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第四十五話 ダフード帰還


 ダフードの街は大騒ぎとなった。

 

 それはそうだろう。街の近くにグリフォンが出現しただけでも大変な事件だ。


 街に運び込まれた巨大なグリフォンを一目見ようと黒山の人だかりが出来る。まるで凱旋パレードのような光景が広がる。


 一生のうちに本物のグリフォンを見ることが出来る人間など、冒険者や騎士を含めてもごく一部しかいないから当然か。


 俺たちが食べるために捌いてしまったので、完全体ではないものの、十分その異形を堪能することが出来たと思う。サムも初めて見たと大興奮していたし。


 グリフォンは解体はせずに防腐処理を施した後、ギルドでオークションにかけられることになった。


 通常なら解体して部位ごとに取引されることが多いのだが、グリフォンは希少で高位の魔物というだけではなく、飛躍、発展、繁栄といった縁起物として人気が高い。全身の剥製を飾りたがる貴族や商人が多いため、部位でばらすよりも高く販売できるメリットがあるからだ。


 当然、俺もそのことを知っているので、肉は食べたが、皮はもちろん羽一枚捨てずに回収している。


 最終的にどのくらいで落札されるかはわからないが、この辺りではグリフォンは貴重なので、ギルドでは最低入札価格を一億シリカに設定するそうだ。残念ながらオークションが開催される頃にはこの街を発っているので、ギルドの手数料を差し引いた金額が後日入金されることになる。もちろんそのうち半分はリュゼたちの取り分だ。


 どこの誰がグリフォンを仕掛けたのかについては、秘密裏にギルドでも調べてもらっている。竜の卵の取引記録が残っていれば有力な手掛かりとなるかもしれない。


 結果的には暗殺計画は失敗し、怪我人は出たものの、死者は出ていない。加えてグリフォンの落札で大儲けしているなどとは想像もしていないだろう。ざまあみろだ。




 そしてリュゼたちについてだが――――


 大勢の騎士たちが重傷で運び込まれたことで、どこかの貴族が襲われたという事実は隠しようがないが、領主のマリアとギルドマスターエリンの気転でリュゼの素性に関しては最高機密事項として伏せられている。安全のためにも情報が伝わるのを少しでも遅らせることが重要だからだ。 


 


「ファーガソン……世話になったわ。それに……とても楽しかった」


 リュゼは領主であるマリアの屋敷に滞在することになっているので、機会があればまた会えるかもしれないが、ここで一旦お別れだ。


「ああ、俺も楽しかったよ、リュゼ。マリアは信用できる人物だ、困ったことがあれば何でも相談すると良い。きっと助けになってくれるはずだ」


「わかった。そうするわ」

「うむ、では元気でな。ネージュもリュゼを頼んだぞ」


「そんなことわざわざ言われるまでもありません。ですが……貴方は信用できる人だとわかりました。だから……お任せください、ファーガソン様」


 別人のように態度が変わったネージュ。多少は信用してもらえたと思って良いのかな。


「……デレたわね」

「そうなのか?」

「で、デレてませんっ!?」


「ネージュがこんな短時間でここまで心を許したことなど一度も無いわ。さすがね、ファーガソン」


 いや、それは単純に信用できる人物が居なかったということなんじゃないか? そう言ってもらえるのは嬉しいが、やはり複雑だ。


「ファーガソン様、お嬢様も他人事のように仰られておりますが、私以上にガードが固いお方ですからね。驚いているのは私の方です」


「ファーガソンは特別なのよ」


 特別か。もっと増えると良いな、リュゼの特別な人たちが。


「ファティアも特別な友だちよ」

「えええっ!? わ、私もですか? あ、ありがとうございます、リュゼさん」


「ファティア、友だちにありがとうは必要ないのよ? そこは嬉しいで良いの」

「な、なるほど、私、友だちがいないから勉強になります!!」


「泣いて良いかしら?」

「えええっ!? どうして泣くんですか? 私変なこと言いましたかっ!?」


「あははは、いいえ、言ってないわ。私も友だち居ないから嬉しくて悲しくて泣きそうになったの。じゃあまたね! ファティア、ファーガソン」


「はい、また」

「ああ、またな」


「ちょっと待ってください」

「どうしたネージュ?」


「あの……ファーガソン様の破れた服ですが、私、裁縫は得意ですのでよろしければ修繕いたします」


 ああ……ネージュの爪でビリビリになったアレか。意外と気にしていたんだな。


「いや、安物だしどうせ捨てるつもりだったから気にするな」


 トドメ刺したのは俺だし。


「そうですか……それではその服をいただいても?」

「構わないが何に使うんだ? 背中スース―するぞ」


「ひ、秘密です」


 気になるが言いたくないこともあるだろう。


 ネージュに服を渡すと、耳や尻尾が激しく揺れている。めちゃくちゃ喜んでいるが、こんなもので申し訳ない気がしてしまう。


「あのね、ネージュったら、きっと寝床で使うつもりよ。獣人だから好きな匂いに包まれて寝るのが幸せなの」


 俺の匂いが好き? ネージュに限ってそれは無いと思うが……


「お、お嬢様っ!? な、なんでバラしてしまうんですかっ!?」

  

 どうやら本当らしい。嬉しいがそれはそれで恥ずかしい。



◇◇◇



「それでファーガソン、グリフォン討伐に公爵令嬢救出とは……ずいぶんと派手にやってくれたものだね?」


 エリンがこめかみを抑えて苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。この件で冒険者ギルドは大騒ぎだからな……俺のせいではないんだが、迷惑をかけているのは事実。


「リュゼの件は大変だったな。グリフォンも回収チームを派遣してくれたから助かったよ」


「ああ、それは気にしないで良いんだ。幸い被害は出ていないし、ダフードにとってはプラスしかない。そんなことより、ファーガソン成分が足りないんだ、早く補充させてくれ」


 なるほど、それで機嫌が悪かったんだな。



「今からそんな調子で俺が居なくなったら大丈夫なのか?」

「まったく君は酷い男だ。私は今を全力で楽しむことにしているんだから未来のことは言わないで欲しいね」 


「それはすまなかった。好きなだけ補充すると良い」

「やーん、エリン嬉しい~!!」


 バーン!!!


 いきなり部屋の扉が開いてエリンが入ってくる。


 え……? エリンが二人。まさか……

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