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第四十六話 違いがわかる男 ファーガソン


「……姉上、ここで何をしているんだ?」



 え~と……口ぶりから察するに、今部屋に入って来たのが本物のエリンで、今まで俺と話していたのがフリンってことだろうか?


「あら、貴女が忙しそうだから代わりにファーガソンの相手をしておいてあげようと思っただけですから、御礼は要らないですよ」


 これはヤバいな、修羅場になってしまいそうだ。それにしても、口調を真似されると本当にわからん。


「まったく……私が激務に振り回されているというのに貴女という人は……」


 止めに入った方が良いのかもしれないが、かえってこじらせそうな気もする。


「そういう自由なところ大好きだぞ姉上!!」

「はい、私もお仕事に一生懸命なエリンが大好きですよ」


 ……あれ? まさかの仲良し!?



「ははは、驚かせてしまったね。私もたまにフリンと入れ替わったりしているからね。気分転換は大切だし」


 なるほど……似た者姉妹ということか。まあそれで上手く組織が回っているなら俺がどうこう言う必要ないだろう。


 問題は――――


「すまん、口調まで同じにされると本当にどっちがどっちかわからん」


 いつでも入れ替われるように、同じ服やアクセサリーを持っているらしい。今日なんて服装だけじゃなく髪型まで同じだからな。

 


「大丈夫だよファーガソン。今度こそ間違えないようにしっかりと味わってもらうから」

「そうね、この際だから違いを叩きこんであげなきゃね」


  

◇◇◇



「どう? 二人の違いわかった?」


 二人の期待するような視線が痛い。


「すまん……あと少しで掴めそうなんだ。もう一度良いか?」


「ふふ、仕方ないね、めちゃくちゃ忙しいんだけど付き合ってあげるよ」

「はい、ファーガソンが満足するまでお付き合いしますよ」


「俺が言うのもなんだが、二人とも仕事は大丈夫なのか?」

「「優秀な補佐がいるので大丈夫!!」」   


 ……補佐の人たちに何かご馳走してあげたい。



◇◇◇



「やった……ついにやったぞ……」


 おそらくは本人たちですら気付いていない違いを発見した。


「本当か!! でかしたぞファーガソン!!」

「嬉しいです、ファーガソン」


 二人によれば、実の両親ですら見分けがつかなかったらしい。


 入れ替われるのは便利ではあるものの、本当の意味で自分を認識してくれる人が現れることを夢見ていたんだろう。抱き合って嬉し泣きする姉妹。



「あー、喜んでいるところ言い難いんだが、俺も外見で見分けられるわけじゃない」


「え……?」

「は……?」


 露骨にガッカリされると可哀そうになるが、本当に外見に違いが無いんだ。これはもう美の女神エスフィアの悪戯としか思えない。


「それじゃあ、どうやって私たちを見分けるんだ?」 


 エリンが不思議そうに首を傾げる。


「まあ……その、なんだ。人前ではちょっと無理な場所を触らないとわからん」


 一瞬二人はポカンとしたが、すぐにニマニマし始める。


「へえ……それは確認する必要があるね」

「そうですね、知っておかなければならないです」


 

 結局、一回じゃ偶然かもしれないからと、十回もテストさせられた。


 途中から目的が変わっていたような気がするが、きっと気のせいだろう。



 おかげで世界で唯一二人を見分けられるという称号を手にしたが、『違いがわかる男』か……無駄にカッコいいが使い道無いな。



◇◇◇



「そういえば盗賊団の件、調査が進んでいないようだな?」


 すぐにでも背後にいた貴族連中を拘束する勢いだったが、ここ数日動きが無い……


 白亜亭に対する嫌がらせも気になっているし、出来ればこの街に滞在している間に安心したかったんだが。


「ああ、その件か。実は肝心のタイミングでとんでもない大物が動いてね。そのせいでこちらも身動きが取れなくなってしまったんだ」

「とんでもない大物? 黒幕の親玉じゃなのか。何者だエリン?」


 先日入手した情報では、黒幕のリーダー格は子爵家だった。


 マリアは伯爵で領主だ。自領内のことに外から他の貴族が口を出すことは難しいはず。


 となると相当格上の存在となるが――――



「ヴィクトール=ロワ=グランシャリオ、王弟がこの街へやってくるのです」


 フリンの言葉に思考が止まる。まさか……ここで奴の名前を聞くことになるとは……な。


 血が沸騰しそうなほど脳に逆流してくるのがわかる。ぐっと歯を食いしばり何とか感情を抑え込んだ。



「どうしたんだファーガソン? 顔色が悪いぞ」

「……大丈夫だ、エリン。ということは今回の件には王弟ヴィクトールが関わっていたということか?」


 もしそうなら、王国全体の問題になってしまう。


「いや、その件とは関係ない。もしかしたら何らかの繋がりはあるかもしれないが、直接の関与は無いと考えている」

「どういうことだ? なぜ関係ない人間の動きで捜査が中断させられるんだ?」


「それはですね、お見合いです」

「……お見合い?」


 まったく話が見えて来ないな。


「まさかと思うが、マリアとヴィクトールが見合いをするわけじゃないよな?」


 まさかと言いつつ、あり得ない話ではない。受け入れられない気持ちがそう言わせただけだとわかってはいる。


「その方がまだ理解できたかもしれないけど、違う。ヴィクトールが見合いをする相手は――――リュゼノワール公爵令嬢だよ、ファーガソンも良く知っているあの子だ」


 今度こそ完全に思考が止まった。エリンが何を言っているのか、聞こえてはいるし意味も分かるのだが、脳が理解するまでに時間がかかってしまうほどに。



「……は? 何言ってるんだエリン、リュゼはまだ十三歳だぞ? ヴィクトールは宰相としては若いが四十を過ぎた中年だ!!」  

「そう言いたい気持ちはわかるけど、私に言われてもね。世間一般的に家柄としては釣り合いがとれているし、政略結婚としてなら珍しくもないだろう? 実際に結婚するのは成人してからだとは思いたいけどね」


 エリンの言う通りだ。貴族同士の結婚は、あくまで家同士の繋がりを深めたり維持することを目的に行うことが多い。そのため一緒に住まず、互いの領地を往来するケースもあったりするし、人数や年齢の制限も極めて緩い。当人同士の意向よりも政治の状況によって決められる。特に高位貴族の場合、その傾向が強い。


 リュゼでなければ可哀そうにとは思うものの、ここまで心が乱れることは無かっただろう。


 相手がヴィクトールでなければあるいは祝福出来なくとも、幸せを願うことくらいは出来たかもしれない。


 

 運命の女神トレースよ……貴女は俺に何を期待しているんだ。なぜこんな巡り合わせを用意した?


 俺は――――絶対に奴を――――ヴィクトールを許さない。

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