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第六十三話 リュゼのわがままな? お願い


「ファーガソンっ!!!!」


 俺の姿を見つけるなり全力ダッシュで飛びついてくるリュゼだったが、先客がいることに気付いてぷくっと頬を膨らませる。


「ちょっと……なんでネージュが先に抱っこされているのよ……ずるいわ」

「ひえっ!? も、申し訳ございません。ちょっと腰を抜かしてしまいまして歩けないのです」


 リュゼに睨みを利かされてネージュはオロオロしながら動こうとする、が、やはりまだ力が入らないようで、結果として抱っこされたままだ。


「ふーん……つい今さっきまでピンピンしてたわよね? 一体何があったの?」

「そ……それは……」


 言えないだろうな……俺の臭い下着を思い切り嗅いで足腰が立たなくなったなんて……


「そこの廊下でこけて腰を強打したんだ。運悪く角に当たってしまったからな、あれは痛そうだった……」


 ネージュは頑丈だから、それぐらい言わないと信じてもらえないだろう。


「そ、そうなのです!! ファーガソン様の姿を見たら興奮してしまって……」

「それなら仕方ないわね、私も同じだわ」 


 嬉しいことを言ってくれる。リュゼは本当に可愛いな。


「挨拶がまだだったな。ただいまリュゼ」

「おかえりなさい、ファーガソン、私を放ってどこへ行っていたの? とっても悲しかったのよ」

「すまなかった。何があったのか、この後話すよ」


「そう……わかった。とりあえず抱っこはしてもらえるのよね?」

「大丈夫だ、お前たちが二人くらい乗ってもまだまだ十分に広いからな」

「そうこなくっちゃ!!」


 リュゼの小さな身体をヒョイと持ち上げ肩に乗せる。


「ふふっ、この匂いと~っても安心するわ。やっぱりファーガソンが一番ね」


 嬉しいんだが、公爵令嬢が匂いをクンカクンカするのは、いささかはしたないと思うぞ。


「ファーガソン、二階へ駆け上がってバルコニーからジャンプよ!!」

「……リュゼ、まさかいつもこんなことやらせているのか?」

「まさか!! ファーガソンだからお願いしているの、出来るでしょ?」

「余裕だ。なんなら三階からでも良いぞ?」

「わーい!!」

 

 マリアに見つかって、結局三人抱えて三階から大ジャンプしたらセバスに怒られた。




「本当っ!!!! それじゃあお見合いは無くなったのね?」


 お見合いが無くなったと聞いてリュゼの笑顔があふれる。この表情を見れただけでも心から良かったと思う。


「ああ、もう大丈夫だ。少なくともあの宰相とお見合いする可能性は永遠にゼロだ」


「でも……きっとまた別の人とお見合いさせられるんだろうな……」 


 アルジャンクロー公爵家と縁を持ちたいと思っている貴族は国内だけでも掃いて捨てるほどいるだろう。それに加えて国外、たとえば他国の王族からの縁談があってもまったく不思議ではない。ヴィクトールとライアンは最悪の男だったが、だからといって、他の男がマシだという保証は何もない。経験上年齢を無視してでもリュゼを求めるような野心の強い男は大抵碌なものじゃあないからな。


「もし何か困ったことがあれば俺に頼れば良い。特別料金でボディーガードでもなんでもやってやるさ。相手がしつこい野郎だったらぶん殴ってやっても構わないぞ?」


「ふふ、ファーガソン……ありがとう」


 とはいえ現実的には難しい。俺はリュゼの騎士ではないのだ。ずっと側に居て守ってやることは出来ない。それでも、リュゼに何かあれば何を置いても助けに駆けつけるくらいには大切に思っている。


 リュゼの明るく健気に振舞う姿を見ていると守ってやりたいと心からそう思うのだ。


「少しは元気になったか?」

「ええ、とっても元気になったわ。私、新しい目標が出来たの、そして、それを叶えるためには私自身がもっと強くならなきゃいけない。だから今は前を向いて頑張らなきゃ」


 あどけない紫水晶の瞳に燃えるような強い意志が宿って揺れる。


「新しい目標?」

「そうよ、とっても良いことを考えたの。でも今は教えてあげないわ。秘密よ」


 気にはなるが、リュゼが前向きになれているなら素晴らしいことだ。



「そういえば明日のピクニックも楽しみだな」

「そうなの!!! 私、ファーガソンのパーティメンバーになったのよ。ふふふ、世界最強になった気分だわ」


 世界最強か……そんなに期待されているならもっと強くならなければならないな。


 実際に何かあってからでは遅い、俺の手は二本しかない。もっと強く、もっと圧倒的に。


 大切な人を守れる力が欲しい。そのために俺は……冒険者になったんだ。




「え? 街で食事がしたい?」


 夕食はてっきり屋敷で食べるのだと思っていたのだが、リュゼの発した一言で、どうやら状況は変わりそうだ。


「そうなの、せっかくダフードに来たのにお屋敷の食事ばかりじゃつまらないでしょ? あ、もちろんマリア様には感謝しているし、食事もとってもおいしかったわ。でも、街の中で屋台を巡ったり、お買い物したり、庶民が楽しんでいるお店で注文したりしたいのよ!! ね、お願い、こんなことファーガソンにしか頼めないの」


 必死に懇願するリュゼ。


 たしかにつまらないだろうな。痛いほど気持ちはよくわかる。俺にとっては普通のことだが、ただグリフォンを焼いて食べるだけなのにとてもはしゃいでいた姿を思い出す。


「わかった。リュゼが街へ出れるように交渉してみよう」

「わあっ!! ありがとうファーガソン、大好きよ」




「なんだってっ!? リュゼノワール様が街で食事? そんなことは無理に決まっている」


 当然だがトラスたち護衛騎士団は首を縦に振らない。接触が限られている場所と混雑した人ゴミの中での警護、どちらが難易度が高いか考えるまでもないからだ。


「だがなトラス、リュゼには息抜きも必要だ。ここ数日眠れていないし、体調管理の観点からも必要なことだと思うぞ? ここダフードの街は安全だし、そばには俺やネージュも付いているから誰にも指一本触れさせやしない。念のため信頼できる地元の知り合いにも案内を頼むつもりだから、王宮の中よりもよほど安全だと俺の名にかけて保証する。それでもまだ心配だというのなら……遠くから見守っていれば良いだろう?」


 トラスが俺の実力を知っているからこそ交渉できるだけで、普通ならにべもなく断られてしまうだろう。


「……そうだな、わかった、我々も遠くから見守るという条件で許可しよう」


 トラスは真面目な男だから俺もあまり迷惑とか心労をかけるのは本意ではない。だが、守るべきリュゼの元気が無いのであれば、それはやはり巡り巡ってトラスの負担になるのだ。それにトラス自身が心からリュゼのことを気にかけているしな。


「ファーガソン殿だから許可するが、こちらで怪しいと思ったらすぐに介入する。それは許してくれ」

「もちろんだ」


 街中ではどうしたって死角が出来てしまうこともある。騎士団が周囲を警戒してくれていれば、怪しい連中がいたとしても近寄れないだろうからな。


「なあファーガソン殿」

「どうしたトラス?」


「ファーガソン殿に出会ってからのリュゼノワール様はよく笑うようになった。感謝しているよ」

「そうか? それなら嬉しいよ。リュゼにはずっと笑顔でいてもらいたいからな。今夜は協力して楽しんでもらおう」

「ああ、そうだな。私も微力ながら全力を尽くすつもりだ」

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