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第二十三話 千早の思わぬ才能?

「ねえリエン、私は? 私も魔法使いたい!!」


 食い気味にリエンに尋ねるチハヤ。


 明るく振舞ってはいるが、何も役に立てないと悩んでいたからな……。魔法が使えれば役に立てると思っているのだろう。しかし……可哀そうだが魔法も魔力も存在しない世界から来たチハヤに魔法の素養があるとは到底思えな――――



「チハヤは問題ない。というか何者なんだチハヤは? こんな桁外れな魔力の持ち主、フレイガルドにもいなかったぞ」


 得体のしれない生き物を見るような何とも微妙な表情で応えるリエン。


「えええっ!? 本当!! わーい!! チートキター!!!」


 大喜びのチハヤだが、チートってなんだ? まあ魔法に関してはリエンが適当なことを言うとは思えないし……やはりチハヤは異世界の王族なんだろうな……。


「ただな……喜んでいるところ言い難いんだが、出力が化け物並みに大きいゆえにコントロール出来るようになるかはわからん。下手に使うと大惨事になる。むしろ、こんな不安定な状態でよく今まで生きて来られたな……? 普通なら魔力暴走で街ごと吹き飛ばして死んでいてもおかしくないレベルだぞ」

「そんな……せっかくみんなの役に立てると思ったのに……」


 チハヤのことを考えると可哀そうだが、そんな危険な状態だったということの方が問題だ。リエンに出会わずにこのまま旅を続けていたらと思うと寒気がする。



「リエン、何とかチハヤの魔力暴走を抑える方法はないのか?」


「そうだな……うむ、ちょっと試してみたい方法がある。魔法に関しても諦めるのはまだ早いぞチハヤ」

「本当? うん、じゃあ諦めないで頑張る」


「どうするつもりなんだリエン?」

「うむ、まずは一緒に風呂に入る」 

「風呂?」


「あ……ごめんなさい、まだ沸かしていないです、お風呂」

「問題ないぞファティア。私が居るからな」


 そう言いながらも片手間で湯を沸かしてしまうリエン。これだけ風呂場から離れていて、水に触れることもなく出来てしまうものなのか? 


 あらためてリエンが規格外の天才だということを理解させられている。


「わあっ!! すごいよリエン、ねえ、私も出来るようになるかな?」

「そうだな……千人くらいは入れる大浴場だったらもしかしたら出来るようになるかもしれんな」


 千人か……チハヤは風呂屋になったら儲けられるかもしれない。王宮の風呂係とか。

 

「ファーガソンは一緒に入らないのか?」

「ああ、俺は身体がデカいからな。後でゆっくり入らせてもらうよ」


 しかし風呂でチハヤの魔力をどうするつもりなんだ? リエンが何を考えているのかわからないが、三人で風呂は楽しそうで羨ましい。


 

 一緒に入るわけにはいかない以上、俺に出来るのは、嫌でも聞こえてくる風呂場の声を聞くことぐらい。壁が無いから丸聞こえなんだよな。




『ひゃあ!? くすぐったいよリエン』

『我慢しろチハヤ。今から魔力同期をする。私がチハヤの魔力を動かしてみせるから、その感覚を覚えるんだ』

『うん、わかった』

『あの……私はどうすれば?』

『ファティアは私の様子がおかしくなったら引っ叩いて連れ戻してくれ』

『えっと……リエンを引っ叩けば良いのですね?』

『違う、チハヤを力いっぱい引っ叩くんだ』

『えええっ!? なんで私!? 酷くない?』


 よくわからないが、魔力素人のチハヤの代わりにまずはリエンが魔力操作のお手本を見せるという感じなのかな?


 しかし天才といわれるリエンですら万一のことを考えるくらいチハヤの魔力はヤバいということか……もちろん他人の魔力だから難しいだけなのかもしれないが。




「う~疲れた。もう駄目……」


 風呂からヘロヘロになって上がってきたチハヤ。よほど魔力操作とやらがこたえたらしい。すぐにベッドに倒れ込んで動かなくなる。


「あはは、大変でしたね、チハヤさん」


 ファティアが気の毒そうにシトラ水を差し出す。


「ありがとうファティア。ねえリエン、このシトラ水冷やせる?」

「お安い御用だ」


 ファティアから受け取ったシトラ水をリエンに冷やしてもらうと、チハヤはごくごく喉を鳴らしながら、一気に飲み干した。


「ぷはあ!! 風呂上がりにキンキンに冷えたシトラ水は最高だね!!」


 さっそくリエンを使いこなしているチハヤは大物だな。


 一方のファティアも相当疲れているのだろう。同じようにシトラ水を飲みながらぐったりとベッドにもたれかかっている。



「二人ともよく頑張ったな。この調子で少しずつでいいから魔力を動かす感覚を掴めばいい。そうすればすぐに魔法を使えるようになるだろう」


「へーい……がんばりやす……」

「は、はい……死ぬ気で付いていきます、師匠!!」


 余程疲れていたのだろう。二人ともそのまますぐに倒れて横になってしまった。




「リエン、さっき風呂場でやっていた他人の魔力を操作する技、難しくないのか?」


 パッとイメージしたのは操り人形だが、それよりもはるかに難しいだろうことは容易に想像がつく。


「そうだな、わりと難しいぞ。少なくとも私以外に出来る人間に会ったことはないな」

 

 やはりそうか。


 魔法の修行で一番難しく時間がかかるのは、魔力を認識することだという。コツをつかむまで何年程度かかる人もいれば一生出来ずに諦めてしまう人もいるそうだ。俺も挑戦したことがあるが、あっさり挫折した苦い記憶がある。


 もしリエンの手を借りて、魔力の認識と操作を同時に学べるのであれば、大幅に修行時間を短縮できるし魔法を使う難易度はぐっと低くなるはずだ。


「ファーガソンも興味があるなら教えてやろうか? ある程度無意識に使いこなしているようだが、魔力の配分がまったく出来ていない。意識的に操作できるようになれば、今よりももっと強くなれるはずだ」


「マジか……?」

「ああ。例えば両足に魔力を集めれば跳躍力や走る速度が飛躍的に上がるし、守りたい部分に集めれば防御にも使える。拳に集めれば打撃力が上がる、といった風に使い方は無限に存在する」


 俺自身、正直これ以上強くなることはないと思っていた。すでに十分過ぎるほど強いからな。


 だが、チハヤたちと出会い守るべきものが増えた今、


 俺は――――もっと強くなりたいと思っている。



「リエン、ぜひ俺にも指導頼む」

「そうか、では風呂に入るぞファーガソン」

「え……? なんで風呂?」


「他人の魔力操作をするには裸で全身密着している必要があるのだ。布一枚でもあると難しい」


 なるほど……たしかに理にかなっている。


「リエン、まあ……なんだ。とりあえずは自分でやってみたいから、コツだけ教えてもらえれば――――」

「なんだファーガソン怖気づいたのか?」


 違うんだリエン、仲間とはいえ、未成年の女性と混浴はさすがにマズいから……。


「とりあえず一年頑張ってみて駄目だったらお願いするよ」


 リエンは来年成人だからな。


「ふふ、負けず嫌いな男だ。まあいい、せいぜい頑張れ」


 よく考えたら成人したらしたでマズいような気もするが。



 強くなりたいと思う気持ちは本物だが、焦ることはない。まだ強くなれるのだと知れただけで今は十分だ。

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