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第七十一話 予想外の落とし物


 エリンのおかげで謎のキノコの正体はわかったが――――


「これ、どうやって処理するんだ?」


 触れることも出来ないのだから、扱いは難しそうだ。


「カライダケの場合は簡単だよ。加熱すれば無毒化出来るから」


「加熱? ようするにキノコを燃やせば良いのか?」

「そうだね、でも燃えやすいから、火加減間違えると真っ黒こげになるよ。私は火属性は苦手だからここはリエンに任せようかな」

「ふふ、任せろ」


 リエンが小さな火球を作り出し、火加減を弱めに調整する。徐々に火球のサイズを大きくしながら、カライダケをふんわり包み込むとカライダケからスパイシーな香りが広がり始める。


「おお、良い香りがしてきたな」


「エリン、このくらい加熱すれば良いのか?」 

「うん、もう触っても大丈夫。後はこれを乾燥させて粉末状にすれば辛味調味料になる。このままでも使えるけど、量の調整を間違えると口から火が出るよ」


 楽しそうにころころ笑うエリン。辛いのが苦手なのか、引きつるリエン。


「だが不思議なこともあるものだ。数日前は生えていなかったんだがな、このキノコ」

「多分だけど、グリフォンに付着していた菌糸がこの辺りに広がったんだと思うよ。本来この辺りには生えていない種類だから」  


 なるほど、そういう事もあるんだな……さすがエリンだ実に勉強になる。

 

「他にもグリフォンが運んできたと思われるキノコを見つけたよ、ほら」


 エリンが袋の中から取り出して見せてくれたそのキノコは、見たこともない特徴的な色をしていた。


「おお……なんだこれ……青いぞ」


 青空のような綺麗なブルーのキノコ。綺麗だが、自分なら絶対に手は出さないだろう。綺麗なものには毒があるというのはある意味常識だから。


「わあっ!! 綺麗なキノコ!! ねえエリン、それ食べられるの?」


 皆が珍しいキノコを一目見ようと集まってくる。


「もちろん食べられるよ。これはね、スカイドロップっていうんだ。人間が活動できるような場所には自生していないからほとんど知られていないけれど、グリフォンやワイバーン、竜なんかから稀に菌糸が落ちてこんな風に生えてくることがある。地域によっては、神の恵みと信じられていて、神聖な食べ物だとされているね」


「それで、どんな味がするんですか、エリンさん!!」


 ファティアの食いつきがすごい。


「アハハ、そうだね……表現するのは難しいんだけど、まだ熟していないフルーツのような酸味とほのかな甘みがある感じかな。シャキシャキしていて食感が良いから、サラダやこってり系の料理に合わせると最高だと思うよ」


 想像しただけで唾液が出て来るな……。


「ちょっとスカイドロップ探してきます!!」


 皆一斉にスカイドロップを探しに行ってしまった。俺も探してみよう。目立つから探すの自体は難しくないはず。 



「わあっ!! あった!!」

「こっちにもありましたよ!!」


 チハヤとファティアが喜びの声を上げる。


「私も見つけた!!」

「ふふふ、お嬢様、私も見つけました!!」


「あら、私も見つけてしまったわ」

「さすがマリア様、あ、ありました!!」


 おかしい……なぜ俺だけ見つけられないんだ? 


 まずいな、白銀級の現役冒険者が見つけられなかったなんて言えない。

 


「そろそろ休憩にしましょう」


 マリアが絶妙なタイミングで声をかける。助かった。


「ごめんねファーガソン、スカイドロップなんだけど、あのキノコ何故か男には見えないんだよ。収穫すればこうやって見えるけどね。だからスカイドロップを収穫する仕事は、聖女が担っている国もあるんだ」


 そんな特性があったのか……だが良かった俺の探し方が悪かったわけじゃなかったんだな。




「ふふ、新鮮なキノコがたくさん……」


 ファティアが瞳を輝かせる。


 先日買ったばかりのナイフを手に、次々とキノコを下処理してから串に刺してゆく。相変わらず大した腕だ。


 キノコは持ってきた金網に並べて火にかけるだけ。これだけ新鮮だと、下手に調理するよりもそのまま焼いた方が美味いのだ。


「私はサラダの方を用意しますね」


 火を通さない方が良い種類もある。そちらはアリシアが手際よく盛り付けを始める。


「良いね、実に美味しそうだ」


 エリンは……食べる専門だ。誰にでも苦手なことはある。



 ジュワワ~。


 焼けたステーキノコから、まるで肉汁のような汁が落ちて香ばしい香りが食欲を刺激する。


 その分厚さと赤身肉のような断面からステーキのようだと名付けられたキノコだが、味はステーキからは程遠い。ナッツ系の香ばしい風味は焼きたてのパンに近い。食感はもっとジューシーで肉に近いのだが。



「わあっ!! 本当に美味しいわね……ファーガソンが言った通り、鮮度が違うとここまで差が出るものなのね……」


 リュゼが歓喜の声を上げる。良かった、それを体験してもらいたくて来たようなものだからな。


 大抵の食材は新鮮な方が美味しいが、ステーキノコは、秒単位で旨味が目減りしてゆく特に鮮度が重要な食材だ。そういう事情もあって、街で見かけても出来れば買わない方が良い。もちろん美味しいのだが、新鮮な美味しさを知っているとスカスカのパサパサでがっかりすることになる。


「これ不思議だね……パンみたいな味なのにお肉みたいな食感……」


 チハヤも気に入ったようで次々に平らげてゆく。


「はうう……美味いにゃあ……」


 ネージュは本当にこれが好きなんだな。またネッコみたいになってる。

 

『みんなたのしいね~』


 ドラコは魔力が少ないものは食べないが、ずいぶん楽しそうにしている。多分だが、魔力を媒介にした精神感応能力が高いのだろう。



 だが――――


『ふぁーぎー……こわい……なんかいや……』


 楽しそうに食事風景を眺めていたドラコの様子が突然変わった。

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