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第六十八話 ケモ耳侍女は朝から忙しい


「おはようございます……」


 早朝、耳をペタンとさせて申し訳なさそうに部屋に入って来たネージュ。冷静になって自己嫌悪にさいなまれているようだ。


 それでも身だしなみは完璧だ。背筋はぴんと伸びており侍女服はよれたところすら無く昨晩見せた姿は夢だったのかもしれないと思わせる。


「昨晩は悪かったな。適当に服を着せてしまったから起きた時驚いただろう?」


 ビクッと身体を震わせて顔を赤くするネージュ。


「そうですね……なかなか斬新な組み合わせで驚きましたが、失態を犯した私の自業自得ですからお気になさらず」


 良かった。怒ってはいないようだ。


「ところでファーガソン様……」


 何やら言い難そうにモジモジしている。


「なんだ?」


「あの……着替えさせるときに、その……尻尾の付け根を見たのでしょうか?」

「すまん……見るつもりはなかったんだが、どうしても目に入ってしまってな」


 見てないと言ってやりたいが、ネージュは匂いで嘘かどうかわかるらしいし意味が無いので正直に伝える。


「はうっ!? や、やっぱり……ううう……恥ずかしい」


 ネージュが両手で顔を覆って膝から崩れ落ちる。


「そうか? とても綺麗だったが?」

「言わないでええええ!!?」


 ……どうやら尻尾の付け根は獣人にとって非常に恥ずかしい場所らしい。今後獣人と接するときは気を付けよう。ネージュの場合は手遅れだが。



「ところでファーガソン様、どうしてお嬢様を抱きしめながら一緒に寝てらっしゃるのですか?」


 ネージュは今初めて気が付いたというように目を丸くしている。


「リュゼがそうして欲しいと言ったのでな」


「なるほど……それなら仕方がないですね。見なかったことにしましょう」

「そうしてもらえると助かる」


 リュゼのことならネージュは大抵のことは許してくれる。


「ネージュ」

「はい?」

「なんでお前まで一緒に寝ているんだ?」


 いつの間にかベッドにもぐりこんで、俺の背中に身体と鼻を押し付けている。


「大好きなお嬢様とファーガソン様の匂いが両方同時に堪能できる絶好の機会なのですよ? 何を置いてでも全力で嗅ぐに決まっていると思いますが?」

「そ、そうだな……つまらないことを聞いた」

「いいえ、それでは続きを失礼します」


 リュゼが目を覚ますまでのわずかな時間すら惜しいというように、全力で匂いを嗅ぎまわるネージュ。


 慣れというものは恐ろしいもので、ネージュのそんな行動も今更何とも思わなくなっている。



「う……うーん……くすぐったいわ……あ、おはようファーガソン!!」


 さすがにくすぐったかったのか、リュゼがパチリと目を開ける。そして俺が隣にいることを確認すると朝日よりも眩しい笑顔を見せてくれる。朝から良いものを見せてもらったな。徹夜明けの心と身体が癒されてゆくのを感じる。


「おはようリュゼ。よく眠れたようで良かった」


 ずっと様子を見ていたが、途中悪夢にうなされることもなく朝まで熟睡出来ていた。


「ええ、おかげさまで、とっても調子が良いわ。こんなに眠れたのいつ以来か覚えていないくらいよ――――って、何やってるのネージュ?」


 ベッドから脱出しようとしていたモフモフにリュゼが気付いたようだ。


「あ、あの……これには深い事情が……」


 逃げ遅れたネージュが言葉に詰まる。言えないだろうな、ベッドにもぐりこんで匂いを堪能していたなんて。


 仕方ない、助けてやるか。


「俺の両手が塞がっていて身動きが取れなかったからな、かゆい所をネージュに頼んで掻いてもらっていたんだ」

「まあ……ごめんなさいファーガソン、ずっとその態勢で朝まで……きっと疲れたでしょう? その様子だとろくに眠れていないんじゃない?」


 顔には出ていないはずだが本当に察しの良い子だな。


「気にするな。俺は一週間寝ずに移動したことがある。二、三日程度なら眠らなくてもなんともない」

「でも……」


 ふむ、本当に大丈夫なんだが、リュゼの立場ではやはり気になるか。

 

「まだ朝食に呼ばれるまで時間がある。それまでここで仮眠させてもらうよ」


「それなら私も!!」

「お嬢様は支度があるから駄目です」


 飛びつこうとするリュゼをすばやく遮るネージュ。


「ええ~? だってファーガソンはずっと私の寝顔見ていたのに、私は見ていないなんて不公平だわ。そう思わない?」


「お気持ちはわかりますが、それならば早く支度を終えれて戻ってくれば良いではありませんか」

「それもそうね。ずっと見ていたらファーガソンも眠れないでしょうし……わかった、急いで支度するから手伝ってね、ネージュ」

「かしこまりました」


 バタバタと寝室から出てゆく二人。


 やれやれ、それじゃあ少しだけ寝るとするか。普段から訓練しているので、どんな隙間時間でもすぐに眠ることが出来る。


 ふかふかのベッドに再び身体を預け、すばやく意識を手放した。




「うふふ、おはようファーガソン、朝食の準備が出来たそうよ」


 実際は入り口に来た時点で目が覚めていたのだが、せっかく寝顔を見に起こしに来てくれたリュゼに申し訳ないので、もう一度寝る。


「おはよう。顔が近いな」


 実際には近いというより接触しているが。リュゼのほっぺは柔らかいな。


「貴方の寝顔があんまりにも可愛いからいけないのよ?」


 可愛いのはリュゼの方だと思うが、感じ方は人それぞれだからな。


「そうか、自分ではわからないな」

「きゃっ!?」


 上に乗っていたリュゼごと起き上がる。


「悪いな、着替えるからちょっとだけ降りていてくれ」

「はーい」


 仕方なさそうに降りたリュゼの姿に苦笑いしながら、ネージュが影のように隣に立つ。


「お手伝いさせていただきます」


 俺自身の準備など五分もかからないのだが、ネージュのおかげで三分で、しかも髪型は驚くほど素晴らしい仕上がりになった。さすがプロフェッショナル。


「これで良いでしょう。素材が素晴らしいので張り合いがあります」


 ネージュが満足そうに頷いている。


「とてもカッコいいわファーガソン!!」


 飛びついてくるリュゼを持ち上げくるりと一回転。キノコ狩りを楽しめるように動きやすい冒険者風の服装。可愛い要素は無いはずなのだが、リュゼが着るとなんでも可愛くなるようだ。


「リュゼも可愛らしいぞ」

「ありがとうファーガソン!!」


 

「あの……楽しそうで何よりですが、そろそろ朝食を……」


 アリシアがジト目でボソッとつぶやいた。


 すまん。

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