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最強冒険者のグルメ旅 ~据え膳も残さずいただきます~  作者: ひだまりのねこ


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第四十話 お嬢様と侍女


「ファーガソンさん!!」


 戦いが終わると、ファティアが満面の笑みで駆け付けてくる。


「怪我はないか? 出来るだけそっちに行かないように注意はしたんだが……」


 風圧が凄かったから飛ばされたモノで怪我をしてしまう可能性も十分あった。だからこそ翼をコントロールしてなるべく馬車から離れた場所へ誘導したんだが……


「はい、騎士の方々がしっかりと守ってくださっていたので大丈夫です」

「そうか、それなら良かった」


 ちゃんと約束を守ってくれたんだな。どうやら本物の騎士だったようで安心したよ。 



「まさか本当に倒してしまうとは……お見事でした、ファーガソン殿!!」


 トラス隊長は、いち早く倒れている騎士たちの手当てを始めている。まともに動けるのが騎士二人だけなので手が足りない。優先順位をつけるためにファティアと手分けして傷の程度を確認してゆく。


「何度か倒した経験があるのでな。勝利よりも馬車を守れたことにホッとしているよ」


 実際、負けることは考えていなかったが、馬車を無傷で守れるかは半分賭けの部分もあったからな。


「なんと……!? グリフォンを何度も……さぞや名の知れた冒険者殿であろうが……」

「トラスさま、ファーガソンさんは白銀級冒険者なのですよ」


「な、なんと、白銀級とは……それならば納得ですな。いや、我々は実に運が良かった」


 白銀級と聞くと大抵のことは納得してもらえるので楽と言えば楽なのだが、伝え聞く勇者のように何でもできるわけでもない。実際に戦闘が得意ではない白銀級も存在する。俺も魔法はからっきし使えないから得意不得意はもちろんある。物理攻撃があまり効かない相手と対策なしで戦うことになれば、最悪死に直結するからリエンのような魔法使いが仲間に居ると安心感が段違いだったりする。


 よく冒険者と騎士のどちらが強いのかと聞かれるが、騎士と冒険者は強さの質が違う。騎士は集団戦闘を想定しており、規律と戦術を駆使して巨大な魔物や、敵軍を殲滅する。


 一方の冒険者は、個人の才能を生かした単独戦闘がベースになっている。才能があればあるほど稼ぐことが出来るので、一般的には上位になるほど冒険者の方が強い。


 逆に、厳しい訓練と教育を受けている騎士は平均レベルが高く、冒険者百名と騎士団百名では圧倒的に騎士団が強いのだ。まあ俺のような上位冒険者となると一概には言えないが。



「トラス殿、じきにダフードから救援が到着する。それまでは何としても持たせるぞ」


 せっかく最大の危機を乗り越えたのだ。ここで死なせてしまっては寝覚めが悪い。


「すまぬ、この礼は必ずや……」


 深々と頭を下げるトラス隊長。騎士の中には傲慢で横柄な人間も少なくないが、彼は中々の人格者のように感じる。ファティアのことも身を呈して守ってくれた。


「気にするな、困った時はお互い様だ。それより思ったよりも重傷者が多いな……薬はこれだけしかないのか?」 


 人数に対して物資が圧倒的に足りない。俺もファティアも何も持ってきていないのだ。


「ああ……まさかこんなところで不覚をとるとは思わず、ダフードで物資を補充する予定だったのだ」


 まあこれに関してはトラス隊長を責められない。戦地へ赴くならともかく、王国内でも特に安全で整備された街道間の移動だ。野戦病院化するなんて想定していないし、出来るわけがない。通常は万一の時の医薬品を常備する程度で、スペースがあるなら食料や水などを充実させるのが当然だ。


 俺たちだって、武器以外ほとんど手ぶらでここに来ているくらいだからな。



「状況はわかった。ファティア、悪いが使わせてもらっても良いか?」

「はい、イシャイラズタケですよね? すぐに用意します!!」


 ファティアは手早く採集袋の中からピンク色のキノコを取り出して、ヘタを外し、食べやすい一口サイズに切り分ける。


「トラスさま、これを手分けして皆さまに食べさせますよ。食べられない重傷者には、口に入れて嚙ませるようにしてください。汁だけでも十分効果はありますから」


「イシャイラズタケ!? そんな貴重なものを……わ、わかった、今は厚意に甘えさせてもらう」


 イシャイラズタケは、強力な治癒効果を持ち、上級ポーションの原料の一つにもなるキノコだ。


 精製されたポーションほどの即効性はないが、応急手当として止血や軽い傷程度なら問題なく効果を発揮する。後はダフードに行って手当を受ければ助かる可能性は高いはず。



 それにしてもタイミングが良かったな。俺たちがキノコを採集する前だったら騎士たちも手遅れになっていた可能性が高い。


 まさか……これも運命の女神トレースの仕業? はは、考え過ぎか。




『お、お嬢様、お待ちください!! 外は危険です!!』

『何を言っているのネージュ、私たちも手伝うわよ』


 先ほどから馬車の中で何やら揉めているのは聞こえていたが、どうやら『お嬢様』とやらが出てくるようだ。

   


「貴方が助けてくださった冒険者さん?」


 馬車から降りてきたのは、十代前半くらいの女の子。お嬢様には似つかわしくない、動きやすそうな町娘風のワンピースを着ている。


 だが、彼女が現れた瞬間、周囲の明るさが変わったと錯覚した。


 輝くような銀色の髪は一本一本が銀糸のようで、くりっとした大きな瞳は紫水晶のようだ。間違いなく数年後には絶世の美女になるであろうことは誰にでも明白で、薔薇のような唇から紡がれる声は宮廷音楽のように雅やかで澄んでいる。


挿絵(By みてみん)


「ああ、俺は白銀級冒険者のファーガソンだ。怪我はなかったか?」



「おい、そこの冒険者!! お嬢様に向かってなんだその口の利き方は!? 噛み殺すぞ?」


挿絵(By みてみん)


 おいおい、なんだか物騒な侍女だな。ほう……獣人か。それも黒豹とは珍しい。


「……ネージュ、ちょっとこっちに来て」

「はい、お嬢様、ぶへあっ!?」


 ぱあん、と乾いた破裂音が鳴り響く。


 頬を引っ叩かれた侍女はそのまま数メートルほど飛ばされて動かなくなった。


 ……怖っ!? お嬢様すごい怪力だな。


「ネージュ、命の恩人に向かって何という……無礼なのは貴女の方だわ!! って、聞いてるのネージュ?」


 いや……お嬢様? ネージュは気を失っているからたぶん聞いてないぞ。

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