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第六十六話 今夜はずっと一緒に居てくれる?


「ファーガソン、その指輪はめてくれる?」


 リュゼがその白魚のような細い指を差し出す。


「どの指にはめる?」

「入る所ならどこでも良いわ」


 リュゼの指は細すぎて、中指以外だと抜けてしまう。


「似合っているな」

「ふふ、嬉しい。でも中指か……惜しいわね」

「惜しい? 何がだ?」

「何でもないの、私は成長期だから大丈夫ってこと」


 よくわからないが、本当に嬉しそうに見えるからそれでいい。


「この指輪、私の宝物よ」

「リュゼならもっと高価で美しい指輪くらいたくさん持っているんじゃないのか?」


「値段じゃないんだってば」

「そうか」


 だが、何か形の残るものを渡せて良かった。   


「ネージュもはめてやろうか?」

「えええっ!? いや、さすがに申し訳――――」

「遠慮しなくて良い。ほら、これで良いか? うむ、似合っているぞ」


「はわわ……あ、ありがとうございましゅ……」


 俺の下着を嗅いで腰を抜かした時と同じように真っ赤になっているネージュ。


 そんなに照れなくてもいいのにな。

 

「もうっ、ファーガソンったら、なんでネージュにまで……」


「リュゼはなんでそんなに怒っているんだ?」


「知らない!!」


 ……難しいお年頃なのだろうか?



◇◇◇



「お帰りなさい。リュゼノワール嬢と街へ行っていたんですってね?」


 屋敷へ戻ると、マリアが仁王立ちで待っていて、ジト目で睨みつけられる。


「あ、ああ……」


 マズいぞ、なぜかマリアが怒っているんだが。


「ああ……なんということでしょう……私だって街へ行って屋台を楽しんでみたかったのに……一人だけのけ者なんて酷いです。それに……リュゼノワール嬢の騎士団がずいぶんと暴れまくってくれたおかげで、こちらへ苦情がたくさん届いているんですが……?」


 くっ、あれだけ派手にやらかせばそりゃあそうなるだろう。リュゼの笑顔のためとはいえ、代償は大きかったな。


「悪かった。良かったら明日の夜一緒に行くか? ああ、でもマリアは忙しい――――」 

「暇です」

「……え?」

「明日と明後日は時間を空けてあります。貴方がいる最後の日だから……」

「マリア……」


 愛しさがあふれだして思わずマリアを抱きしめてしまった。


「ファーガソン様、何かが当たって痛いのですが……?」


「え? あ、ああ、マリアに渡そうと思って入れていたんだ。君に似合うと思って」

「あら、素敵なブルートパーズの指輪……これを私に?」


「ああ、運よくドワーフの露天商から買えたんだ。高価なものではないが、それを見てマリアの顔が浮かんだんでな」

「……嬉しいです。指輪……はめていただけますか?」


「……薬指が丁度よいが……」


 薬指にはめる指輪は婚約を意味する。


「素敵です。まるであつらえたようにサイズぴったり。運命の女神トレースの祝福ですわね」

「良いのか?」


「ええ、もちろん。私はファーガソン様以外の殿方と結婚する気はありませんのよ? これはその証、我が家の家宝にするつもりです」


 凛と咲く花のようにマリアは姿勢を正す。

 

「家宝とはまた大袈裟だな」

「いいえ、ファーガソン様にいただいたという事実が何よりも重いのです」

「そうか、俺も嬉しいよ」


「このまま朝までご一緒したいところですが……今夜はリュゼノワール嬢のところへ行ってあげてくださいませ」

「ああ、そうするつもりだ」


 マリアのこういうところを俺はとても好ましいと思っているんだ。


「ではまた明日の朝、朝食の席で。おやすみなさいファーガソン様、貴方に夜の女神リュクスの守りがありますように」

「おやすみ、マリア。君に暁の女神ラクスの導きがありますように」



◇◇◇



「ファーガソン!! 良かった……また帰ってしまったのかと」


 そんな捨てられた仔イッヌのような顔は反則だぞ、リュゼ。


「約束したろ、今夜はお前が眠れるように一緒に居てやるって」

「うん……ありがとう」


 なんだかいつもと違ってとてもしおらしいリュゼ。とても放ってはおけない。



『なあネージュ、本当に大丈夫なのか? リュゼの寝室に俺が入っても』


 今更だが冷静に考えるとあり得ないことだ。


『ふふふ、まったく問題ありません。ファーガソン様はお嬢様の護衛として泊まり込んでいただくことになっております。本来寝室に入るのは私の役目ですが、入れ替わったとしても誰にもわかりませんし、ここまで入って来れるものは私以外に居りませんからバレることはありません』


 さすがリュゼのことだけを考えているネージュだな。まあそういうことならたしかに問題は無いだろう。



「ファーガソン、お風呂に入りましょう」


 ……問題大アリだった。


「ネージュ!!」


 慌てて黒モフの侍女を呼ぶ。


「……申し訳ございません。すっかり失念しておりました」


「私は別にファーガソンで良いのに……」


「お嬢様、さすがにそれはマズいです」

「そうだぞリュゼ、こういうことはプロに任せないと」


「はーい、わかりました。ファーガソンもお風呂入るんでしょ?」

「ああ、そうさせてもらおうかな」


 リュゼの部屋に入るのなら清潔にしないと失礼だ。


「じゃあ、私の後にネージュに洗ってもらうと良いわ。ファーガソンの言う通りプロだから気持ち良いわよ?」

「お、お嬢様……っ!?」

「どうしたのネージュ? 顔が真っ赤よ? 体調が悪いならやっぱりファーガソンに――――」


「だ、大丈夫です!! はい、お任せください、私はプロの侍女ですから!!」

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