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第七十二話 異変の兆候?


 ドラコの様子がおかしい。


 竜の感覚は人間よりもはるかに優れていて、数百キロ離れた仲間との交信も可能だという研究者もいる。気のせいなら良いのだが、残念ながら確認しないわけにはいかないだろう。


「ドラコ、その嫌な感じというのはどっちの方向から感じるんだ?」

『あっち』


 ドラコが指し示す方向を探るが、特に感じるものは無い。となると……もっと遠くか。


「エリンはどうだ?」

「そうだね……たしかに森が騒がしい気がする……かな。でも言われてみればそんな気がするっていう程度、何かあるにしても多分かなり遠いよ」

「そうか」


 どうする? 今のところすぐに影響があるというわけでは無さそうだが……ドラコの嫌がり方を見るとどうしても気になる。


「ちょっと様子を見てくる」 

 

 俺たちは明日にはこの街から居なくなってしまう。ダフードに直接関係あるかどうかはわからないが、潜在的な脅威が存在するのなら、対処できるのは今しか無い。


「ファーガソン、私も行こう」


 リエンが手を挙げてくれた。


「助かる」


 何があるかわからない状況では、リエンのような魔法使いは頼りになる。俺一人では何かあった時に知らせる手段すらない。



「気を付けてねファーガソン、危ないと思ったら絶対に無理しちゃ駄目だよ?」

「ああ、わかってる。エリン、皆を頼む」


「任せといて。まあ無理しないでとは言ったけど、ファーガソンとリエンが逃げるような事態なら、私も逃げなきゃならないし、ダフードにも避難命令を出さなくちゃならなくなる。間違ってもそうなって欲しくはないかな」


 冗談交じりにウインクするエリン。


 自分自身を過大に評価するつもりはないが、実際大抵のことならば対処できると思っている。それでも俺一人ならば逃げることを選択するケースはそれなりに存在する。例えば物理攻撃がほとんど効かないゴースト系の魔物だと相性が悪すぎるというように。


 だが、その穴をリエンが埋めてくれるのならば話は別だ。単体で逃げを選択するとすれば、力が未知数という意味でかの魔王くらいのものだろう。その魔王も勇者に倒されてしまった今、想定できる脅威は数えるほどしかない。


 後は、魔物の大発生、スタンピードのような数の暴力だ。こればかりはさすがに二人だけでどうにかなるものではない。


 つまり……俺とリエンの組み合わせで逃げることを選択せざるを得なかったとしたら、それはもうダフードの存亡をかけた状況を意味する。エリンの言う通り、冗談でも起こって欲しくないところだ。



 ここを留守にすることになるが、エリンとネージュ、アリシアが居る以上、滅多なことでは問題にすらならないだろう。


「ドラコ、ファーギーに付いて行ってあげて」

『うん、まま』


 ドラコが飛んできてそのまま肩に乗る。現状ドラコしか感知できない以上、道案内をしてくれるのは助かる。生まれたての竜がどの程度戦えるのかはわからない。もちろん戦わせるつもりはないが。


「すまんなチハヤ、ちょっとドラコを借りるぞ」

「うん、気を付けてねファーギー、ドラコ」


「ファーガソン、約束して!! 絶対に戻ってくると」

「ああ、約束する。それまでゆっくり楽しんでいてくれ」


 心配そうなリュゼの頭を撫でる。


「ごめんなさいファーガソン様、本来ならばその役目は領主たる私の仕事ですのに……」

「気にするな。マリアの不安を少しでも減らすことも俺の仕事のうちだからな」

「ファーガソン様……」


 マリアと軽く抱擁を交わす。


「アリシア、ネージュ、悪いが皆を任せる」


「任せてください。そのために私がここにいるのですから」

「ふふ、獣人は森の中ではさらに能力が上がるんですよ。つまり問題無しです」


 ふふ、二人とも実に頼もしいな。


「ファーガソンさん、これ持って行ってください」

「ファティア、これはお前のスカイドロップじゃないか?」


「エリンさんにスカイドロップは『幸運のお守り』だと聞いたので。気休めかもしれませんが……」


「ありがとうファティア、必ず無事で返すよ」

「はい、絶対ですよ? 後で食べるんですから」


 皆の見送りを受けて森の奥を目指す。


「行くぞリエン、ドラコ」

「ああ、準備は出来ている」

『おお~!!』



◇◇◇


 

 アライオンの森を進む二人と一匹。


 幼いとはいえ、ドラコの竜としての存在感と匂いが森の魔物を寄せ付けない。まるで無人の野を進むがごとしだな。

 

 これまでのところ、森の中は平和そのもの。


 ドラコの言葉が無ければ異変の兆候すら気付くことは出来なかっただろう。


「いや……たしかにおかしいな」

「どうした? 何か気付いたのかファーガソン?」


 高速で走る俺の隣をすべるように並走するリエン。よく見れば足が地面に付いていない。風魔法をコントロールしているのだろうが、相変わらずとてつもない技量だ。


「……平和過ぎるんだ」

「? 悪いことじゃないだろう」


「ここが普通の森ならそうだが、ここはマダライオンが生息している。それなのに、今日、この森に入ってから、一度も気配を感じない。前回来た時だって、定期的に遠くから様子を伺っている気配を感じていたんだ」


「ふむ……もしかして森から出ていってしまったとか?」

「それはない。マダライオンは番で一度住処を決めたら死ぬまでその森から離れない」


「ということは……マダライオンが死んだ?」

「……もしくは、殺された……かだな」


 その場合……問題になるのは、誰が殺したか。


 あくまで推測の域は出ないが、ドラコが感じている()()は、マダライオンと何か関わりがあるのかもしれない。


 

「一応、マダライオンを殺せるだけの何かがいる可能性を想定しておいた方が良さそうだ」

「この森には複数のマダライオンがいるんだろう? しかも彼らは集団行動をとる魔獣だ、それを皆殺しにしたのか?」


「その可能性もある。最悪の状況も考えておくしかない。何もない可能性だって十分あるが」


 マダライオンは単体でも強力な魔獣だが、家族を中心とした集団行動を取るという特性がその脅威度を何倍にも引き上げている。


 リエンの言う通り、ある程度のグループを倒せるほどの魔物だとすると竜クラスの脅威だが、こんなところに竜がいるとは考えにくい。



 竜の能力は人間には計り知れない。ドラコが感知したのがもしかしたらこの森の中ではなく、もっとはるか遠く離れた場所の可能性も捨てきれない。マダライオンが居ないのも、たまたま俺が感知出来ない範囲に移動していたタイミングなだけだったのかもしれないのだ。


 何も無ければそれでいい。確認さえ出来れば安心して街を出ることが出来る。それだけで大きな意味がある。

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