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第二十四話 眠れぬ夜と明け方のハンナ


「えええっ!? リエン本物の王女様だったの?」

「はわわ……道理でオーラが違うと思っていました」


 ダウンしていたファティアとチハヤがようやく動けるようになったので、リエンの正体と仲間になった経緯を二人に話す。


 すぐに話さなかったのは、説明するとなるとどうしてもリエンの辛い過去に触れざるを得ないし、すでに別人として新たな人生を送り始めている彼女にとって余計なことかもしれないと考えたからだ。真実を知っている人間は少ないほど良いし、ファティアとチハヤが知っていなければならないということもない。


 だが、彼女自身が仲間には話しておきたいと言ってきたのであれば、拒む理由はない。


 さすがに国を失った経緯については、本人も軽く触れただけだったが、チハヤもファティアもそのことについて辛そうな表情がしていたものの、それ以上深く聞こうとはしなかった。リエンも少しだけ安堵したような様子だったな。


 そう簡単に割り切れないだろうし、忘れるべきことだとも思わない。


 でも今の彼女はフレイヤ王女ではなく冒険者で魔導士のリエンだ。これからは幸せで楽しい記憶と思い出を積み重ねて行けば良い。そのことが彼女の生きる理由になり、目的になってくれればと願っているよ。 

 


 

「リエン、せっかく広いベッドなのに良いのか?」

「良い。ファーガソンとくっ付いていると安心するのだ」


 五人が寝れるベッドだからかなり余裕はあるんだが、リエンは俺から離れようとしない。一人で眠ると悪夢にうなされるらしいのだ。


 まあ、俺なんかが役に立って眠れるのなら好きにすればいいだろう。


「で? なんでお前たちまで引っ付いているんだ?」


「え? だってファーガソンあったかいし。この世界の服や布団ってあまり質が良くないし、エアコンないから結構寒いんだよね夜」


 ブルブル震えながら引っ付いてくるチハヤ。


 そうか……チハヤもおそらくは王族なんだよな。あの制服も信じられないぐらい仕立てが良かったし、上等とはいえ、宿屋のベッドでは寝苦しいだろう。


「ところでエアコンってなんだ?」

「部屋の温度を自動的に快適に保ってくれる機械……魔道具みたいなものだよ」

「ほう!! チハヤの世界にはそんなものがあるのか? 魔法ではそんなことは出来ないからな、じつに羨ましい話だ。」


 リエンの言う通り、そんなものがこの世界にあったら、各国の王族がこぞって購入するだろうな。



「私は……その……お二人が居なくなると寂しいと言いますか……」


 ファティアが恥ずかしそうに俯く。


 たしかに、広いベッドにポツンと残されたらそりゃあ寂しいだろう。片やくっ付いて寝ているというのに。


「くっ付いて寝るのは構わないが、俺はあまり寝相が良くないかもしれんぞ?」


「大丈夫だよ」

「問題ない」

「寝相など気になりませんから!」







 ……くっ、三人とも揃いも揃って滅茶苦茶寝相が悪いんだが!?


 顔を蹴られて目が覚めてしまう。おかしい……なぜここに足があるんだ?


 しかもこちらが向きを変えると向こうも向きを変えてくるという……もはや狙っているとしか思えん。


 まあ別に蹴られても痛くはないからそれは良いんだが、反射的に目が覚めてしまうのは困ったな……昨日から仮眠すら取れていないからもう少し寝ておきたいし……


「仕方ない。リエンには悪いがソファーで寝るとするか」 


 そのリエンは、ファティアとチハヤに挟まれてスヤスヤ眠っている。風邪をひかないようにしっかり布団をかけ直して……


「おやすみ。夜の女神リュクスよ、貴女の夢の守りがありますように。暁の女神ラクスよ、貴女の光の導きがありますように」





「おはようございますファーガソン様、朝の鍛錬ですか?」

「ああ、おはようハンナ。鍛錬というほどではない、日課の準備運動だ」


挿絵(By みてみん)


 まだ薄暗い朝と呼ぶには若干早い夜明け前。宿の外で身体を動かしていると、水を汲みに宿から出てきたハンナに声をかけられる。


 この辺りは日中の気温差が大きいようで、日中は暖かいのに、朝晩は少しひんやりする程冷え込む。それでも集中して身体を動かしているとじっとりと汗が噴き出してくる。


「さすがは白銀級の冒険者様ですね!! あら? 今日は皆さま朝市には行かないのですか?」

「今日は皆疲れているから。たぶん少し早めの昼食みたいな感じになるんじゃないかな?」


 魔力操作は想像以上に疲れるようで、三人とも死んだように眠っていた。特に急ぎの用事もないし、ゆっくり寝かせておいてやろうと思う。


「そうでしたか。でしたらお部屋のお掃除は様子を見てゆっくり伺うようにしますね」

「そうしてもらえると助かる」


 クスクスと笑うハンナを見ていると、まるでそよ風に吹かれて揺れる花のようだと思う。可憐で今にも折れそうなのに、芯はしっかりしていて強く生きている。


「あら……困りましたね……」

「どうした?」

「はい、桶がですね……一つ割れてしまっているのです」


 見れば二つある桶のうち、片方の桶の底が割れていて、取っ手部分も外れてしまっている。

 

「ハンナ、これ経年劣化じゃないな。人為的に破壊されている」

「はあ……またですか」


 うんざりしたようにため息をつくハンナ。


「また? もしかして……例の貴族の嫌がらせか?」

「証拠はないんですけどね。間違いないと思います」


 なんという陰険でせこいやり口なんだ……だが、実に効果的だ。こんな時間に修理してくれる店は無いし、朝の水汲みが出来なければ宿の運営に大きな支障が出てしまう。


「今すぐにガインの野郎をぶん殴りたいところだが、とにかく水を汲むのが先決だろう。ハンナ、水瓶はどこだ?」

「へ? 水瓶ならあそこですが……」

「じゃあ借りてくぞ」

「え、えええっ!? いくらファーガソン様でも無茶ですよ――――」



 宿の水瓶を抱えて水場へ向かう。桶が一つしかない以上、ちまちま何往復もするのは時間の無駄だからな。ここで目一杯水瓶に水を貯めてしまえば一度で終わるだろ。

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