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第六十二話 悪女のマリア


「ご無事で何よりでした。その様子を見ると無事目的は果たせたようですね、ファーガソン様」


 ようやく公務を終えたばかりのマリアは少し疲れているように見える。俺が留守にしている間、悪徳貴族をはじめとしたならず者連中を一掃するためにろくに休みも取らずに昼夜問わずに奮闘していたのだとアリシアに聞いた。


「ああ、当面の脅威は無くなったと考えてもらっていい」


「そうですか……早速で申し訳ないのですが詳しい報告を聞きたいので、場所を移しましょう」


 これから話す内容は、最高レベルの機密情報なので公の場所では話すことは出来ない。セキュリティ強度が高く、誰にも聞かれないような場所、たとえばマリアの寝室は最適だろう。


 それに他意は無いが、疲れているマリアのことを考えれば、総合的に判断してやはり寝室という選択肢になるのは自然の流れではある。


◇◇◇


「そうでしたか……お姉さまのことはとても残念に思います。辛かったですねファーガソン様……」


 マリアの温もりにほだされてしまったのか、不覚にも涙が零れそうになる。


「ああ……だが消息がわかっただけでも幾分か救われたような気がしているよ。王都へ行ったら、姉上の埋葬された場所を探してみるつもりだ。たとえどんな手段を使ったとしても必ず……」 


 悔しいが、おそらくまともに埋葬されてはいないだろう。当時の関係者がどれほど残っているのかわからないが、絶対に知っている人間はいるはずだ。


 見つけ出したら俺が故郷へ連れて帰って、姉上の好きだった場所に立派な墓を建ててやりたい。それぐらいしか俺に出来ることは残っていないのだから。それに……可能であれば父上のことも調べよう。亡くなったことは間違いないが、姉上同様に埋葬された場所すらわからない。


「すでにアリシアから聞いているかもしれませんが、アンドレイ子爵とガイン男爵らの一味は現在身柄を拘束して軟禁状態にあります」

「連中、大人しく取り調べには応じているのか?」


「いいえ、今はまだまだ強気な姿勢は崩していないですね、おそらくはヴィクトール宰相が到着すれば解放されると思っているのでしょう」


 いい加減疲れたという様子でため息をつくマリア。


「ハハハ、それは大変だったな。だがヴィクトールが永遠に来ないと知ったら、連中どんな顔をするのかな?」

「まあ……ファーガソン様もお人が悪い。ウフフ」


 くすくす笑っているマリアだが、俺が手助けするまでもなく、すでに恐ろしいほど周到に手を回している。大人しく見えるのはあくまで表面上だけで、見た目で侮れば必ず後悔することになるだろう。絶対に敵に回してはいけないタイプの人間だ。


「マリア、お主ほどではないが」

「あら、そんな意地悪なファーガソン様にはもっと頑張ってもらいましょうね。なんたって私……悪女ですから」


 だが……味方にすればこれほど頼もしい相手もいない。


「やれやれ、勝てないなマリアには」

「やってみなければわかりませんわよ?」



 この後、たっぷりアディショナル・ファーガソンさせられたのは言うまでもない。



◇◇◇


 

「そういえば、明日アライオンの森へ行くのでしょう?」

「ああ、そういう話になっているみたいだな」


「私も一緒に参ります。以前から一度状況を視察しておく必要があると思っていたのです。メンバー的にこれ以上ない安全な状況ですし、ね」


 留守中に悪さをする勢力も現在拘束しているし、俺たちが同行すれば守りも万全だろう。多忙を極めるマリアの息抜きにもなるだろうから良いアイデアだと思う。


「わかった。マリアと屋敷の外に出かけられるなんて楽しみだな」

「はい、とっても楽しみですわ。ですが、リュゼノワール嬢はここ数日あまり眠れていない様子、この後会うのでしょうから、少し気にかけてあげてくださいませ」


 リュゼが眠れていない? それは良くない。なんといっても成長期だ。


◇◇◇


「ネージュ、約束のブツだ」


 出発前に約束していた俺の下着が入った皮袋を手渡す。


「ほほう!! 中身を確認させてもらっても?」

「……構わないが気を付けろよ?」


 なにせ風呂も入らない状態で数日間動き回っていたからな……体臭は強い方じゃないが、かなりヤバいとは思う。


「ふふ、私を誰だと思っているのです? ちょっとやそっとでは――――はうっ!?」


 膝から崩れ落ちるネージュ。馬鹿野郎、いきなり鼻から突っ込むなんて自殺行為だ。


「だ、大丈夫か?」

「は、はぁっ……だ、大丈夫……れひゅ……」


 どうみても大丈夫ではない。尋常じゃないほど顔が赤いし発汗もすごい。全身がガクガク震えていて、立つこともままならない様子だ。


「今すぐそのブツをしまうんだっ!! 危険すぎる!!」

「も、申し訳……ち、力が入らな……」


 ちっ……止むを得ん。


 ネージュに体当たりをして危険なブツを奪い返す。


「とりあえずしまっておくぞ?」


 袋の口をきつく縛り直しておく。


「は、はひ……助かりました。まさかここまでだとは……」

 

 そんなに臭かったのか……ちょっとショックだ。


「い、いえ、違うのです!! 臭くは無いです!! むしろ良すぎて意識が飛びそうになっただけで……」


 恍惚とした表情でうっとりとしているネージュ。


 良い匂いなのか……その感覚はよくわからないが、獣人は鼻が良すぎるから色々と大変だな……。



「そういえばマリアからリュゼがあまり眠れていないと聞いたが大丈夫なのか?」


「ああ……実はですね、お嬢様は元々あまり眠れていなかったのです。悪い夢をみてしまわれるようで、眠りも浅く、小さな物音でも目が覚めてしまいます。これまで何度も寝込みを襲われたことがありますから、そうなってしまったのも仕方がない部分もあるのですが……」


 悔しそうに俯くネージュ。お前のせいではないと言ってやりたいが、慰めにはならないだろう。


「ファーガソン様が出発されたあの日も、目覚めてからファーガソン様が居ないと随分泣いてらっしゃいました。宰相閣下とのお見合いを控えて不安だったのでしょうね……」


 くそ……余計な心配をさせないように何も告げずに出発したのは失敗だったか。自分の判断の甘さに腹が立つ。


「早くリュゼに会って安心させてやりたい」

「はい、ぜひそうしていただきたいのですが……」


「どうした?」

「歩けないのです」


 そういえばそうだったな。


「ほら、行くぞネージュ」

「はうっ、あ、ありがとうございます」


 ネージュを抱き上げ肩に乗せる。


 今行くから待ってろよ……リュゼ。

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