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第七十八話 フレイヤ VS レイダース


「何か勘違いしているようだが……お前の相手をするのは俺じゃない」


 今にも斬りかからんとする氷剣の出鼻をくじくように言い放つファーガソン。


「……なんだと?」


 ファーガソンの発した予想外の言葉に困惑するアイスハートの前に一人の少女が立つ。


 その少女こそリエン、いやフレイガルド王国のフレイヤ王女その人だ。


「氷剣アイスハート、貴様の相手はフレイガルド第一王女、この紅蓮のフレイヤだ!!」

  

 その瞳に宿るのは燃えるような怒り、震えるような悲しみ、まるで憤怒と復讐の女神ライブラスが地上に顕現したかのようにその姿は神々しく哀しかった。


「俺の耳がおかしくなったのか? 貴様が俺の相手をすると言ったように聞こえたのだが?」


 アイスハートはそんなフレイヤの姿を目にしても眉一つ動かさない。いや、そもそも興味すら抱いていない。


 彼にとって魔法が使えないフレイヤなどその辺りに落ちている石ころ以下だ。瞬殺するのは簡単だが、それすらも面倒だと考えているのが態度から丸わかりである。



「これはどういう茶番だファーガソン?」


 最高の死合いに水を差されて明らかに不機嫌になる氷剣。苛立ちと怒りが混ざり合った視線をライバルへと向ける。


「アイスハート、お前はたしかに強い。それは認めるが……それだけだ。舐めてかかるとここで無様に敗北することになるぞ? 逃げても良いがそれも無理だろうな、俺は貴様を絶対に逃がさん」


「抜かせファーガソン!! 魔法が使えぬ小娘に何が出来る、お前がその気にならないなら仕方ない、女を先に叩き斬るまでだ」


 アイスハートの踏み込みに耐えきれず地面が爆散する。


 凄まじい踏み込みから繰り出される斬り込みは肉眼で捉えることはまず不可能、仮に視えたとしても受け止めることは出来ない必殺の剣だ。これまで数えきれないほどの人間が一合も交えることなく命を散らしてきた。氷剣はたとえ相手が女子どもだろうが手心を加えるような男ではない。


 アイスブレイカーがフレイヤを一刀両断すべく振り下ろされる。



 ガキィイイイイイイン!!


 

 高い金属音、アイスブレイカーがフレイヤの頭部に到達するその刹那、刃が止まる。


 ファーガソンが間に入って立ちふさがったのだ。


「……何のつもりだファーガソン」

「悪いがフレイヤには指一本触れさせない」


「……なるほど、二対一ということか。面白い」

「面白がっていられるのも今のうちだぞアイスハート、フレイヤ、遠慮は要らない、思い切りやれ」



「ありがとうファーガソン、アイスハート、私の家族、そして愛しい母国の仇、その身でしかと受け止めろ、外道!! 貴様はただでは殺さない……せいぜい苦しみ抜くが良い――――」


 静かに燃え滾るフレイヤの怒りは紅蓮の業火となり氷剣へと向けられる。


 その練り上げられた魔力はねっとりとまるで質量を持っているかのように密度が高く発火寸前の火薬のようにチリチリと空気を焼き焦がす。


『アンデッド・フィールド』


 ついにフレイヤの魔法が放たれる。


「馬鹿な……魔法は使えないんじゃないのか!?」


 さすがの氷剣もこれには驚きを禁じ得ない。すぐさま対魔法防御姿勢をとるが、何のダメージも無いことに拍子抜けする。


「馬鹿者、魔導王国フレイガルドが、アンチマジックへの対処を考えていないと思っているならおめでたいな。最初から私は魔法を使える。あえて使っていなかっただけだ。貴様の頼れる仲間とやらがあまりにも雑魚だったのでな」 


 氷剣とて油断していたわけではないが、脅威となり得る高レベルの魔導士は事前に暗殺してしまったうえ、フレイヤが鬼神のような戦いで帝国兵を焼き尽くした戦いには参加していないためフレイガルドの本当の恐ろしさは知らない。


「……なるほど、まあ良い。これで少しは楽しめそうだ。だが言っておくが俺に攻撃魔法は効かんぞ? このアイスブレイカーが全てを切り裂くからな」


 ようやくフレイヤを敵として認識するアイスハートだが、動揺は一切見られない。それはこれまで一度も魔法使いに後れを取ったことがないという確固たる自信に裏付けられているもので、彼にとっては過信ではなくごく自然な感覚だ。


「ふん、攻撃魔法か。そんなものに頼っているから王国のレベルは低いのだ。ちなみに先ほど放った魔法の効果を教えてやる。『アンデッド・フィールド』は、何があっても絶対に死なないようにする魔法だ。本来は訓練や決闘の際に使用するのだがな」


「なるほどな……それなら殺してくれと懇願するまで思う存分切り刻めるな」


 むしろ好都合だと口角を上げるアイスハート。一撃で死んでしまったら張り合いが無くなってしまう。


「勘違いするなよ? 殺してくれと懇願するのは貴様の方だ。ただし聞いてはやらんがな」


 空気がチリチリと燃える。普段の彼女を知るものなら別人だと思うほどに冷たく暗い表情で突き放すフレイヤ。


「氷剣、俺も加わろう。仲間も回復させる」


 アンチマジックを解除したスレイが氷剣の背後から声を掛ける。


 いかに氷剣が強くとも、相手は同じ白銀級と天才と呼ばれた魔法使いとなればいささか分が悪いかもしれない。アンチ・マジックがフレイヤに効いていないのであれば、解除しない理由はないのだ。


「……好きにしろ。だが邪魔になるようなら構わず叩き斬る」


 スレイの回復魔法で起き上がるクライムとレイヴン、武器を受け取ったブラッドとスカルも戦列に復帰する。


 二対一から二対六になった形のフレイヤとファーガソンだが、焦る様子もなく、むしろレイダースの準備が整うのを待っているようにすら見える。



「攻撃魔法が効かない――――そう言ったな? 本当かどうか試してやる」


 フレイヤは両手を前に突き出して新たな魔法を放つ――――


「させるか!! 『マジック・ウォール』」


 すかさず対攻撃魔法防壁を展開するスレイ。


 しかし――――



『ファントムヴォルテクス』

『シャドウディザスター』

『デステンペスト』

『ヴェノムストライク』

『マインドメルト』


 王国において通常、魔法は一度放ったら少なからずインターバルが必要だと思われている。いや、王国に限らず魔導大国たるフレイガルドにおいてもそれは変わらない。


 しかし、フレイヤはそんな常識を嘲笑うように次々と魔法を放つ。しかも見たことも聞いたこともない初見殺しの古代魔法が詠唱無しで次々に放たれるのだ。


 スレイの作り出した魔法防壁は最初の攻撃こそ防いだものの、耐えきれずにあっという間に砕け散り霧散する。


「ば、馬鹿なっ!?」


 一番驚いたのは他でもないスレイだ。これだけの高レベル魔法、しかも古代魔法を無詠唱で連発するなどありえない。


「ぐわあっ!?」

 

 さすがのアイスハートもすべての攻撃を防ぎきれない。対処が遅れてダメージが通る。他のメンバーは言うまでもなくあっさりと倒されてしまった。


 それでも氷剣は倒れない。アイスブレイカーによって大半を無効化していること、生まれ持った肉体の強靭さ、そして腐っても最強の白銀級だというプライドが支えていたのだ。

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