第二百五十四話 脳内フォルダ
エメラルドブルーの海!! 真っ白い砂浜!! 燦燦と照り付ける太陽!!
海水浴には最高のロケーション!!!
「やっふう!! テンション上がる~!! ねえリリア、ここ高級南国リゾートみたいだよね」
チハヤは興奮気味にリリアを手招きする。
「ち、ちょっと待って……私、体力無いから!!」
大きく肩で息をするリリア。チハヤは戦闘職ではないが、召喚チートによって体力はアホみたいにある。頭脳はともかく身体能力は一般人のリリアが付いてゆくのは厳しい。
「ごめんごめん、でもさ、こんなすごいビーチが私たちの貸し切りだよ? ヤバくない?」
「それはセレスティア殿下に感謝だよね。そして……これだけの美女を揃えてくれたご主人さまにも感謝しないと」
現在セレスティアのプライベートビーチには、各地から合流したメンバーも加えて大変豪華なことになっている。
「うんうん。たしかに眼福だよね~。しかもここにいる水着美女全員ファーギーの女なんだからマジやばい。プライベートビーチじゃなかったら大騒ぎになってたよね」
可愛い女の子が大好きなチハヤとリリアは、ここぞとばかりに仲間の貴重な水着姿を目に焼き付けて脳内フォルダに収めるのに必死だ。
「あ~あ、こういう時スマホがあればなあ……。ねえリリア、カメラって作れないの?」
「挑戦はしてるんだけどね、今のところは無理。私自身カメラの構造とか原理を知っているわけじゃないから」
「たしかにね……あ!! そういえば前にフレイヤが記憶を映像化する魔法使ってた!!」
「ああ!! そうだよね!! よし、チハヤ、しっかり記憶に焼き付けるのよ!!」
「了解だよリリア!! フレイヤの水着姿もしっかり拝ませてもらわないとね!!」
「はっくしょん!! うーん? 風邪でも引いたかな?」
突然の強い悪寒に震えるフレイヤであった。
「水着姿と言えば、チハヤって結構スタイル良いよね? 着痩せするタイプ?」
「ええ~? そうかな……あまり自信無いけど」
チハヤの水着は布面積少なめの大胆なビキニタイプだ。本人は自信が無いと言っているが、あくまで他のメンバーと比べての話であって、そもそも自信が無ければこんな水着は着られない。
「いや、その格好で誘惑したらご主人さま絶対に襲って来るって」
「あはは……まあファーギーの場合、紳士なだけで基本肉食系だからその点は心配してないけど……リリアのその水着が異世界の男性にどう映るのか判断しかねるよね……」
リリアの水着姿を見て苦笑いするチハヤ。
「何言ってんのチハヤ!! スクール水着は真理よ? 開発する際にこの世界の男性の意見をリサーチしたけどめっちゃ好評だったのよ、スクール水着の前では異世界間の壁すら存在しないのよ!!」
どや顔で力説するリリア。
「そ、そうなんだ……ファーギーに刺さると良いね」
「問題はそこなのよね……他の男どもに受けても、ご主人さまを誘惑できなければ意味が無いし……でも、反応が悪ければ別の水着もたくさん用意してるから死角は無いわ!!」
「さっき試着してたメイド服タイプの水着が良いんじゃない? ファーギーってメイド服好きだし」
「やっぱそうかな……ギリギリまで迷ったんだけど……」
二人が遅くなったのは、リリアとチハヤがあーでもないこーでもないと水着ファッションショーを繰り広げていたからである。
「おーい、二人とも遅かったな」
二人が遅いので様子を見に来たファーガソン。
「あ、ファーギー!! 私の水着どうかな?」
「ご主人さま!!」 私のも見てください!!」
ここぞとばかりに自分のイメージする一番セクシーなポーズを披露する二人。
「お、おう……その謎ポーズはともかく、水着は似合ってるし、可愛いよ」
ガーンッ!? 自慢のセクシーポーズが通じなくて内心軽く凹む二人だったが、水着はかなり好評だったので、嬉しそうにファーガソンの両脇から腕を組む。もちろんわざと押し当てることも忘れない。
「ところでご主人さま、皆さま早速海に入っているようですが、危険ではないのですか?」
海水浴をしようと提案したのはリリアたちだが、この世界の海には危険な魔物や生物がうようよと潜んでいる。
「ああ、そのことなら安心しろ、アズライトが協力してくれているからな、今の海はどこよりも安全だぞ」
そう言って浜辺ではしゃぐ水着姿の幼女を指さすファーガソン。
アズライトは海を司る神獣だ。危険な生物を海から消すことなど呼吸をするよりも容易い。
「……へ? アズライトって……まさか四神獣『蒼海のアズライト』さまですかっ!? たかが海水浴のためになんてことしてるんですかああああああ!!!」
この世界の人々にとって、神獣は神さまと同列に扱われている存在であり信仰の対象である。さすがのリリアも思わずツッコミを入れてしまう。
「ははは……まあ……そうなんだがな、ミズギ着て海水浴してみたいって言うから」
「……よく見たら四神獣全員いるね……うん、たしかに世界一安全な場所だよ……ココ」
苦笑いするしかないファーガソンとチハヤである。
「あれ……ちょ……ちょっと待って……嘘……でしょ……」
「り、リリアっ!? ちょっと大丈夫……?」
「気分が悪いのか? 部屋まで送ろうか?」
突然真っ青な顔で崩れ落ちるリリアに驚くチハヤとファーガソン。
「えっ!? 部屋に……それは……大変魅力的ですが……そうではないのです――――ご主人さま!! 正直に答えてください!!」
「えっ!? お、おう……」
リリアの真剣な表情に気圧されるファーガソン。
「もしかして――――日焼け止めを塗るイベントは――――すでに終わってしまったのでしょうか?」
「なっ!?」
ようやく事の重大性を認識したチハヤ。リリアと並んでファーガソンに詰め寄る。
「日焼け止め? ああ、あのオイルのことか、それならさっき全員分終わってるぞ」
「ああああああああああっ!!!」
「うわああああああああっ!!!」
ビクッ 突然叫び声をあげて崩れ落ちた二人の様子に、ファーガソンは困惑するしかない。
「何という失態……最高の瞬間を見逃すとは……もう私の人生は終わった……」
「嫌だ……これは夢……そうだよ、これはきっと悪い夢なんだ……ファーギー、私を思い切り殴って!!」
完全に壊れてしまった二人に訳が分からず、ファーガソンはかける言葉が見つからない。
「えっと……もしかして日焼け止め塗って欲しかったのか? お前たちさえ良ければ塗ってやるが?」
「はっ……そうか!! まだ若干幼児体型のロリリリアの日焼け止めシーンが残ってる!!」
「チハヤ天才か!! ぐふふ……聖女チハヤのオイルシーン……これは萌える!!」
灰のように燃え尽きていた二人だったが、瞬時に復活する。
「よくわからないが……良かったな?」
この後、めちゃくちゃ日焼け止めを塗ってもらい、さらにお互いに塗り合いっこして大満足の二人であった。
 




