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第四話 囚われの少女と若き料理人 伝統料理のパティを添えて


「この先で馬車が襲われているぞっ!?」


 前方を担当している冒険者の声に、隊商は馬車を防壁にした守備体系をとる。 


「アリスターさん、こちらに火の粉が飛び移る前にちょっと潰して来てもいいかな?」

「ファーガソン殿、構いませんが無理はしないでくださいね?」

「大丈夫、無理はしない」


 持ち場を離れる許可をもらって、襲われている馬車を目指す。


「あれは……盗賊だな。護衛はいるようだが、多勢に無勢だな」


 最後の護衛が倒されたのが見える。


 馬車の御者と主らしき人物が逃げ出したが……ありゃあ逃げきれないだろうな。



「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


 大きく息を吸い込んで雄たけびを上げる。こちらに注意を引き付けて、少しでも時間を稼げれば良いんだが。



『な、なんだ? 驚かせやがって、たった一人で何が出来る』 

『殺せ、なかなか良い装備を持っているじゃないか』


 全員とはいかなかったが、半数くらいは釣れたか。


『ぐへあっ!?』

『へぎょっ!?』

『ぐあっ!?』

『うぐっ!?』


 走る速度はそのままに、すれ違いざまに切り伏せる。 

 

『やべえ、コイツ、強いぞ!?』

『焦るな、所詮一人、囲んで疲れさせれば――――ぐへあっ!?』


 はっ、囲ませるものかよ。逆だ、一人も逃がさない。ここで殲滅してやる。


 馬車を襲っていた連中もこちらに向かってくる。思ったより強いので一気に人数で押しつぶすつもりなのだろう。


 すっかり周りを囲まれて押しつぶされそうになる。 


 待っていたぞ――――この瞬間を!!


 

 背中に背負った背丈よりも長い大剣を一閃。盗賊どもの屍が山となる。


『う、うわああ!? に、逃げろ』


 怖気づいた残りの盗賊が逃げようとするが――――


「逃がさねえよ」


 落ちている盗賊の武器を投擲して倒してゆく。



「お前は殺さない。洗いざらい喋ってもらうぞ?」


 最後の一人は情報を吐かせるために捕縛する。



「馬車の持ち主は……やはり助からなかったか」


 倒れている男はすでに事切れていた。


 身元を示すものはないかと懐を探ると、積み荷のリストと、鍵が見つかった。



「こいつ……違法の奴隷商人だったのか」


 ある意味盗賊よりも質が悪い連中だ。盗賊に襲われてざまあとまでは思わないが、悪いことは出来ないということなのだろう。



 シートに覆われた荷馬車の中には、檻に入れられた女、子どもたちが身を寄せ合うように震えて固まっていた。奴隷商人に捕まって盗賊に襲われるなんて……さぞ恐ろしい思いをしただろうな。


「もう大丈夫だぞ。悪い奴らは俺が倒したからな」


 出来るだけ怖がらせないように、笑顔を意識して……


 それでも檻から出てこようとする者は居ない。警戒するのも無理はないか。  


 ただし一人を除いて。


「お兄さん、私、お腹空いたんですけど」


挿絵(By みてみん)


 かわいそうにろくに食べ物すら与えられていなかったのだろう。少しやつれて疲れたように見える女性。気になるのは見たこともない不思議な服装、異彩を放つ漆黒の黒髪。言葉は通じるようだが、少なくともこの国の人間ではなさそうだ。


「安心しろ、食べ物はあるからな。俺はファーガソン。キミは?」

「私は千早よ」

「チハヤ? 変わった名前だな。外国人か?」

「うーん、ちょっと違うけど、似たようなものかも。そんなことより、はやくご飯!!」 

「ゴハン? ああ……食事のことか。わかった、すぐに用意できるように交渉してくる」



「――――というわけで、彼らに食事を与えたいんだが」

「もちろんです。盗賊の次のターゲットは間違いなく私たちでしたからね。それを殲滅してくれたファーガソン殿の働きに応えるのは当然でしょう。今回、腕の良い料理人が同行しておりますので、少し早いですがお昼にしましょう」


 アリスターさんが話の分かる雇い主で良かった。


 

 しばらくして、大鍋から良い匂いが立ち上ってくると、肉や野菜が煮込まれたスープと薄焼きのパンが皆に配られる。 


「草原の民が好んで食べる伝統料理パティです。どうぞご賞味あれ」


 驚いたことに、料理人はまだ若い女性。水色の髪はこの辺りでは珍しいが、南方に住む海の民なのかもしれない。


「うむ……美味い!!」


 素朴ながらしっかりと香辛料で味付けされたスープがゆっくりと胃袋をほぐしてゆくようだ……。


 固い薄焼きのパンに具材を挟んで食べても良し、スープに沈めて柔らかくして食べれば尚良しだ。


「…………」


 隣で一心不乱に食べ続けるチハヤ。余程お腹が空いていたのだろう。


「チハヤ、いきなり食べ過ぎると身体に良くないぞ。今はそのくらいにしておいた方が良い」


 胃袋が小さくなった状態で一気に食べると危険だからな。


「むう……わかった」


 仕方なさそうにスプーンを置くチハヤ。


「シトラ水です。すっきりしますよ」


 水色髪の料理人がチハヤにシトラ水を手渡す。


挿絵(By みてみん)


「ありがとう。えっと貴女は?」

「ファティアです。お味はどうでしたか?」

「ファティア……私は千早よ。そうね……とっても美味しかったんだけど、ご飯が欲しくなっちゃった」


 またゴハンか。おそらくはチハヤの国の食べ物なんだろうが、そこまで言われると食べてみたくなるな。


「ゴハン……? チハヤ、もしかしてゴハンってオコメのこと?」

「えええっ!? ファティアお米のこと知っているの?」


 オコメ……聞いたことがないな。一体どんな味がするんだろう?


「はい、実は私、オコメを探して旅をしているのです」

 

 ファティアの腕前は相当なモノだった。そんな彼女が旅に出てまで探し求めるオコメ……気になり過ぎる。


 何やらオコメの話で盛り上がっているチハヤとファティア。


 ずっと聞いていたいところだが、仕事に戻らなければな。

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