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第八十七話 エルフの神秘


「すっかり遅くなってしまったな。まだやっていると良いんだが……」


 ヒルズにやってきたが、もう夕食時間帯は過ぎている。酒場はむしろこれからが本番だが、『花と野菜の庭園』は酒類は提供していない。



「ほお……これはまた幻想的だな」


 昼間は気付かなかったが、夜になると光る苔類が使われているため、暗闇の中でも店の外観はまるでライトアップされているように明るく輝いている。発光ユリなどの夜行性の花々を目当てにやって来る夜光蝶が光の粉を振りまきながら飛び回る光景はなかなかの見物だ。


「すまない、カリンはいるか?」


 店の入り口は閉まっていたが、厨房に繋がる勝手口に明かりが灯っているので声をかけてみる。


 ガチャンガチャンッ!!!


 店の奥の方で大量に皿が割れる音がして、パタパタとこちらへ走ってくる足音が聞こえる。


「わあ!! ふぁ、ファーガソン様じゃないですかあ!?」


 白に近い金色の髪に宝石のような碧眼、人族から見れば恐ろしいほど整った顔とスレンダーな身体。エルフをそれほどたくさん知っているわけではないが、カリンは間違いなくその中でも飛びぬけて美しい。エリンやフリンを見慣れてしまっているせいでその事実に今頃気付く。


 余程慌てて来たのだろう。頭の上にはさらに乗っていたと思われるサラダや花が乗っている。


「すまない……驚かせてしまったな。皿と料理はもちろん弁償するよ」

 

「いやいや、私がおっちょこちょいなだけですからお気になさらず。それよりも本当に来てくださったんですね!!」

「まあな。明日未明にこの街を発つから挨拶に寄ったんだ。渡したい土産もあったんでな」


「ええっ!? お土産まで!!! 嬉しいです。最後に会いに来てくださるなんてロマンチックですよ」


 嬉しくてたまらないという様子で頬を染めるカリン。うむ、たしかにロマンチックかもしれないが――――


「なんというか……その格好はエロチックだな」


 陶磁器のような真っ白い肌に身に付けているのは薄手のエプロンだけ。エルフにしてはグラマラスな膨らみがこれでもかと強調され、隠し切れない肢体から目が離せない。


 これがあれか……噂に聞く『裸にエプロン』というやつか……凄まじい破壊力だな。


「へ? あ……ああああああ!? ち、違うんです、ちょっとやらかして服が汚れてしまったので……つい。か、勘違いしないでくださいね!! いつもこんな格好しているわけじゃありませんからね!!」


 それはそうだろうな。こんな格好で接客していたら色んな意味で危険だ。


「ふふ、わかっているさ。だが丁度良いだろう。脱ぐ手間が省けるからな」

「いやいや、ちょ、ちょっと待ってください、私まだお風呂に入ってないから……」


「エルフの体臭は花のようだし、汗は果実のように甘酸っぱくて俺は好きだぞ?」


 真っ赤になっているカリンを抱き上げる。


「にゃああ!? そ、それは姫様のようなハイエルフだけですって!!」

「そうなのか? どれ……ふむ、たしかに香りは花というよりは木の香りに近い。そして……うむ、汗は薄めたシトラ水みたいだな」

「ひゃあっ!? か、嗅がないでください~、な、舐めちゃ駄目えええ!!?」


 相変わらずリアクションが大きいな、カリンは。


「さてお姫様、どこへお連れすれば良いかな?」

「お、屋上庭園が良いです……」



 


「……ファーガソン様? 私を壊すおつもりですか?」

「すまん……裸にエプロンが思ったより凶悪だった……」

 

 俺は悪くない……と思う。



「そういえばカリンやエリンたちはなぜ人族の街に住んでいるんだ?」


 本来エルフは森に住み人族の街をあまり好まないと聞いたことがある。あまり街でエルフを見ないのもそのためだと思っていたが。


「……エルフはいずれ消えゆく種族なのです」


 カリンの顔がわずかに曇る。


「……どういう意味だ?」

「エルフには男がほとんどいません。かつての魔族との戦いで多くのエルフの男が亡くなりました。元々子どもが出来にくいエルフですが、男子が生まれる確率は女子が生まれる数十分の一です。わずかに残っている生殖可能な成人男子が頑張ってはいますが、ここ数十年新たな男子は誕生していないのです」


 そんな深刻な状況だったとは……。


「じゃあ街に来ているのは……」

「はい、将来を見据え人族と交わり子を成すためです。とはいえ、エルフと人族は価値観や生活習慣も異なりますから、私たちのような比較的人族に抵抗のない者たちがこうして人族の文化を学び、エルフと人族の橋渡しをすることになったのです」


 なるほど……座して滅びを待つよりは……という苦渋の決断か。


「カリンは上手く馴染んでいるようだな」

「あはは、私の場合は姫様がこの街にいらっしゃるのが精神的に大きいです。まだまだ小さいですけれど、この街にはエルフのコミュニティもありますからね。今後移住してくるエルフたちの受け皿になれるように頑張っているところです」


「そうか。俺に出来ることがあれば協力する。困ったことがあれば何でも言ってくれ。まあ居なくなる前日に言われても困るだろうが、また戻ってくるつもりだ」 


「ぜひ!! エルフは超が付くほど奥手で純粋なので大変なんですよ」


 ……そう……なのか? 俺が知る限り正反対の印象だが……


「あああっ!? 納得がいかないって顔してますね!! 違いますよ、ファーガソン様が特別なんです!! エルフを惑わせるファーガソン様が悪いんです!!」 


「……そうなのか? なんかすまん」

「わかってもらえて嬉しいです。じゃあお詫びにもう一回良いですか?」


 ……やはり俺が知る限り正反対の印象――――


「……何か言いたそうですね?」

「いや、なんでもない」


 どうやら俺には乙女心とエルフのことはわからないようだ。


「ほら、早く早く、ファーガソン様!!」

「お、おう……」

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