第二百十四話 武闘派聖女?
「これで後は……お兄ちゃんとお米が見つかれば良いんだけどなあ……あ、帝国のこともあったか……」
キスした後、ずっと黙ってると思ったらそんなことを考えていたのか。
まあ帝国のことはともかく、兄の行方とオコメについてはチハヤにとって大切な問題だ。少しでも早くなんとかしてやりたい。
「んん? どうしたのファーギー、そんな難しい顔なんかして~? にひひ、またキスしてあげようか?」
真剣な顔をしていたと思ったら――――次の瞬間これだからな……本当に面白い子だよチハヤは。
「そうだな、されっぱなしというのもなんだし……俺からもしていいか?」
「うーん、それは嫌かも。ファーギーにはね、私からキスしたいの」
「違いがわからないが……難しいものだな」
「そうそう、私は難しいの」
ニンマリとするチハヤが本当のところ何を考えているのか……正直さっぱりわからない時がある。
だが待てよ、ということは――――俺は次いつキスしてくれるのかわからない状態で待たねばならないということか……。
「あはは、私たちの気持ちが少しはわかったかな?」
「これは……言葉もないな」
そうか……俺はあまりにも簡単に考えていたのかもしれない。一人一人と誠実に向き合うことしか考えていなかった。
多くの女性と関係を持つということは、共に暮らすということは――――そういうことまで考えなければならないということだ。幸い皆良い関係を保ってくれているが――――きっとそれは……チハヤやエレンのように俺の手が届かない部分を黙ってフォローし続けてくれている存在に支えられているだけに過ぎない。
今思えば――――女性同士で一緒に買い物したりしていたのはそういうことだったんだな……俺はのんきに買い物好きなんだな、なんて思っていた――――しかもその時間に他の女性と好き放題していたような……う……俺ってもしかして客観的に見ると相当最低なのでは?
鈍感だから――――で言い訳することは許されない。誰かの犠牲の上に成り立つ関係など望んでいないのだから。
「その殊勝な態度に免じて特別にキスしてあげる」
チハヤは不思議な子だ。俺は――――いつもお前の言葉や行動に救われている気がしているよ。
「ありがとうチハヤ」
「いえいえ、お粗末様でした」
そういえばチハヤと二人きりというのは初めてかもしれない。出会った時にはファティアもすぐに仲間に加わったしヴァレノールの時はドラコも一緒だったからな。
「まあ……今はファーギーも忙しいとは思うけどさ、たまにはこうやって一緒に出掛けたり、美味しいもの食べに行けたら良いね」
「ああ、そうだな。行こうチハヤ、何回でも行こう」
そのためにはまず平和な状況を一刻も早く作らないとな。
「それからね、ファティアのことも忘れちゃ駄目だよ? ちゃんと向き合ってあげてね」
「ぐっ……わかった。俺は本当に駄目な奴だな」
あれほどわかったつもりになっていたくせに結局これだ。
「あはは、ファーギーは駄目な奴だけど、良いところもいっぱいあるからトータルプラスだよ。人間なんてプラマイゼロなら上出来なんだから。このチハヤさんが言ってるんだから間違いない。自信持って」
バンバン背中を叩くチハヤ。前も思ったが力が半端ない。武闘派聖女でも行けるんじゃないのか!?
だが――――ありがとうチハヤ。
「お前にはいつも救われているよチハヤ」
「そう? なら良かった。じゃあそろそろ帰ろうか? みんな心配してるかもしれないし」
再び俺の肩の上に足を掛けるチハヤ。お前本当に肩車好きだよな……。
「チハヤ」
「ん、何?」
「オコメの件なんだが、実は解決してくれそうな存在に心当たりがある」
「本当!?」
なんですぐに思いつかなかったのか。自分が情けなくなる。
「ああ、セリカなら知っているかもしれない」
「セリカ? ああ、あのレストランやってる古代竜の人?」
気の遠くなるような年月を生き、世界中の食材や料理を知り尽くしている彼女なら知っているはずだ。少なくとも似たようなものが見つけられれば――――
「チハヤさえ良ければ、今からセリカの所に行ってみないか?」
「うん、行く!!」
鱗の転移なら危険もなく一瞬でセリカのところに行ける――――
と思っていたんだが――――
「はあ……マジで死ぬかと思った……」
「本当だよファーギー……私が一緒じゃなかったら今頃溶岩スープのダシになってたよ?」
まさかセリカが溶岩風呂に入浴中だとは完全に想定外だった。次からは念話で確認してから飛ぶようにしよう……。
『……なんかゴメンね』
申し訳なさそうに頭を下げるセリカ。
俺たちに気付いたセリカが助けてくれたから致命傷にはならなかったし、重度の火傷もチハヤがすぐに治してくれたから結果的に無事ではあったのだが……。
「いや、連絡もしないで勝手に転移した俺が悪かった」
「そうだよ、全部ファーギーが悪い。ごめんねセリカ」」
『うん……ありがと聖女』
「チハヤだよ」
『うん、チハヤ』
相変わらずのコミュ力を発揮してあっという間にセリカと仲良くなってしまったチハヤ。きっと相手が人外だろうが神さまだろうが関係ないんだろうな。
『ところで……何か用があったんでしょ、ファーガソン? えっと……する?』
いやいやいや、それならチハヤは連れて来ないから!? チハヤ!? そのジト目をやめてくれ!!
『あ……気付かなくてごめんね、三人で……する?』
「さ、三人でしませんからっ!!」
珍しく真っ赤になったチハヤがセリカにツッコミを入れる。
『あ、そうか……アリスを入れたら四人だもんね』
セリカさんっ!? ややこしくなるからこれ以上勘弁してくれ。
「ファーギー……殴って良いかな?」
「……なんか本当にすまん」
この後めちゃくちゃ殴られた。




