第二百十五話 決着? 異世界お米探し
「――――というわけでセリカ、協力してくれないか?」
「お願いセリカさん!!」
『ふーん、なるほど、そのオコメとかいう異世界の食材を探しているんだね』
興味深そうに微笑むセリカ。やはり食のこととなると目の輝きが違うようだ。
「セリカならこの世界の食材を知り尽くしているのではないかと思ってな」
『そんなことはないよ……私が知っているのはあくまで過去。生物は常に進化し変化を続けている。多くの食材が失われてゆく一方で、新たな食材もまた同時に生まれている。つまり食材の探求に終わりは無いし知り尽くすことなど出来ない』
おお……こんな饒舌なセリカを初めて見た。
『うん……良いよ、協力してあげる」
「おおっ!! ありがとうセリカ」
「めっちゃ感謝セリカたん!!」
「せ、セリカたんっ!? そ、それじゃあチハヤ、ちょっと記憶を見せてもらってもいい?』
「えっと……記憶?」
珍しく戸惑うチハヤ。誰にでも見られたくない記憶というものはあるからな。
『安心して。オコメ以外の記憶は見たりしないから』
ああ、なるほど……セリカもオコメがどういうものか知らなければ探しようがないからな。
「うん、そういうことなら良いよ!!」
『じゃあ……早速』
チハヤと顔が付きそうな距離に接近するセリカ。
「えっ!? ちょっと顔近っ!?」
『ん? キスは嫌?』
「は? もしかしてキスしないと記憶見れないの?」
『うん』
チハヤがこちらをチラチラ見てくる。
こ、これは反応に困る。俺は別に構わないんだが、チハヤにとってキスは特別な意味があるように感じた。
「セリカ、キスはおでこじゃ駄目なのか?」
『もちろん大丈夫』
「じゃあおでこで」
少しホッとしたように見えるチハヤのおでこに唇を乗せるセリカ。
『ふむ……なるほど……ほうほう……これは……もぐもぐ……』
なにやら呟きながら口を動かしているセリカ。まさか記憶を見るだけじゃなくて味や食感まで共有できるのか?
『ありがとうチハヤ、異世界の料理、実に興味深い。久し振りに最高の食体験をさせてもらったよ』
普段無表情なセリカの頬が紅潮している。声も明らかに興奮しているようだ。
「あは、それは良かったあ。それで? この世界にお米はありそう?」
さっそく本題に切り込むチハヤ。
『うん、ホウライと呼ばれている国で栽培されているホズミという穀物が一番近いね』
「ホウライ? ファーギーは知ってる?」
「いや、聞いたことは無いな。セリカ、それはこの大陸にある国なのか?」
俺はかなり地理には詳しい方だ。それでも聞いたことがないということは――――相当遠くの国なのか、小さな小国なのかのどちらかだろう。
『ううん、この大陸の東端から少し離れた海上に浮かぶ島国』
「島国か……せっかく見つかったと思ったが、いくらなんでも遠すぎる。大陸の東端まで行くだけでもどれだけ時間がかかるかわからないのに、さらに海路……輸入するにしても間違いなく年単位は必要になるだろうな」
「そう……なんだ。で、でもさ、あるってわかっただけでもすっごい進歩だよ!! なんだったらドラコに乗って行くのも悪くないかもしれないよね」
明るく振舞ってはいるが、明らかに落胆しているチハヤ。何とかしてやりたいが行ったことが無い土地への転移は出来ないしな……。
『……とりあえずホズミ食べてみる?』
思いがけないセリカの言葉に固まる俺とチハヤ。
「「え? あるの……?」」
『量はないけど大抵の食材はストック……してる。チハヤ、調理方法とか……リクエストはある?』
「えっと……じゃあシンプルに炊いて欲しいんだけど……あ、炊飯器とかないもんね……」
『ん、ある程度は再現できると思う……」
『……どうぞ召し上がれ』
変わった形の器に盛りつけられた白銀に輝やく粒から白い湯気が立ち昇っている。そしてなんともいえない食欲をそそる香り……これが……オコメなのか。
「あは!! 本当にご飯の香りがする!! いっただきまーす!! あ、お箸もあるんだ!!」
『器と箸は今作った』
「作ったのっ!? 凄いねセリカ!!」
あのハシという二本の棒を使って食べるのか? どう見ても使いやすそうではないんだが……チハヤは器用に使いこなしているようだ。
「あむっ……ふむふむ……おおお……ちゃんとお米だ……美味しい……美味しいよう――――」
嬉しそうに食べていたチハヤの声が途中から嗚咽に変わる。
「ありがと……セリカ、本当に……ありがと」
『うん……喜んでもらえて……私も嬉しい』
……少しチハヤが羨ましい。俺にあるだろうか? 泣くほど恋しくなる食材が。
そして――――俄然興味が湧いてきた。オコメという未知の食材に!!
「セリカ、俺の分は?」
『え? 無いよ』
な……ん……だと!?
「まさか……それで全部?」
『うん』
ぐわあああっ!? 食べたい食べたい食べたい――――
「ち、チハヤ……頼むっ、一粒だけでも――――」
「一粒たりとも残さないで綺麗に食べる。それが私の国での礼儀と敬意の表し方だからね。無いよ」
綺麗に空になった器をこれ見よがしに自慢するチハヤ。
……終わった……すっかり食べる気になっていたのに……受け入れ準備完了していた俺のこの気持ちはどこへ持って行けばいいんだ……?
『ふふ、そんなに食べたいならホウライに行く?』
セリカはそんなことを言ってくるが――――
「行きたいが遠すぎるだろう?」
彼女は一瞬きょとんと不思議そうな顔をしたが、すぐにニッコリと微笑んだ。
『ファーガソン、この店は世界中に繋がっているんだよ?』
あ……そうだった。




