第二百四十二話 嘘つき……大っ嫌い
「まずい皇帝が……起きたのですかっ!?」
「……チハヤ!! ファーガソンさまをお願い!!」
驚異的な反応速度で皇帝に斬りかかるセレスとセリーナだったが――――
『動くな』
「ぐっ!?」
「なっ!?」
皇帝の発した言葉によって動きを封じられてしまう。
そして――――その効果は斬りかかった二人だけではなく、その場にいた全員に効果を発揮する。
「ご、ごめんなさい……私のせいだ……ま、待ってて、い、今……治癒魔法を……」
チハヤが完全にパニックになっている……こんな狼狽した姿……初めて見た。
「駄目だチハヤ……福音を先に消せ……俺なら大丈夫だから……このままでは……全滅する」
「嘘だっ!! ファーギーが死んじゃう!! 死んじゃ嫌だっ!!」
マズい……完全に我を失っている。
「チハヤ……落ち着け。いいか……俺の目を見ろ……」
「ファーギー……」
「俺は……お前を信じている。だから……お前も俺を信じろ……大丈夫、お前は ――――俺が知る限り――――一番凄い奴なんだから」
「……うん。わかった」
チハヤの瞳に光が戻った。
『チハヤ、アレはお前の責任じゃない……魔法は完全に効いてるし今もまだ眠ったまま』
「ありがとうセリカ、私、やるよ」
『うん、頑張って』
もうチハヤの姿は見えない……
ごめんな……チハヤ……
約束……守れなくて……
『ごめんね……ファーガソン……私は……手が出せない』
セリカ……気にするな……わかっているから――――だから……泣くな。
◇◇◇
聖なる光よ、我が足元に集いて
天の純白なる輪となり結界を成せ
浄化の薫り高く、慈悲深き守護の力を
天使達の翼よ、この聖域に舞い降り
すべてを穢れから解き放たん――――
『喋るな』
く……詠唱が出来ない!?
舐めるな……私が――――詠唱しなければ魔法を発動できないなんて――――いつから勘違いしていた?
私はね――――思い浮かべるだけで、魔法が使えるんだっ!!
『光輪聖陣シャインサークル!!』
パキンッ――――
光の輪に包まれた皇帝から何かが砕け散ったような音が聞こえた。
「よし、これで皇帝の福音は消えたよ、ファーギー、今回復を――――」
『チハヤ……ファーガソンは死んだ』
え……? 嘘……でしょ……
「あ……はは、何言ってんのセリカ? こんな時に冗談キツイよ……」
『……ごめんね』
「な、なんで謝るのっ!! ファーギーだよ!? 死ぬわけないじゃん!! あの最強の戦士がこんな簡単に死ぬわけ――――」
だってほら……まだあったかいじゃん……それにファーギーが嘘つくわけない……大丈夫だって言ったじゃん……
「チハヤっ!? お願い、先生を……先生を生き返らせて!!!」
「そ、そうですよ、聖女の神聖魔法なら――――」
半狂乱になって縋りついてくる二人。
セレスティア……セリーナ……あのね……あのね……
「……の」
「え?」
「……無いの……生き返らせる魔法は……無いんだよ……」
聖女の神聖魔法に蘇生の魔法は無い……生きてさえいれば瀕死であっても助けられるけど……死んでしまったものは戻らない。
だからあの時……私はどうしようもなく焦った……ファーギーが死んじゃったらどうしようって。
馬鹿……嘘つき……皆が助かっても……貴方がいなければ意味が無いんだよ?
わかってるの? この浮気もののハーレム男……最後まで……責任取りなさいよ
私……まだキスしかしてないんだよ?
貴方の居ないこの世界に――――私を置いて行かないでよ……
『ごめんなさい……まま、どらこがちゃんとままをまもっていれば』
「ううん……どらこはちゃんと守ってくれたじゃない。だから私は傷一つ無かったんだよ……」
悪いのは私だ……魔法の力を過信して詠唱なんて格好つけたせいで……
「チハヤ……聞いて」
「フレイヤ……なんでそんなに冷静なの!? ファーギーが死んじゃったんだよ?」
「……まだ可能性があるからだよ」
「可能性?」
「チハヤ、忘れたの? お前状態保存の魔法を使っただろう?」
「う、うん……」
「あの魔法の効果で、ファーガソンの魂はまだこの場所から離れていないはずだ」
「……あ……そうか!!」
「私も同じ考えだよチハヤ。というかエルフには魂が視えるから私たちはファーガソンがここにまだいることは知っていたんだけどね」
ああ……だからエルフの人たちはあまり動揺していなかったのか。私……全然周りが見えていなかった。
「せ、先生は助かるのかっ!?」
「チハヤっ!? 答えて!!」
「……うん、大丈夫。身体に魂を戻す魔法ならある」
天の高みにいる神々よ
我が声を聞き届けたまえ
ここに眠る魂を、永遠の光のもとに覚醒させん
無限の愛と純潔なる力を注ぎ込み
命よ、再びその宿を見つけ
光の導きに従い、我らの元に蘇れ
神聖なる力よ、今ここに集え
『ディヴァイン・リバース』
「う……うーん……俺は……どうなったんだ?」
最後にセリカの声が聞こえて……そこから先の記憶が無い。
「ファーギー!!!」
「先生!!!」
「ファーガソンさま!!」
「やれやれせっかく再会できたのにバイバイはごめんだよ?」
「……はあ……良かったです」
皆が凄い勢いで抱き着いてくる。セレスやセリーナ、チハヤのこんな泣き顔……初めて見たかもしれない。
――――心配かけてしまったんだな。
「チハヤ、皇帝の福音は?」
「……皇帝の福音なら浄化したよ」
「そうか……良かった」
「良くないよ……馬鹿……嘘つき……大っ嫌い!!!」
「す、すまん……本当に悪かったと思ってる」
「……本当にそう思ってるなら、たっぷり甘やかしてもらうからね!!」
「お、おう……」
まさかチハヤが甘えて来るとは……明日雪でも降るんじゃないだろうか?
「ちょっと、チハヤだけズルいです。私も甘やかしてください先生!!」
「わ、わかったセレス」
こうなれば止まるはずもなく……全員甘やかすことが決定する。
というか――――甘やかすってどうすればいいんだろう?
「それにしてもセリカが深刻な顔で謝るから本気で焦ったよ……」
『あれは……手助けできなくてごめんねって意味』
「……紛らわしい」
『それは……ごめんね』
「でも良かった……最悪の場合私の闇魔法でファーガソンさまをアンデッド化するしかないと決意していたので……」
「……マギカ、それはマジで勘弁してくれ」
危なかった……危うくゾンビになるところだった。




