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第七十三話 魔法使いの本領


「ドラコ、まだ何か感じるか?」

『うん、あっち』


 もう大分森の奥まで来たが、ドラコの指し示す方向ははっきりしていて、どうやら気のせいという線は無さそうだ。


「よし、進むぞ」

「了解」

『がお~』


 森を駆け抜けるのが楽しくなってきたのだろう。さっきまで嫌そうにしていたドラコだが、今は楽しそうに尻尾を振っている。


『ふぁーぎー、ちかい』


 残念ながら避けては通れなかったようだ。警戒レベルを一段階上げて集中する。


「ああ、ようやく俺も感じた」

「私の索敵魔法にも引っ掛かった」


 索敵魔法……リエンはそんなものまで使えるのか。


「索敵魔法だと何かわかるのか?」

「魔力の大きさと数がわかるぞ。ちなみに……魔物じゃないな……この魔力構造……人間だ、全部で六人……かな。あと……それとは別に……大きい魔力が一つ……これは魔物か魔獣、種類まではわからないけどおそらくはマダライオンじゃないかな」 


 おいおい、そんなことまでわかるのか? 


「正直リエンがいれば怖いものなしだな」


「逆だファーガソン。お前が居るから私は魔法に集中できるんだ。魔法使いはな、魔法を使っている間はどうしても無防備になる。背中を任せられる盾役の戦士がいることで最大限力を発揮することが出来る。頼りにしている」


 リエンほどの魔法使いでもそうなのであれば、普通の魔法使いは言うまでもないだろうな。そんな風に言われたら信頼に応えないわけにはいかない。


「ああ、俺の命に賭けてもリエンには指一本触れさせやしないさ」


「うむ、私に触れて良いのはファーガソンだけだからな」

「それは初耳だが、光栄に思うよ」

 


「お喋りはお終いだ。こっちに来るぞ」

「どっちだ?」

「魔獣の方だ」


 リエンの言う通りなら、マダライオンを殺したのは六人組の人間で、生き残った一頭が逃げてきたというところか。だが――――


「来るぞ、ファーガソン」


 姿を現したその魔獣――――には見覚えがあった。


『グルルルル……』

「お前……先日の仔マダライオンだな?」


 答えはないが、じっとこちらを見つめて逃げないところを見ると間違いないだろう。


「酷い怪我だな……」


 正直生きているのが信じられないほどの重傷だ。呼吸するのすら辛そうで、大きく肩で息をしている。俺の顔を見て力尽きたのか崩れ落ちて動かなくなった。


「リエン、治せるか?」


 あのモフモフとした手触りが忘れられない。無邪気で幼さが残っていた。何とか助けてやりたい。


「無理だ……すでに命の灯が消えかけている」


 辛そうに俯くリエン。彼女ほどの魔法の使い手が無理だというのなら、ノーチャンスなのだろう。


「くそ……まだ子どもなのに酷いことを……」


 急速に身体が冷えてゆく。呼吸が弱くなって大きな瞳から命の炎が消えてゆくのがわかる。


「ファーガソン……一つだけ方法がある」

「本当か!?」


「ああ、使い魔の契約をする。もう時間が無い」


 リエンがナイフで自らの指先を切って血を垂らすと、その血が触れた瞬間マダライオンの体が太陽のように輝き出す。



『死にゆくものよ 森の王に連なるものよ その高潔なる魂が失われることを我は惜しむ されば我が血潮 魔力を汝に与えん 我は求める 古の契約 原初の魔女ラウラの名において 魂よ繋がれ 汝の痛みは我の痛み 汝の喜びは我の喜び 応えよ 生きよ 死ぬな マダライオン 生と死のはざまを超えろ――――』


 高速で詠唱を終えたリエンとマダライオンが金色の魔力で繋がる――――


『ファミリア・コントラクト!!』


 カカカッ!!!


