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第三十九話 グリフォンとの戦い


 ゴウッッ!!!! 


 護衛の騎士たちも決死の覚悟で馬車を守ろうとしているが、圧倒的なグリフォンの羽ばたき一つで体勢を崩されてしまう。剣や槍を地面に突き刺して何とか耐えてはいるが、掴まるところや遮蔽物の無い開けた場所でグリフォン戦うのはまさに悪夢としか言えない。


 馬車の影から弓を使って抵抗も試みてはいるが、飛翔中のグリフォンは風のベールに守られていて矢の威力は相当に弱められてしまう。上手く当てられたとしても、丈夫な羽毛や皮膚に跳ね返されて終わりだ。


 決め手がないまま防戦一方の展開、このままでは長くは持たないだろう。


「悪いファティア、一瞬降ろすぞ」

「は、はいっ!?」


 駄目だ、到着まで間に合わない。


「うおおおおおおおおおおお――――」


 落ちていた石を拾い、全力で投擲する。 



 ブオンッッっ!!!


 唸りを上げながら大気を切り裂くように飛んで行った石は、見事にグリフォンの側頭部に命中し、爆散する。


『ギャウンッ!?』


 的がでかいのでどこでも良いから当たってくれればと思ったが、良い場所に当たってくれた。


 さすがに思いもよらぬ方向からの打撃は痛かったのだろう。あるいは単に警戒しただけかもしれないが、ダメージはともかくグリフォンは一旦空中へと舞い戻る。なんとか時間を稼ぐことは出来たか。


「ファティア」

「はい!!」


 片手でファティアを拾い上げ、馬車の元へ一気に駆け付ける。



 

 現場は凄惨な状況だった。護衛の騎士はすでに大半が倒れていて、立っているのはわずかに二人。戦力的にはほぼ壊滅したと言っても良い有様だ。


 立っている二人のうち、おそらくは護衛騎士のリーダーだと思われる男に話しかける。


「大丈夫か? 冒険者のファーガソンだ。助太刀しよう」


「おお、冒険者か……? 私は護衛隊長のトラス、助力感謝する。先ほどの投擲は貴殿が?」

「ああ、だが話は後だ。まずは奴を片付けないとな」


 グリフォンは一旦上空まで駆け上がった後、上空から猛烈な風のプレッシャーで獲物を地面に押し付けて身動きが出来ないようにしてから再び勢いを付けて襲い掛かってくる。向こうも次で決めるつもりだろう。


「無茶だ、相手はグリフォンなんだぞ? 頼む、我々が時間を稼ぐから馬車を街へ!!」


「無理だな。この風圧の中では馬車は動かせない。仮に動かせたとしてもここからでは間に合わない。それに――――あのグリフォンが狙っているのはどうやら馬車のようだぞ?」

「しかし――――」


 絶望の表情を浮かべる騎士たち。


「大丈夫だ、任せろ。その代わり俺がヤツと戦っている間、この子を守ってやってくれ」


「承知した、貴殿に戦の女神イラーナの加護があらんことを」


 ファティアを騎士に預けて馬車の前に立つ。



「大丈夫ですよ騎士さま」

「え?」


「ファーガソンさんはと~っても強いですから――――」


 聞こえているぞ、ファティア。



 ゴウッッ!!!


 風圧で車輪が軋み、馬が悲鳴を上げる。上空から狙いを定めて降下してくるグリフォンの影が次第に大きくなり馬車を覆い尽くす。


 その弓を通さない幾重にも重なる羽毛と体毛に覆われた巨体は、馬車ごと易々と持ち上げられるほどの怪力。上空からの加速が加わった推進力は、堅牢な城壁すら破壊するほどの威力を持つ。並大抵では止められない。


 さすがは災害級と恐れられることはある。たいした迫力だよ。

 

 だが――――


「たしかに厄介ではあるが――――それでも」



 ――――来る場所が予測出来るならただの的だ。


 馬車の上に立ち剣を抜く。


『キョエアアアアアアア!!!!』


 迫るグリフォンの耳をつんざくような声、


 馬鹿だな……教えてやるよグリフォン。



 威嚇ってのはな……たいてい弱い方がするもんなんだぞ。 



「せいっ!!」


 迫るグリフォンめがけて剣を投擲する。これ以上接近されると馬車を守り切れない。


『ギャアアア!?』


 威力よりも命中させることに集中して投げつけた剣は、グリフォンの分厚い鱗を貫通し胸元に深々と突き刺さる。いくら頑丈でもその加速なら十分刺さるんだよ。


「おおっ! やったか!?」


 騎士の一人が歓声を上げるが――――まだだ。


 この程度では致命傷にはならない。噴水のように血を噴き出しながらも、グリフォンは翼をばたつかせながら体制を立て直すために急減速する。


 俺が狙っていたのはこの瞬間だ。


「ふんっ!!」


 減速してしまえば捉えるのは難しくはない。馬車の屋根からグリフォンの前脚に飛び掛かり、そのまま全力で身体を回転させる。


 ――――転!!!


 完全に力技だが、グリフォンの体勢がグルんと回転し、上下反対になる。大幅に減速していたこと、怒りと痛みで我を忘れていたことも助けになっている。


「――――落ちろ」


 バキョッ!!!!


『ギョエエエエ!!!?』


 素早く翼にしがみつき、その一翼を全力でへし折る。グリフォンの翼は、その身体に比べれば強度はそこまででもない。単純にここまで到達するのが至難なだけだ。


 間髪入れずに二翼目、三翼目をへし折る。


 四枚ある翼を三枚失えば、さすがのグリフォンも飛行能力を失う。


 ズガアアアン!!!


 グリフォンの巨体が大地に叩きつけられると、地面が大きく抉れ、大きなクレーターが出来る。


『グルルルルルル……』


 それでもなおグリフォンは立ち上がろうとする。飛行能力など無くとも、圧倒的な強者であることは変わらない。むしろ追い詰められた猛獣は危険極まりない。 


 地面に激突した時に軽い脳震盪でも起こしたのだろう。ふらふらと起こそうとした頭部を、下から突き上げるようにぶん殴る。


 右――――左――――殴打殴打殴打!!!!!!!


『ギ……ギギギ……』


 ひたすら動けなくなるまで打撃を加えて――――


「むんっ」


 胸部に突き刺さったままの剣を引き抜き―――― 


 

 ザシュ――――!!


 最後は頭を落として――――討伐完了。



「死と再生の女神ハイリルよ、猛々し魂に安寧を」


 魔物とはいえ、命には変わりはない。もしここが人里離れた辺境だったら、俺は間違いなく戦うことはなかっただろう。


 空の王者よ――――せめて生まれ変わるその時まで、安らかに眠ってくれ。

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