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第八十三話 風呂上がりにはファーガソン


「王都は国王派が強いですからね。辺境伯派の尻尾が捕まえられるとなれば歓迎されるはずです」


 フリンも王都への輸送に賛成の立場を表明する。


 まもなく王都にもヴィクトールが死んだことが伝わるだろう。そうなれば国王派のライバル派閥である宰相派はリーダーを失った以上、これまでのような勢力は保てなくなるどころか、空中分解してもおかしくない。となれば、早々に派閥に見切りをつけ国王派、もしくは辺境伯派に鞍替えしようと画策し始めるはずだ。もっとも大多数はしばらく中立の立場でどちらに付いた方が得なのか様子見してくるだろうが。


 国王派にとっては、この千載一遇のチャンスを最大限に利用して勢力を広げたいと思うだろう。今回のレイダースの身柄は、国王派にとっては喉から手が出るほど欲しい切り札になり得る情報だ。歓迎されない理由はほとんどないだろう。



「ところで王都までの輸送はどうするつもりだ?」


 本音を言えば俺が王都まで連中を連れて行ければ良いのだが、ただでさえアリスターさんには無理を言って出発を延ばしてもらっているし、俺は護衛の依頼を受けている立場だ。リエンの気持ちを考えても、一緒に連れて旅をするというのは現実的ではないし、かなりの遠回りになってしまうのは色々と問題が出てくる。


「そのことでしたら私たちが王都まで連れて行きますので、ご安心を」


 にっこりと微笑むマリア。


「……私たち? まさかマリアが王都へ行くのか?」


「ええ、丁度王都から招待状が届いているのです。せっかくの機会ですから久しぶりに王都へ行ってみようかと思っています」

「私たち各ギルドマスターも招待されている。それに合わせてギルド総会も王都で開催されるからね。最低でも数か月……それなりに長期の間、王都に滞在することになりそうだよ。もしかしたらファーガソンたちにも会えるかもしれないね」


 俺たちは海岸線を大回りして王都へ向かうが、ダフードからであれば直通の街道を使って最短距離で王都に行くことが出来る。エリンの言う通り、タイミングによっては王都で再会できる可能性があるかもしれない。


「それは楽しみだな。ところでかなりの規模の招待状だな? 王都で大きなイベントでもあるのか?」


 主要都市の領主クラスが招かれているだけでなく、各地各種のギルドマスターまで招待されているとなると、参加者は数千名を軽く超えるだろう。家族や付き人などを合わせれば、王都の人口が膨れ上がる。王族の婚姻、もしくは戦勝パレードクラスに違いない。


「内容は書かれていないのですが、王家主催ですので、何らかの大きな発表があるのではないかと噂されていますね。もしかすると王太子殿下に関することかもしれませんね」


 意味深な表情のフリン。


 王太子殿下か……。たしか三十前後だったはず。


 陛下がまだ健在ゆえ、王位を継ぐにはまだ早いが、現在のきな臭い国際情勢を考えると、何とも言えないか……。



「というわけですから、レイダースの件はご安心くださいませファーガソン様。それより、そろそろ始めましょうか、あまり時間も無いことですし」


「始める? 何をだマリア」


「決まっているじゃないですか。風呂上がりのファーガソンです」


 ほのかに上気したピンク色の肌が艶めかしい色香を放っている。


「そうだよファーガソン、風呂上がりにはファーガソンって昔から言われているからね」

「お風呂で火照った身体には、ファーガソンが染みわたるんですよね」


 そうか。それなら仕方ないな。


「風呂上がりのファーガソン、するぞ」


 自分で言っていておかしくないだろうか? いや……深く考えまい。 

  

「「「わーい、待ってました!!!」」」



 明日は夜明けとともに出発することになるので、今夜は夕食を食べたら宿に戻ることになる。


 彼女たちと次何時会えるのかわからない。王都で再会出来るかもしれないが、もしかしたら、これが最後かもしれない。明日何が起こるかなんて誰にもわからない。


 そんな思いがあるからだろうか、俺だけじゃない、彼女たちもいつも以上に情熱的だった。 

 


 それでも―――――終わりの時は来てしまうものだ。


「なあエリン、時間を止める魔法ってあるのかな?」

「いや、残念だけど知らないな。まあ私たちハイエルフは人間から見ればある意味時間が止まっているような存在だけどね」


 そうか……エリンはハイエルフだったのか。詳しくは知らないが、一般的なエルフは数百年の時を生きるが、ハイエルフは千年を超えて存在していると聞く。そんな彼女たちの目には俺たち人間はどう映っているんだろうな。


「でもね、ファーガソン、それでも……それでも思ってしまうよ、このまま時間が止まれば良いのにってね……」


 エリンの瞳に宿る感情は寂しさなのだろうか? いままでどれだけの別れを経験してきたのか想像もできない。



「そうですわ。エリンとフリンはこの先も時間があるのですから、最後は私に譲ってくださいね? 人間である私には、それほど時間はないのです……」

 

 マリアの言葉に顔を見合わせるエリンとフリン。


「エリン、私たちは先に出ていましょう」

「そうだねフリン、ファーガソン、マリア、最後は二人で楽しんでくれ」


 だが、マリアの言葉に思うところがあったのだろう。静かに頷くと浴室から出てゆく。


「ようやく二人きりになれましたわね」

「そうだな」


 残された俺たちは見つめ合って笑いあう。


「だが、そろそろ夕食の準備が出来るのでは?」

「大丈夫ですわ。今夜は可能な限りゆっくり準備するように命じてありますから、ね?」


 覚悟を決めている女性というのはどうしてこんなに美しいと思うのだろう。


 どんなに惹き合っていたとしても、マリアは決して俺と行動を共にすることはない。俺もまたマリアの側で支えてやることは出来ないのだ。少なくとも今はまだ。


「これで最後じゃない、王都でまた会おう。それが無理でも必ずまたダフードを訪ねるつもりだ」

「はい……ファーガソン様も道中お気をつけて。遠く離れていたとしても、この空は繋がっております。同じ月を見ることもあるでしょう。生きてさえいればまた……すべては運命の女神トレースの御心のままに」


 残された時間を惜しむように最後の逢瀬はゆっくりと静かに終わりを迎えた。 

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