 金色の魔力ラインが爆発的に輝きを増して――――消える。


 そしてそのままリエンは新たな魔法の詠唱を始める。


『癒しの女神エイリースよ 高潔なる無垢の魂を持つ者 すなわち御身の愛し子なり ゆえに願う 純粋な心に 慈しみの愛に 怯むことのない勇気に癒しを その涙の奇跡を我らに分け与え給え――――ディバインリジェネレーション!! ぐ、ぐううう……カハッ!?』 


 立て続けに魔法が発動するが、リエンは詠唱が終わるのと同時に吐血する。


「リエンっ!!! 大丈夫か!!」


 倒れる所を抱きとめるが、とても酷い状態だ、瀕死と言っても良い。大量の出血によって顔色は酷く青白い。


 おそらく……使い魔契約によってマダライオンのダメージを肩代わりしたのだろう。無茶しやがって……。



「だ……大丈夫……だ、死ぬかと思ったが何とか生きてる」


 少しだけ血色の良くなったリエンが目を開ける。身体を包み込んでいる光は継続系回復魔法か……?


 そうか、さっき使い魔契約と同時に唱えたのは、ディバインリジェネレーション、たしか聖女クラスでないと使えない最上級回復魔法。だから助かったのか。


「あの状態のマダライオンにディバインリジェネレーションをかけても間に合わなかった。だから一旦私の方にダメージを半分移したんだ……初めてやったが上手くいって良かった……」


 幸い仔マダライオンは一命をとりとめたようだ。あとはディバインリジェネレーションがじわじわと傷、魔力や体力を回復させてゆくはず。しかも複数を対象に効果をもたらすことが出来るエリア魔法だから、俺の体力も回復してゆくのを感じる。


 もしかして……これ死ななければずっと戦い続けられるんじゃないのか?


「無茶したな、一歩間違えればお前まで死んでいたかもしれないんだぞ?」

「そうだな……だが、こうして生きている、私もマダライオンも」


 力なく笑うリエンに迷いも後悔の感情も見られない。


「そうだったな、お前はそういう奴だった」

「同じ立場ならファーガソンも同じことをしたと思うが?」

「違いない」


 見つめ合って笑いだす。良いコンビだが、誰か抑える人間が必要かもしれないな。


『アリガト』

「うお!?」


 突然マダライオンが喋ってさすがに驚いた。 


「使い魔契約をするとこうやって魔獣でも意思の疎通が可能になる」


 これはすごい……テイマーの上位互換という感じだな。



『ふぁーぎーこっちにくる』


 ドラコが森の奥へ顔を向ける。


 チッ……さすがに気付かれたか? 


 人間が六人か……ただの人間じゃない。マダライオンを殺戮できる力の持ち主。


「厄介なことになりそうだ。街道を使わずこんな森の中を移動している時点でまともな連中じゃない。しかも倒す必要のないマダライオンを虐殺するような奴らだ。これならまだ魔物の方が良かった」


「ファーガソン、少し引こう。まだ回復に時間がかかる」

「わかった。痛むかもしれないが我慢してくれ」


 リエンを抱き上げ一旦退却して時間を稼ぐ。


『ミラージュ・イヤリス』


 囁くようにリエンが魔法を放った。


「何の魔法だ?」


「連中の話を盗み聞きしようと思ってな。こちらに向かって来るなら会話は筒抜けになる。地味だけど今は効果的だと思う」


 全然地味じゃないぞ。めちゃくちゃ有用な魔法だ。


「なあリエン、お前何種類ぐらい魔法使えるんだ?」

「さあ? 数えたことないな……? でも分厚い魔法事典十冊分くらいは使えると思う」


 やれやれ、リエンが味方で本当に良かった。

 

「飛ばすぞ、リエン、ドラコ、自力で走れるか? えっと……」

「シシリーだ、ファーガソン」


『ダイジョブ シシリーハハシレル』

「そうか、偉いなシシリー」


 

 身軽な分、こちらの方が移動速度は速い。俺たちはなるべく痕跡を残さないように静かにその場を後にした。  


 

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