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第七十四話 六人組の正体


『おかしいな? あれだけの深手を負わせたのに死体が無い……』


『どうしたブラッド? まさか逃げられたのか?』


『すまない氷剣、どうやらそのようだ』


『なんだつまらん。せっかく六人でお揃いの毛皮が手に入ると思ったのに』


『またぶち殺せばいいじゃん、気にしてもしゃーない』


『……いや、ちょっと待て、魔法を使った形跡がある。ひょっとするとそいつらがマダライオン持って行ったのかもしれない』


『ふーん、スレイがそう言うのなら、僕たちの手柄を盗んだ奴らがいるってことだよね? それって許されないことだと思わない? 殺して良いよねそんな奴ら』


『良いんじゃないの? こんな森の中をうろついている奴らなんてろくな素性の人間じゃないんだろうし』


『ハハハハ、おいクライム、それって俺たちのことを言ってるんじゃないだろうな?』


『そう言われてみれば間違いないな』


『たしかに!! 俺たちなんて要人暗殺に来た正真正銘のヤバい奴らだし』


『でも王弟である宰相と公爵令嬢を暗殺するなんて、辺境伯閣下もついにこの国をひっくり返すつもりなんですかね?』


『あ、でも、公爵令嬢の方は今頃グリフォンの餌になっているかもしれねえな!! もったいねえことをするぜ』


『ロリコンのゴリラは黙ってろ!!』


『てめえ、ライアン閣下にも同じこと言ってみろや』


『おい、無駄口叩いていないでそろそろ行くぞ。ただでさえ、ブラッドが道を間違えたせいで遅れているんだ。今日中にダフードに到着しないとヴィクトールを殺る機会を失う可能性があるからな』


『『『『『『おう!!』』』』』』





「……氷剣か。間違いなく氷剣のアイスハートだろうな。名前が聞こえた三人、ブラッド、スレイ、クライムも有名な冒険者だ。面識は無いが名前は知っている。となると他の二人は会話の内容から察するに、レイヴンとスカルで間違いないか……」


 氷剣のアイスハート、あのライアン辺境伯の次男で俺と同じ白銀級の冒険者、王国トップクラスの剣士だ。 


 そして仲間の五人も全員金級の猛者ばかり。当然ながら魔導士もいる。魔法の痕跡を見破った隠者スレイは王国内でも有名な魔法使いの一人だ。


 そしてこの六人が結成したパーティこそ、王国最凶と恐れられる『レイダース』、実力もさることながら、その冷酷なまでの作戦遂行能力、敵対したものは必ず死体となって発見されるという伝説がまことしやかに信じられているほど。裏で暗殺を請け負っているんじゃないかと度々ギルドに通報が入っていたりしたが、どうやら事実だったようだな。


「氷剣のアイスハート……だと?」


 リエンの表情が変わる。


「どうしたんだリエン? もしかして知っているのか」

「ファーガソン、そいつの髪は薄い紫で瞳は黒くなかったか?」

「ああ、その通りだが……」


 ここまで感情を露わにしているリエンは見たことが無い。必死に抑えてはいるのだろうが、抑えきれずに漏れ出した魔力がビリビリと肌を刺す。

  

「……なぜ、フレイガルドが不意打ちを受けたとはいえ、あっけなく滅ぼされたと思う?」


 絞り出すよう発せられた掠れた声。リエンの激情が痛いほど伝わってくる。たしかに俺も疑問に思っていたが聞けなかった部分だ。フレイガルドは領土こそ広大ではないが、末端の兵士や使用人までもが魔法を使う強力な国だった。その先進性と古代の知識を保持する保守性のバランスは俺から見ても理想に近いものであったのだ。


「まさか……氷剣のアイスハートが?」


 辺境伯家と帝国の繋がりを疑ってはいたが、情報提供などの間接的な支援なのだと思っていた。まさかそこまで直接的に関わっていたというのなら――――


「そうだ。王国からの使者と称してやってきたあの男は、あろうことか我が国の要人を次々に暗殺……そして混乱の極みに陥ったタイミングで計ったように帝国が侵攻してきたのだ。私が無事だったのは、たまたまその晩、王宮に居なかったから……もし、私が居たら違う展開があったかもしれないと……今でも後悔している」


 くそっ……またリエンにこんな顔をさせてしまった。もう二度と悲しませたくないと思っていたのに。


「リエン……こんなことを言ったらお前に恨まれるかもしれないが、俺はそのことに感謝しているよ。氷剣のアイスハートとその仲間レイダースは本当に恐ろしい連中だ。仮にお前が居たとしても、死体が一つ増えていただけの可能性が高い。俺は……お前が生きていてくれて本当に良かったと思っているんだ」


 悔し涙を流し、震えているリエンを抱きしめる。


 決してリエンの実力を過小評価しているわけではない。最初から相手の正体と目的がわかっていたのなら、おそらくリエンでも対抗できたと思うが、不意打ちという汚いやり方で、決して正攻法では戦わない連中相手では厳しいというだけだ。


 おそらくはフレイガルド攻略のために帝国とライアン辺境伯が綿密に計画を立てたのだろう。実行に移されてしまった時点でリエンに出来ることはすでに何もなかったはずだ。あるいは、たまたまリエンが居なかったのではなく、成功確率を上げるための必然だった可能性もある。



「ファーガソン……悔しい、何も出来なかった私が……あんな連中がのうのうと生き永らえていることが悔しい……」


 わかるよリエン。俺だって無力感を抱えて今まで生きてきたんだ。痛いほどわかる。


「ごめん、せっかくファーガソンが新しい人生と名前をくれたのに……忘れなければと思っていたのに……私はやはりまだフレイヤを捨てきれていない」


 エリンにもらった魔道具を外すリエン。燃えるような紅い髪と瞳には強い意志が宿っている。リエンとしてではなく、フレイヤとして戦うことを決意したのだろう。


 ならば俺に出来ることは一つしかない。


「わかってる。謝ることなどなにもない。お前は忘れる必要も背負う必要もないんだ。今のお前は独りじゃない。俺もいるしドラコやシシリーだっている」


『りえんなかすやつきらい、やっつける』


 ドラコが力強く大地を踏みしめる。小さいけれど竜だ。しかもチハヤから莫大な魔力を受けて育ったその威圧感はやはり半端ではない。空気がビリビリと震えるのを感じる。


『カゾクノカタキウツ』


 リエンと同じように家族を殺されたシシリーも気持ちは同じだろう。その咆哮は死んでいった家族を悼むような悲しみを帯びて心を震わせる。


「ファーガソン、ドラコ、シシリー……皆、ありがとう」


 リエンに笑みが戻る。さすがは王族、たとえ悲しみのどん底に居たとしても切り替えることが出来るんだな。本当に強い子だ。


「どうやら連中リュゼを殺すつもりみたいだからな。その時点で逃がすわけにはいかない。大丈夫だ、幸い向こうは俺たちの正体を知らない。そして俺とリエンが組めばどんな強敵相手だって負けやしない、そうだろ?」


「……そうだな、うむ、その通りだ。あの時とは状況が違う。教えてくれたドラコに感謝しないといけないな」


 リエンが頭を撫でると、ドラコは気持ちよさそうに目を細める。ようやく元のリエンに戻ったようだな。


 実際、ドラコが早めに察知してくれて本当に良かった。不意打ちで襲われたら間違いなく被害が出ていたはずだろうから。

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