第二十七話 商業ギルドダフード支部
「いらっしゃいませ~商業ギルドダフード支部へようこそ」
冒険者ギルド以上に愛想がよい受付嬢が対応してくれる。荒くれモノや下品な連中が少ない分、精神的な余裕があるのかもしれない。
腹が一杯になった俺たちが商業ギルドへやってきた理由は――――
馬車を購入するなら商業ギルドに登録しておいた方が何かと便利だからだ。
馬車の通行料が割引、もしくは無料になるし、商品の売買をするときもギルド会員ならすぐに許可が降りる。
冒険者証でも通行料に関しては同じ待遇が適用されるが、たとえば市場で店を出して物を売ったりすることは出来ない。
「ギルド登録したいんだが?」
「かしこまりました。四名様でよろしいですか?」
「ああ、頼む。それと……この後馬車を購入したいんだが、おススメのところがあれば紹介してくれないか?」
緑髪の受付嬢は、馬車と聞いて一瞬考える仕草を見せる。
「あの、馬はお持ちでいらっしゃいますか?」
「いや、出来れば馬も一緒に揃えようと思っている」
「そうですか……馬車の方はご紹介出来ますが、馬の方は……難しいかもしれません。とりあえず登録だけ先に済ませてしまいましょうか。他のギルド証などもあればお出しください」
……馬は難しいのか? 事情はわからないが、いつものように冒険者証を出す。
「ひえっ!? は、白銀級……し、失礼しました、すぐにギルドマスターに――――」
「いや、登録だけしてもらえば――――」
「そうはまいりません、ギルドマスターからファーガソン様がいらっしゃるようなことがあれば、必ずお通しするようにと命じられておりますので」
……なぜだ? いつの間にか有名人になったのか?
予定外だが、馬のことも聞いておきたいし、会っておいて損はないか……。
「わかった。ギルドマスターに会おう」
「助かります!! そのまま帰してしまったことがバレたらどんな目に遭うかわかりませんでしたから……お仲間の皆さまは、ここで登録の手続きをしていただきますので、ファーガソン様はこちらへどうぞ」
銀等級以上の冒険者証を持っている場合、商業ギルドでの登録は簡単だ。チハヤたち三人は新規登録だからそれなりに時間がかかるだろうな。冒険者証と違って名前を書いておしまいというわけにはいかない。講習なども受けなくてはならないのだ。
「えええ……面倒くさい」
「そう言うなチハヤ、身分証があった方がこの先何かと便利だからな」
「それもそうか……わかった頑張る」
身分証が無くても生きてはいけるが、就ける職業の幅、入れる場所の制限等、無いよりは持っていた方が間違いなく有利になる。
だが、チハヤは異世界人だし、リエンは亡国の王女だ。上手く登録できるかちょっと心配だな。
「あ、ファーガソンさん、私は商業ギルドに登録済みですから、お二人のサポートしておきますよ」
「そうだったのか。それは助かる、頼んだぞファティア」
「なあファーガソン、私は金級冒険者だから手続きはサインだけでいいはずだぞ?」
……そうだったな。すっかりその設定を忘れていた。さすがリエン、規約を読み込んでいただけのことはある。
――――というわけで、
「えええっ!? 私だけ講習受けるの!? 嫌あああ!!!」
結局、チハヤだけ講習が必要になってしまった。
「大丈夫ですよチハヤさん、私も一緒に受けてあげます」
「うむ、私も参加するぞ」
「ありがとう二人とも」
固く抱き合う三人娘。
良かったなチハヤ。ファティアはともかく、リエンは受けておかないと駄目だから当然だが。
「ギルドマスター、ファーガソン様をお連れしました」
『ご苦労様、下がって良いですよ』
部屋の中から女性の声が聞こえる。ほお、商業ギルドマスターも女性なのか? これだけの規模の街で、冒険者と商業、二大ギルドのトップが両方とも女性というのは結構珍しいな。
「初めまして、白銀級冒険者のファーガソン。我が商業ギルドにお迎え出来て光栄です」
輝く銀糸のような髪、とがった耳。その作り物のように整い過ぎた美貌……
あまりにも心当たりがあり過ぎるその姿に頭が混乱する。
「え……エリン……なのか?」
「ふふふ、残念ですが違います。私は商業ギルドマスターのフリンです。エリンは同じ両親から生まれました」
つまり……エリンの姉妹ってことだよな? 参ったな、喋り方以外見分けがつかないぞ。
「ところでファーガソン、私とエリン、どちらが姉で、妹かわかりますか?」
フリンの圧がすごい……絶対に間違えたらいけないヤツだなコレ。
「俺はフリンが妹だと思ったが?」
正直見分けがつかないので、女性は若く見られたいだろうという安直な考えで一か八か勝負に出る。
「…………私が……妹?」
ザワッ
フリンのオーラが変わった。ヤバい……もしかして地雷だったか?
「やーん、私が妹なんて~。そんなに若く見えます? ふふふふ、私ね、こう見えても姉なんですよ?」
めっちゃ嬉しそうなフリン。ふう……どうやら正解だったようだな。
「もうね、エリンからファーガソンの話を聞かされて羨ましくて仕方なかったのですよ。いっそのことエリンに化けて冒険者ギルドに潜入しようかと思っていましたの」
うん、黙ってたら多分誰も気付かないと思う。
「――――というわけで、時間も無いことですし、行きましょうか?」
奥の部屋を指さすフリン。どの辺がというわけなのかわからないが、どうやらそういうことらしい。
「それにしてもよく似ている……本当にエリンじゃないんだよな?」
「あら? まだ疑っているんですか? ふふ、それなら全身くまなく調べてみてくださいな……ね、ファーガソン」