂話聞いた??」

「何??エビマヨパンが販売中止になるかもしれないって話?エビ高いもんね〜。」

「違うよ〜!ここらへんで口裂け女が出るって話!!」

「えぇ…マジで…」

香菜は一気に嫌そうな顔になった。噂になるということは目撃者が多いのだろうか。香菜の放課後ハンバーガーorフラペチーノ天国タイムが潰される日はそう遠くないことを示唆している。


―放課後―

「あぁ〜もうダルい〜。せっかく可愛くしたから寄り道したかったのにぃ〜」

早速放課後が潰されたらしい。キラキラにデコられたスマホを眺めながら、目的の場所に向かう。

「まあ依頼だから仕方ないよねぇ〜」

と、目的地に着いた。

香菜は辺りを見渡すが特に異変はなさそうだ。

「移動したのかなぁ〜。はぁ〜めんどくさ。」

と、足を踏み出そうとしたその瞬間、背中がスッと冷たさを感じた。

急いで振り返る時田香菜。そこには切れ長涼しげお目目の黒髪ロングストレートお姉さんが立っていた。口元はマスクで確認できない。

「私、キレイ??」

お馴染みのセリフで香菜に恐怖を与えようとする。だがしかし相手が悪過ぎた。

「あんたのせいで新作フラペチーノ飲みに行けなくなったんだけど!?おりゃ!つけまつげでもくらえ!!」

口裂け女からしたら大分理不尽な理由で怒鳴るとつけまつげを口裂け女の瞼に引っ付けた。

実はこのつけまつげ、只のつけまつげではない。

そう、妖怪退治に特化したつよつよ清らかつけまつげなのだ。

いつの間にかマスクの取れた口裂け女はさらに避けるんじゃないかというくらい口を開けて叫ぶ。

「痛いっっ!!何すんのこのクソガキ!!」

「あっれ〜。普通ならこれで効くんだけど駄目か〜。あ、そっか!目は綺麗だからコンプじゃないのか!くらえ!つよつよリップ!」

次は程よくラメの入った深めの色のリップを口裂け女の口にグリグリと押し付けた。

「ぎゃあぁぁぁ!!」

工事現場よりも大きいんじゃないかというくらいの声で叫ぶ口裂け女。香菜の鼓膜が心配である。

突然口裂け女は光に包まれた。

「何、これ…」

呆然とした顔で座り込む口裂け女。

香菜が鏡を渡す。

「私、本当に綺麗になってる…!!」

口が通常の人間サイズに戻った口裂け女はびっくりしている。

「あんたのコンプレックスの口、理想の状態にしたの。酷い目に遭って妖怪になったのは分かるけど、だからって他人に迷惑掛けていいわけじゃないからね。」

香菜は説教をした。

「私、私、本当にこの顔になったのが辛くて。いつの間にか妖怪になってて、他の人も同じ顔になっちゃえばいいって襲ってた。」

そう、この口裂け女は実害を出していたのだが、都市伝説通り相手の口を裂くわけでもなく適当な場所に切り傷をつけて終わっていた。ほぼかまいたちである。

「相手の顔を見てたら自分が劣ってるように思えて…。それ以上顔をみたくなくて、襲っても中途半端に逃げ出してたの…。本当にごめんなさい。」

大粒の涙を流す口裂け女。

「あんたのやったことはまだマシだったから更生出来ると思って消すまではしなかった。徳積んだら黄泉の国に行ってよね。」

香菜はそれだけ言うとその場を離れて行った。

「ありがとう!!この恩返すから!!」

口裂け女は香菜の背中に向かって叫んだ。従属の誕生の瞬間である。


時田香菜。今をときめく女子高生でありながら最強の妖怪退治人。これからも町の平和を守っていく。

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