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第三話 別れと旅立ち いざダフードへ


「モナ、俺と一緒に来ないか?」


「……ありがとうございます。お気持ちはとても嬉しいのですが、私はこの街で暮らすと決めておりますので……ファーガソン様の御子を授かることが出来れば最高の幸せですが、こればかりは神の御心次第。またこの街に立ち寄ることがあればいつでも歓迎いたしますので」


 答えはわかっていたが、それでも気持ちを伝えることに躊躇いはない。このまま街を発てば二度と会えない可能性の方が高いのだ。


「そうか……また食べにくるよ、この街にはガルガル焼きと極上のデザートがあるからな」

「まあ……お上手ですね」


 この国において貴族以外では結婚という習慣はあまり一般的ではない。


 魔物や戦争のせいで男の平均寿命は短く親を亡くす子は多い。必然孤児や片親が増え、子は街全体で協力して守り育てる共有財産という考え方が広く根付いているのだ。だから兄妹で親が違うということはごく当たり前で珍しくもない。



 そういった事情もあって、俺のように高位の冒険者は特に歓迎される傾向が強い。誰だって可能なら強い子が欲しいからだ。


 力は残酷なまでに血統で受け継がれる傾向が強い。共同体を、暮らしを守るためには力が必要だ。大きな街ならともかく、小さな町や村ならなおさらそうだろう。


 以前立ち寄った村では、男が魔物にやられてしまって困っていたから本当に大変だった……。


 あの時マーダースネイク料理があれば……な。


 それでも魔物退治だけでなく、役に立てることがあるのは嬉しいものだ。

 


◇◇◇

 


「おはようございます、ファーガソン様」


 出発の日。夜明けのギルドで微笑むモナ。


 つい先ほどまで一緒にいたことを感じさせないプロフェッショナルな姿に感嘆しつつも少しだけ寂しいような気持ちになる。


 それならこの街に残れば良いだけの話なのだが、噂に聞く王都を堪能するまでは何も決めることは出来ない。縁があればまた会うこともあるだろうと気持ちを仕事モードに切り替える。これまでも、そうやって旅を続けてきたのだ。


「おはよう、モナ。依頼人はどちらに?」

「あちらのテーブルに。間も無く説明が始まると思います」


 モナの指さすテーブルには、すでに複数の冒険者と依頼人と思われる商人風の男たちが集まっている。  


「世話になった。この先どこにいても君の幸せと健康を祈っているよ」

「ファーガソン様……もうっ! せっかく我慢していたのに……」


 俺っていう奴は……どこまでも自分勝手な男だ。


 せっかくモナが別れやすいように他人行儀を演じてくれていたというのに……な。


 耐えがたいほどに後ろ髪をひかれながら、テーブルへと向かう。



「初めまして、冒険者のファーガソンだ。ダフードまでの護衛の依頼を受けてきた」


「おお、貴方がファーガソン殿ですか! 私がこの隊商のリーダー、アリスターです。まさか白銀級の方に護衛をしていただけるなんて光栄ですよ」


 アリスターと名乗ったリーダーは、見た目三十代くらいの知的な印象の若旦那風の男。この歳で隊商を率いているとは、なかなかやり手に違いない。ローブに隠れてはいるが、商人らしからぬ引き締まった身体と歩き方からも素人ではないことがわかる。


「は、白銀級っ!? ま、マジかよ……」

「初めて見たがやはり強者のオーラが半端ないな……」


 白銀級だと聞いて他の冒険者たちがわかりやすく反応しているが、俺って強者のオーラが出ているのだろうか? もしややたら声をかけられるのはそのせい……?



「それでは出発しましょうか。冒険者の皆さま、護衛の方よろしくお願いしますね」


 隊商は夜明けとともに出発する。日の高いうちになるべく移動距離を稼ぐためだ。次の目的地、ダフードまでは、約三日の旅程。街道は整備されているものの、途中、立ち寄れる村などが無いため基本的に野営となる。


 隊商に同行するのは俺たち冒険者だけではなく、旅人や商人他、様々な人々。余程の自信が無い限り、自前で護衛を雇えない人々はこうして定期的に出発する隊商に手数料を払って同行する。いわば共同交通手段みたいなものだ。


 隊商にとっても、人数が増えればその分安全が増すし、費用負担も軽くなる。情報交換などのメリットがあるから、そこはお互い様である。 



「ファーガソンの旦那、この辺りは初めてで?」


 話しかけてきたのは、たしかサムという青銅級冒険者。


「ああ、サムはこの辺詳しいのか?」

「へい、俺っちはこのアグラとダフードをメインに活動しておりますから何でも聞いてください」


 実際、サムのようにホームを決めて活動する冒険者が大多数で、俺のように常に移動している冒険者というのはあまりいない。


 冒険者は常に危険と隣り合わせだから、知らない土地ではリスクが跳ね上がるし、同じ依頼主からの信頼や指名依頼も受けられないから、どうしても不利になってしまう。


 まあ……俺の場合は、全国の美味いものを食べ尽くすという野望があるし、不利を跳ね返すだけの力もあるからな。


 それでもいつかはホームを決めることになるんだろうが、それは今じゃあない。


「ダフードまでの道中、どんな感じなんだ?」

「へい、ダフードまでは見晴らしの良い平原が続いてますので、森にさえ近づかなければ日中は比較的安全でさあ。むしろ魔物よりも盗賊の方が恐ろしいくらいで」


 平原にいる魔物は弱く攻撃性の低いものが多い。それよりも――――


「盗賊が出るのか?」

「ここ最近、急激に被害が出始めているんですよ。どこかから移動してきたのかもしれませんね」


 本能で動く魔物よりも優秀なリーダーを持った盗賊の方が厄介なこともある。


「ふむ……可能であれば殲滅しておきたいところだが、今回は護衛任務だからな」

「さすがファーガソンの旦那!! 頼りになります!!」


 俺としてはモナが暮らす街の近くに盗賊団がいるという事実が嫌なだけなんだがな。


 護衛として雇われている以上、勝手な行動は出来ない。かといって、人命が懸かっている以上、襲い掛かって来てくれることを望むのも間違っているだろう。


 もしダフードで盗賊団討伐の依頼があったら、受けてみても良いかもしれないな。

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