第二百十二話 恋人以上父親未満
仲間とエレンの顔合わせは続く。
「ま、マギカです」
「マキシム……です」
「ほうほう、魔族の双子かあ。うんうん、二人とも可愛いなあ」
一瞬で正体を見破られて驚く双子たちだったが、あっという間にエレンに捕まってぬいぐるみ状態になっている。
「ところで二人ともファーガソンのことどう思ってるのかな?」
優しく語りかけるエレン。
「す、好きです。一生ついて行きたい……なんて思っていたり……」
顔を赤らめるマギカ。え……マジで?
「ふぁ、ファーガソンが求めるならすべてを捧げる覚悟は――――ある」
えええ!? マキシム……お前もか!?
「ああ……あれはファーギー絶対に気付いていなかったね……」
「あれだけ好意をあからさまに示していたのに気づかないとは逆に恐ろしいですよね……」
「まあ……あれだけ常日頃から直接的な好意に接していたら麻痺するのも理解は出来なくも無いけど……なんか悔しいからちょっと殴ってきて良いかな?」
くっ、何も反論できん。
「ファーガソン、余計なことかもしれないけどアナタのパーティちょっとバランス崩れていたから手を入れさせてもらったよ?」
一通り顔合わせが終わった後、エレンがこっそり耳打ちしてくる。
たしかに――――いつの間にか旅の仲間も大所帯になって――――俺も色々あったから常に全員に目を配ることが出来ていたとはとても言えない状況だった。
皆の好意に甘えて――――我慢をさせたりしていたことにも気づいていなかった……。
そうか……エレンはそれでこんな風に――――
「エレン……お前……」
「まあ可愛い子を愛でたいという目的もあったけどね。とにかくファーガソンは生きているだけで異性を惹きつけるんだからもう少し自覚して行動しないと駄目……だよ?」
なんでそこまでしてくれるんだろうな。
「それはね――――ファーガソンの家族なら私の家族でもあるから――――だよ。アナタは何でも出来る人だから――――何とか出来てしまう人だから――――だからこそ優先順位を忘れないように、ね?」
本当に――――お前には敵わないよ――――エレン。前世のことは思い出せないがきっと同じように迷惑をかけていたに違いないとなぜか確信できる。
「やだなあ、私は迷惑だなんて思ったことは一度だって無いよ?」
「そうか……すまない、いつもありがとうエレン」
「うん、それでよし。アナタはいつだって思うように、素直に生きていれば良いんだよ。器用そうに見えて本当に不器用なんだから」
やれやれ、これは完全に頭が上がらないな。ふふふ。
「なんかさ、ファーギーとエレンってずっと昔からの夫婦みたいだね」
さすが鋭いなチハヤは。
「そう――――だね。筋金入りさ、年季が違うから」
そういって微笑むエレンはとても綺麗で――――
「ああっ!! その表情、エリンに似てるかも」
「あはは、エリンは私の娘だから、向こうが似てるんだけどね」
「えええええ!? ファーギーとうとう人妻にまで手を出したの?」
「あ、いや……それは色々事情があってだな――――」
あえて話すことではないと思っていたが、すでにセレスに知られているからな……
良い機会だし今後のことを考えても話しておく方が良いかもしれない。
「私もその方が良いと思うよ」
エレンが良いなら決定だな。
「実はな――――」
事情が込み合っていたので思った以上に長い説明になってしまったが、予想外にあっさり受け入れられて拍子抜けした。
まあファーギーだからね、そんなことだろうとは思ってた、今更驚かないわよ、などと反応は様々だが、皆俺を何だと思っているんだろうな。
「じゃあ私たちは温泉入って来るからしっかり見張り頼むねファーギー!!」
女性陣は親交を深めるために一緒に天然温泉に入るらしい。俺は――――先日の大惨事があるので今回は見張り役という名の留守番だ。
「あ、あの……ファーガソン」
「お、おう、どうしたアルディナ?」
一瞬別人かと思った。普段と様子が違い過ぎる。
「あ、いや……その……ファーガソンは……父上の生まれ変わりなんだよな?」
「ああ、記憶は無いんだがそうなるな」
明らかにアルディナの様子がおかしい。まあ……そうか、そうだよな。困惑するに決まっている。
「あのな……お願いが……あるんだが……」
普段凛々しいアルディナがもじもじと照れているのは可愛いな。
「今更遠慮などいらない、なんでも言ってくれ」
「じゃあ……ぱ、パパって呼んでも良い?」
「ぱっ、パパっ!? ま、まあ……構わないが、出来れば二人だけの時にしてもらえると助かるが」
「うん、それでいい。あとねえパパ……甘えてもいい……かな? 今だけで良いんだ」
やばい……今のアルディナは猛烈に庇護欲をそそられる。それにパパと呼ばれることに想ったよりも違和感がない――――どころか懐かしさすら感じる。
「ああ、今だけなんて言わなくて良い。いくらでも甘えろアルディナ」
「昔みたいにアル……って呼んでほしい」
ふふ、アルディナの方がはるかに年上なのに――――なぜだろう小さな少女みたいだな。
「わかった……アル、可愛い俺のアル」
「うん」
優しく抱きしめて背中をさすってやる。なんとなくだが、こういうのが好きだったような気がするのだ。
「パパああ……逢いたかった……ずっと淋しかったの……」
胸に顔を押し当ててぐりぐり擦りつけてくる。いつもイッヌみたいなアルディナが今はふにゃふにゃのネッコみたいだな。俺もエレンも居なかったからきっと淋しかったんだろうな。
「ほら、そろそろ行かないと皆温泉に行ってしまったぞ?」
「うん……行ってくるね。パパ大好き!!」
アルディナはショックを受けるかもしれないと思っていたが、むしろ俺の方が困惑している。前世の記憶が戻った時――――俺はアルディナやエリン、フリンをどう受け止めれば良いのだろう? 娘として? 恋人として? 考えれば考えるほどわからない。
女の子は――――強いな。




