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第二百五十一話 甘い誘惑


「せ、セレス、そろそろ着替えた方が良い、そんな恰好をしていると風邪をひくぞ」


 こうしている間にもきっちり距離を詰めてくるセレス。本当はもっと見ていたいが……このままでは理性が持たない。


 今の彼女は女神というよりは理性を粉砕する破壊神に違いないだろうからだ。


「え? むしろ暑いぐらいですけど? そう言う先生だって顔が赤いじゃないですか――――って、ふふ、あ……そうだ……水着……邪魔でしたら脱ぎましょうか?」


 うおおおおおおおおおお!!!? 一瞬にして99%の理性が吹き飛んだ。なんで今日はやたら積極的なんだ!!! マズいマズいマズい……


「待て、どうせなら俺が脱がせたい」

「ふえっ!? あ……いえ……ま、まだ心の準備が――――」


 何言ってんだ、俺ええええっ!? 違うんだセレス、口が勝手に――――はっ!? もしや何かの魔法……あるいは精神干渉系の攻撃を受けているのか!?


「セレス……敵がいる」

「ええっ!? わ、わかりました、五秒下さい!!」


 さすがだな、瞬時に状況を理解し、目にも止まらない反射速度で着替えを完了させるとは……。


 

「……敵、いませんでしたね」

「……そうだな」 


 結果的に助かったわけだが――――失ったものはとてつもなく大きい……。決して後悔しているわけじゃない……あの時は最善の選択だったと今でも信じている――――だが――――いや……やめよう……もうすべて終わったことなのだから。


「先生……もしかして落ち込んでます?」


 やわらかい感触がポンと頭に乗った。その繊細で細い指が俺の髪を優しくかき分ける。


 セレス――――慰めようとしてくれているのか?


「元気出してください。先生はとても強いひとですけれど――――私の前では無理に強くあろうとしなくて良いんですよ……弱いところも……エッチなところも含めて愛していますから。だから私も先生の前では弱音も吐きますし、その……エッチにもなるんです」


 柔らかくはにかむその眼差しが――――あたたかいその手の温もりが――――優しい言葉とともに心にすっと入ってくる。まるで魂ごと撫でられているみたいで――――


「セレス……」


 くそ……なんで涙が――――


「私――――嬉しいんですよ、先生がこうやって弱さを見せてくれるのも私だから――――ですよね? それって少しは支えられているってことだから――――居場所になれているってことだから――――」


 ああ……そうだよ……俺はお前に甘えているんだ。支えられているんだよ、セレス。


「先生は……頑張り過ぎているんです、背負い過ぎているんです。だから――――少しぐらい私にも背負わせてください。遠慮なんてしたら怒りますからね?」


 その宝石のような瞳が視界から消えて――――代わりにそのサラサラの髪が頬をくすぐってくる。


 甘えるように優しく――――求めるように強く気付けばベッドに押し倒されていた。 

 

「先生……動かないでくださいね」


 馬乗りになったセレスが覆いかぶさってくる。


「お、おい、セレス?」

「ん……少し苦くてしょっぱいです……先生の涙」


 目元をペロペロ舐めとるセレスが狂おしいほど愛おしくて――――思わず抱きしめてしまう。


「駄目……ですよ……先生……それ以上は……駄目です」


 駄目と言いつつしっかりしがみついてくるセレス。互いに抑えられない衝動を鎮めるようにキスをする。


「でも――――私たちが黙っていれば誰にもわかりません……よね?」


 セレスの瞳が狂おしいほどの熱で揺れる。俺の理性も嵐の中で弄ばれる船の帆のように揺れている。


「そうだな……だが――――俺は――――お前を――――心から大切に想っている、だから――――何一つ後ろめたいことが無いようにしたい。世界中の人々に胸を張ってお前を愛したい。自分自身だけは騙せない」


 最後に残ったなけなしの理性で言葉を飛ばす。


「……そう……ですか、私がここまで求めているのに……本当に酷い人。でも……ふふ……先生らしいですね。わかりました、今は我慢します」

「セレス……すまない」


 少し陰の差した彼女の悲しそうな表情に心がズキリと痛む。


 格好付けて言ってみたが、結局は俺のエゴだ。何よりそんなことをセレスは求めていないというのに。



「これは独り言なんですけれど……そういえば――――先生の部屋、私の隣なんです……本来侍女たちが待機する部屋なので――――いつでも駆け付けられるように秘密の通路で繋がっているんですよね……」

「なっ!?」


 それはつまり――――


「だから――――気が変わったら……いつでもお待ちしています……ね?」


 俯いてしまったセレスがどんな顔をしているのかわからない。だが――――


 ファーガソン……お前はここまで彼女に言わせて恥ずかしくないのか? セレスは俺だけを見てくれているんだぞ? 世間体や周りの目なんて気にしていない。なあ……お前は何と戦っているんだ、大切なのはお互いの気持ちじゃないのか? それともそれだけでは愛する自信が無いとでも言うのか? そんな情けない男だったのか?


 いや違う、俺は――――


「セレス、俺は――――」

「あ、でも私の部屋にはリュゼも一緒に寝てますけれど……ね?」


 へ……?


 今の俺はきっと――――とんでもなく情けない顔をしているんだろうな……セレスの奴、こらえきれずに笑ってるし……。


「ふふ、意地悪されたお返しです。さ、皆さま帰って来たみたいですよ、私たちもそろそろ行きましょうか」


 起き上がり際、セレスに噛まれた耳がまだ少しジンジンする……完全に自業自得だな――――ふう……

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