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第三十七話 食材を採りに森へ行こう


「だいぶ時間が余ってしまったが、この後どうする? 出来そうならチハヤたちと合流しても良いし、市場で食材を見ても良いが」


「あの……実はサムさんに聞いたんですけど、この街の近くの森で貴重な食材が採取できるらしいんですよ。良かったら下見がてら採りに行きませんか?」 


 ほお……それは面白そうだ。


「それは興味深いな、じゃあちょっと行ってみるか」

「やった!! じゃあ早速準備して向かいましょう」 



「え? アライオンの森へ行くんですか? もし良い食材が採れたらギルドよりも高く買い取りますので、ぜひ!!」

「わかった。ただ今日は下見の予定だからあまり期待しないでくれ」

「もちろんです。一つでも構いませんからお待ちしてます!!」


 儲かりそうな話だと熱意がすごいリリアから採取用の背負い袋を購入して街の出口に向かう。

 

「なあファティア、そんな美味しい場所が街の近くにあったら、普通に考えてすぐに採り尽くされてしまっていそうなものだが?」


 通常貴重な食材は人里離れた難所に足を運ばねば見つけることは困難だ。当然時間も手間もかかるし、何よりも大きな危険が伴う。ちょっと時間が空いたから、なんてノリで行けるのなら、あっという間に冒険者たちに採り尽くされているはずだ。


「それがですね……強力な魔物が住み着いているせいで、一般人はもちろんですが、銅等級未満の冒険者についても森への立ち入りが禁止されているらしいんです」


 なるほど……そういうことか。


 しかし銅等級以上か……銅級以上の冒険者は、全体の三割程度しかいないと聞いている。地域差はあるが、ここダフードでも似たようなものだろう。

 

 つまり、俺たちが向かっている森は、いわゆる中級以上の危険度ということになる。とてもじゃないが、気楽に行ける場所ではないな。ファティアが話を聞いたサムだって等級が不足しているので当然入ることは出来ない。


 その意味では冒険者登録したばかりのファティアも同じだが、ギルドでパーティ登録をしているので白銀級の俺が一緒であれば問題なく入ることが出来る。これもまたパーティ登録のメリットの一つだ。



「ところでその強力な魔物とやらの種類はわかるか?」

「聞いた話だとマダライオンらしいですね」


 マダライオンか……深い森に生息している獰猛な魔物だが森から出てくることはまず無い。街道や流通への影響は限定的だから、高い報酬を負担してまで積極的に討伐しようと依頼を出す者はまず居ないし、高位冒険者にとっては入場制限があることで安定した稼ぎになる。森の資源管理の観点からギルドにとってはむしろ居てもらった方が有難いまであるだろう。


 仮に立ち入り禁止を無視して立ち入って被害が出たとしても自己責任で自業自得と言われるだけでギルドの責任は問われない。


「わかった。その程度なら脅威にはならない。今日は場所の確認と下見程度にして、良さそうな場所なら明日皆で採りに行っても良いかもしれんな」

「さっすがファーガソンさん、頼りになります!!」



「ファティア、あれがその森か?」

「はい、間違いありません」


 街を出てすぐ、遠くに目的の森が見える。街道から逸れること目測だと徒歩三十分程度の距離だ。


「本当に近いな。よし、乗れファティア」

「えええっ!? い、良いんですか? ありがとうございます」


 ファティアを肩車して走り始める。さすがに馬よりは遅いが、馬車よりは俺の方が速い。


「わわっ!? す、すごいスピード……あっという間に着いちゃいそうです」

「しっかり掴まってろよ、飛ぶぞ」


 大きな倒木を踏み台にして飛ぶように走り抜ける。


「ふわあ……まるで飛んでるみたいです。そういえば私、この間ファーガソンさんにしてもらったのが人生初めての肩車だったんですよ」


 ああ、蒼月庵に行った時か。


「親父さんにはしてもらわなかったのか?」

「私、父の顔を知らないんです。生まれた時にはもう街には居なかったらしくて……」


「……なんか、すまん」

「なんでファーガソンさんが謝るんですか? ふふふ、可笑しい」


 たとえ母親は望んでだったとしても、生まれてきた子どもはそうじゃない。後悔はしていないし、これからも望まれれば応えるつもりではいるが、自由に生きるというのは何かを犠牲にしなければ成り立たないという現実を改めて突きつけられたような気がする。



「ファティアは……その……父親のことを恨んでいるのか?」

「いいえ、母は父のことを愛していましたし、私は幸せに育ててもらいましたから。料理人を目指したのも、旅の料理人だった父の影響ですし……それに、今ならわかるんです。なぜ父が旅をしていたのか。だから……感謝しています。私をこの世界に生み出してくれた父と母に」


 誇らしげに語るファティアの言葉にどうしようもなく目頭が熱くなってくる。


「……ありがとう……ファティア、本当にありがとう」

「ちょ、ちょっと……だからなんでファーガソンさんが御礼を言っているんですか? って、もしかして泣いてます!?」

「泣いてない。ちょっと目にスライムが入っただけだ」

「えええっ!? た、大変じゃないですかっ!?」




「よし、ここから入れそうだな。いいかファティアは俺の後ろから離れるな」

「は、はい……」


 眼前には鬱蒼とした森が人の侵入を拒むかのように広がっている。森の中を街道が通っているわけではないので、この場所は完全に自然のままの森で当然道など存在しない。


 一歩森へ入ると――――


「ああ!! クリームキノコがこんなにたくさん……あっ、向こうにはステーキノコもある。ファーガソンさん、採っても良いですか?」


 宝の山を前にした子どものように大興奮のファティア。


「周囲は俺が見張っているから好きなだけ採ると良い」


 それにしても、ここは本当に荒らされていない。


 まあ食材採取の依頼は基本的に魔物討伐に比べて安いうえ、ここにはマダライオンという危険な魔物も生息している。リスクと報酬のバランスを考えれば、高位冒険者はあまり積極的に依頼は受けないだろうし、結果的に環境が守られているということだろうな。


 ダフード自体が王国の東西南北を繋ぐ交通の要となっていて、流通拠点として物資に困っていないのも大きい。市場で安く買えるのにわざわざ危険を冒して採取する必要性に迫られていないのだろうな。


 だが俺たちは違う。今はファティアという腕のいい料理人がいるから、手間をかけたとしても新鮮な食材が手に入る事の方が嬉しい。金で食材は買えるが、新鮮さは買えない。

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