第二百五十九話 王都デート
「ほえ~……ここが王都かあ。さすがに大きいし人が沢山いるね」
「まあ……今は全国から人が集まっているから余計にそう感じるかもしれないな」
俺とチハヤは二人で王都へ来ていた。セレスからの情報で、勇者一行が王都に到着したらしいとの情報を得たからだ。
「ようやく勇者に会えるな、おそらくはチハヤの兄なのだろう?」
「うん……シバという名前、異世界から来たこと、その他の情報からたぶん間違いないと思うんだけど……」
「勇者がこの世界にやって来たのが三年前だということが気になっているのか?」
「まあね、同じ名前の別人という可能性も捨てきれないかな……」
たしかに期待しすぎればその分落胆も大きいものになるだろう。チハヤにとっては、この世界でたった一人の家族かもしれないのだ。あまり期待させるのは酷だったかもしれない。
「まあ……会ってみればわかることだからな」
「そう……だね。正直怖いけど……ここまで来たら早く会ってみたいよ。もしお兄ちゃんじゃなかったとしても……同じ異世界から来た人であることには変わりはないんだしね!!」
そう言って腕を絡ませてくるチハヤ。相変わらず前向きで強い子だ。
「せっかくなんだし二人で王都デートしよ?」
「そうだな、ギルドで情報を仕入れたら色々回ってみるか」
「やった!! ファーギー大好き」
二人きりのデートがよほど嬉しいのか満面の笑顔ではしゃぐ姿が眩しい。
「あ!! あの店行列が出来てるね……何の店だろう?」
「ちょっと寄ってみるか?」
「うん!!」
行列の最後尾に並んで前の人に尋ねてみる。
「すまないがここは何を売っている店なんだ?」
「ああ、ここは王都名物クレープの人気店らしい。俺も初めてだからまだ食べたことはないんだが」
「クレープ? おお!! 聞いたことあるぞ、かつて異世界から来た勇者が持ち込んだという食べ物だろう?」
「え? マジでクレープ? やった!! 私大好きなんだよね!!」
クレープと聞いて大喜びしているチハヤ。異世界人である彼女がそう言うのならば、きっと美味しいのだろう。
「教えてくれてありがとう。アンタ竜人だろう? 王国で出会うのは初めてかもしれん」
恵まれた肉体の半分に鱗を持つ竜人はかつて戦闘民族として大陸でも強大な力を示したが、エルフ同様に長寿で数が少ない少数精鋭民族。大国の侵略に抗しきれず祖国を失い放浪の民となったと聞く。
「ほう……お前は竜人を知っているのだな。まるで王国以外では会ったことがあるような言い方だが?」
どうやら興味を引かれたらしい。
「ああ、先日も大勢会ったぞ」
「な、なんだと……まだ生き残っていた竜人族がいたのか……た、頼む!! どこで会ったのか教えてくれないか? 俺は同胞を探して旅を続けているが、いまだに出会えていないのだ……」
そうだったのか……竜人族がそこまで追い込まれていたとは知らなかった。
だが――――参ったな……俺が竜人族に会ったのはホウライだ。うーむ……どうしたものか。
「教えてあげればいいじゃん? 私はこの人の気持ちがよくわかるよ」
そうか……同胞が居ない心細さ、寂しさ、チハヤが一番感じていることだったな。
「ああ、その場所はここからはるかな遠方にあってな? ホウライと呼ばれている島国なんだ」
「ホウライ? 聞いたことのない国だが……ここからだとどのくらいかかる?」
「そうだな……通常の手段だとおそらく最低でも一年はかかるだろうな」
「そんなに遠いのか……だがお前は先ほど先日会ったと言っていたが?」
ははは……ちゃんと聞こえていたか。
「まあな、実は通常ではない手段で行ったんだ。公には出来ない方法だがな」
「なるほど……理解した。俺はトウガという、初対面で信頼を得ようなどと虫の良いことは考えていないが、話せる範囲だけでも聞かせてくれないか? もちろんここのクレープは奢らせてもらう」
「あはは、トウガさんがクレープって言うのなんか可愛い」
「か、可愛いっ!?」
……武骨で筋骨隆々の武人が照れている姿は可愛いというより不気味だが。
「あれ? ねえファーギー、トウガさんって……もしかして勇者パーティーの人じゃない?」
「あ……竜人のトウガ!! それに……その派手な戦斧、なぜ気付かなかったんだ……」
「なんだ、俺のことを知っていたのか? 勇者パーティーの中でも一番知られていないと思っていたのだが」
「実は俺たちは勇者に会うために王都に来たんだ。紹介が遅れたが俺は白銀級冒険者のファーガソン、こっちがチハヤだ」
まさかここで勇者のパーティーメンバーに会えるとはツイてる。
「なっ!? ファーガソン……それに……チハヤ……だと!?」
「なんだ、トウガは俺たちを知っているのか?」
「知っている……というかずっと探していた。そうか……お前が――――シバの妹のチハヤか――――うむ、我は人族の区別は得意ではないが、たしかによく似ている気がする」
トウガの表情が心なしか優しくなった気がする。
「私を探していた……? お兄ちゃんが? じゃあ……やっぱり勇者が私のお兄ちゃん……」
「ああ、シバがこの世界にやって来てからずっと……少なくとも俺がヤツに出会った時からずっと必死になって探していた。必ずこの世界に来ているはずだと信じて……どこかで助けを待っているんじゃないかという焦燥感に苛まれながら……な」
そうか……勇者もまたチハヤと同じように妹を探していたのだな……。原因はわからないが、チハヤがこの世界にやってきたのは勇者から遅れること三年後、つまり勇者は……居るはずのない妹を必死になって探し続けて来たのか……なんと残酷な。
「そっか……そうだったんだ……。ねえトウガさん、私、お兄ちゃんに会いたい!! 今すぐ!!」
「うむ、もちろんだ。だが――――今すぐはちょっとな……」
なぜか言葉を濁らせるトウガ。
「どうして? 王都に居るんでしょ? お願いトウガさん!!」
「あ、ああ……そうなんだが……な、今パーティメンバーたちと取り込み中というか……お楽しみ中というか……」
「……は? 他のパーティメンバーって女性だよね?」
いかん……チハヤの気が極寒に――――
「うおっ!? す、すまない、言い方が悪かった……うむ、人族の言い方だと……たしかお盛んというのだったか……?」
トウガさん……それ火に油……
「……最低。ちょっと泣きそうになってた私の感動をどうしてくれるのよ……馬鹿お兄……」
なんというかタイミングが悪かったな。それにしても……さ、寒い……このままだと王都が永久凍土に飲まれてしまう。なんとかフォローしなければ……
「ほ、ほらチハヤ、勇者だって長い旅をして色々……な?」
「ファーギーに言われたくないっ!! 馬鹿ああああああ!!!!」
仰る通りで……。あ……ヤバい……身体が凍り始めてる……
「ふぁ、ファーガソン……俺は寒さに弱いのだ……ね、眠い――――」
「だ、駄目だ!! 寝たら死ぬぞ!! 目を覚ませトウガああああ!!!」
「クレープお待たせしました~!!」
「あ。は~い!! わあ美味しそう!!!」
凍死寸前でクレープに救われた二人であった。




