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第二十六話 ローラー亭


「お待たせしました。四名様ですね? 店内へどうぞ」


 十五分ほど待たされたが、思ったより早く店内に入ることが出来た。比較的回転率の良い店のようだ。


 入ってみると店内に椅子は無く、どうやら立食スタイルの店らしい。注文を受け付けるカウンターと調理場が店の三分の一ほどを占めていて、飲食が出来る細長く背の高いテーブルが五つほど並んでいる。


「なるほど、だからロール亭なんだな」


 店内の客が手にしているのは、薄く焼いた皮で具材を巻いたいわゆる『ローラー』だ。


 ある程度大きな街では必ずといってよいほど見かける定番料理だが、場所によって具材は変わるし、その街を知りたければローラーを食えという言葉があるほど。そういえば、この街ではまだ食べていなかったな。 


 うむ、これは楽しみになってきた。


 メニューは……壁に大きく貼ってある。


 具材を包む皮は、薄目から厚目まで選べるのが嬉しい。焼き加減までオーダーできるのか……これは色々試してみたくなるな。


 具材はやはりワイルドボア、マッドブルが双璧か。ダフードは肉料理が旨い印象があるし、なにより安いんだよな。おそらくは近くに良い狩場があるのだろう。


 皮は薄焼きが二十シリカで厚焼きが三十シリカ。具材は百シリカから三百シリカ。ボリュームを考えると滅茶苦茶安いな。客層を眺めてみれば、やはり若者が多いのはそのせいか。



「オヤジ、薄焼きワイルドボアローラーと厚焼きマッドブルローラーを頼む。焼き加減はしっかりめで」

「へい、二つで五百シリカです」


 チハヤたちはまだ悩んでいるようなので、先に注文してしまおう。きっと実物を見た方が参考になる。


「へい、お待ち」


 出来上がるのが早いな……待ち時間が短いから回転率も上がって、価格も抑えられるのだろう。


 手元が熱くないようにフロツキの葉で持ち手部分を巻いてあるのも些細なことだが嬉しい気遣いだ。ほとんどの店はそんなことすらしてくれなかったし、そもそも作り置きだったから冷めていたしな。


 熱々のローラー二つを受け取る。


 おおう……ずっしりと重い。見た目以上にボリュームがあるぞコレ。


「ああ!! ファーギーもう頼んだの? わわっ!? そんなデカいんだ……食べ切れるかな?」


 たしかに女性が一人で食べきるにはボリュームがあり過ぎるかもしれない。食が細い人間なら二人で一つを分けても満足できるだろう。



 さてお味はどうかな?


 頭から皮ごとかぶりつく。うん、しっかりと下味の付いた肉がガツンと来る。大抵は見た目よりも薄味でもっさりしていることが多いんだが、生地と具材のバランスが良いんだろうな。それに肉が食べやすいように細長く切られているから具材だけ先に食べてしまうというローラー特有の問題も起こりにくいのも高評価だ。


 そして一番驚いたのはこのソース。


 口の中がピリピリする辛さ。ちょっと今まで食べたことのない感覚だが、妙にクセになりそうな味だ。肉の臭みを消す効果以外にも味のアクセントにもなっているし、胃袋が刺激されて食欲が増すような気がする。



「ああ、ファーガソンさん、これガラムですよ。東方から輸入されている香辛料です」


 へえ、ガラムか、聞いたことはあったが、食べるのは初めてだ。

 

「めちゃくちゃ美味いんだが、喉が渇くな」


 シトラ水を注文しようとしたら……一杯三百シリカ……高い。市場の二倍以上する。だが飲まないわけにはいかないから頼んでしまう。


 なるほど、こっちでしっかり利益を出しているんだな、納得。



「チハヤは何を食べているんだ?」

「ん、ひよこ豆のローラー。こっちにもひよこ豆あるんだね」


 ひよこ豆か……チハヤの奴、なかなかチャレンジャーだな。


「ん? そういえばチハヤの世界には魔物がいないんじゃなかったのか?」

「へ? なんで魔物? ひよこ豆ってただの豆だよね?」


「いや、ひよこ豆は、ひよこという魔物の脚裏に出来た豆を削り取ったもののことだぞ?」


「…………これファーギーにあげるから代わりにマッドブルの頂戴」


 顔色が悪くなったチハヤが、食べかけのローラーを差し出してくる。


「ひよこ豆美味いのにな。食べかけだけど良いか?」

「うん大丈夫」


 ひよこ豆ローラーと交換でマッドブルローラーをチハヤに渡す。


「リエンは……何を食べているんだ? 何も入っていないように見えるんだが」


「ハハハ、私は具無しで皮増しのローラーだ。カリカリに焼いた皮とモチモチな皮を更に皮で巻いて食べるのだ。一度やってみたかったんだが……悪くない、いや、最高だなコレ!!」


 ……皮だけ食べているのか? まあ好きなようにすれば良いと思うが、たった七十シリカでお腹が膨れるなら激安グルメかもしれん……。




「なかなか満足できる店だったな」


「うーん、コスパも味も悪くはないんだけど、クレープみたいな感じをイメージしていたからちょっと惜しいかも」

「クレープってなんですかチハヤさん?」


 チハヤ恒例の聞き慣れない単語だが、文脈でコスパはなんとなくわかる。クレープみたいな固有名詞はお手上げだが。


「ローラーと見た目は似ているんだけど、一番違うのが皮の生地かな。ローラーは多分小麦粉……えっと、こっちだとギル粉だっけ? を水と塩で練っているんだと思うけど、クレープの生地は、それ以外にも牛乳、卵、砂糖、バターなんかも使うから皮がもっちもちなんだよね。あと、具材も甘いのが多いの」


「なるほど……ギュウニュウは、ミルクルの乳で代用できるし、卵はひよこの卵で……シュガとバタも高いですけど用意出来なくはないですね。甘いというのが驚きですが、材料から考えるとたしかに美味しそうです。今度試しに作ってみましょうか?」

「本当!? ありがとうファティア!!」


 クレープか。甘いローラーと聞くと気持ちが悪いと思ってしまうが、材料を聞く限り別物だと思った方が良いな。せっかくチハヤも期待しているし、必要な道具と材料をファティアに揃えてもらうか。


「ファティア、後で調理器具と保存がきく食材買いに行くか?」

「わっ!! 良いんですか? 行きます、ぜひ行きましょう!!」

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