第二百十一話 女王陛下はカワイイがお好き
「みなさまミスリールの首都エルミスラへようこそ、私がエレンディア、この国の女王だよ」
アルディナの案内で仲間とエルミスラにやってきたが、まさかエレンが直々に出迎えてくれるとは想定していなかった。
「わわわ、綺麗な人~!!」
「ふふ~嬉しいよキミがチハヤだよね?」
「はい私がチハヤだよエレンさん!!」
「エレンで良いよ」
「じゃあエレン」
「ねえチハヤ、ぎゅってしていい?」
「いいよ~」
さすがチハヤだな……女王が相手でもいつも通りマイペースさを発揮している。良い意味でこの世界の価値観に染まっていないし枠に収まっていないのだろう。
っていうかエレンは何をしているんだ?
「ファティアです、料理人です」
「へえキミがファティアか、ファーガソンは幸せ者だね、こんなに可愛らしい料理人が側に居るなんて」
「ふえっ!? い、いえ、むしろ私の方が置いてもらっていると言いますか……」
「あはは、奥ゆかしくて可愛すぎる。ねえファーガソン、もう食べちゃったの?」
「「ぶふぉぉっ!?」」
俺とファティアが同時に噴いた。な、ななな、何を言っているんだお前は!?
くっ、返答に困る、まだですなんて答えたら食べる気満々みたいだし、だからといってそんなつもりはないと言ったらファティアには興味ないみたいになってしまう。
「あ、あはははは、そ、そんなわけないですよ、私はただの雇われ料理人ですし……ね、ファーガソンさん?」
「ああ、食べていないが食べたいくらい魅力的ではある」
「ふわあああっ!? な、ななな、何を言っているんですかああ!!」
これ以上ないくらい真っ赤になって狼狽えるファティア。そんなところも可愛いと言いたいが、さすがにこれ以上は可哀想な気がするのでグッと自重する。
「あははは、可愛い~ぎゅううう」
「うわっ!? え、エレンディアさま!?」
隙あらば抱きしめるエレン。
「お初にお目にかかります、リュゼノワール=アルジャンクローです陛下」
「キミがリュゼか!! さすが従妹、雰囲気がセレスティアに似てる」
「お姉さまに似ているなんて嬉しいです」
普段よりもフォーマルな雰囲気のリュゼ。セレスとリュゼはあまり似ていないと思っていたが、同性から見るとまた違うのだろうか?
「むふふ~これは……美人になるわ~。将来が楽しみだねファーガソン?」
「そ、そうだな」
なぜ俺に振る……。
「本当!? ねえファーガソン!!」
だが――――そんなに嬉しそうにされると――――
「ああ、本当だよリュゼ」
つい頭を撫でてしまう。
「えへへ……あ、ち、違うでしょファーガソン!! そこは抱きしめて……き、キス……とか……こ、婚約者……なんだし?」
は? な、何を言っているんだリュゼ、さすがにそれは……言った本人も照れて真っ赤になってるじゃないか。
「ファーガソンさま、お嬢さまに公衆の面前で恥をかかせるおつもりですか!!」
いや待てネージュ、むしろキスしたら恥ずかしいんじゃないのか?
だが……それがたとえ勢いだったとしても、リュゼが口にした以上応えねば恥をかくのはリュゼだ。
「ほらおいでリュゼ」
小さなリュゼの身体を抱きしめて頬にキスをした。
「い、今はそれでゆるしてあげるわファーガソン」
ご満悦なリュゼと微笑ましそうに見守るネージュ。
「むふふ~、もっふもふなネージュもかわいい……」
「ふえっ!? じょ、女王陛下な、なにを……うにゃああ!!」
リュゼとネージュを抱きしめるエレン。特にネージュは耳と尻尾をめちゃくちゃいじられて悶えている。そういえば耳と尻尾は敏感だったな……。
「お初にお目にかかります陛下、セリーナ=ブレイドです」
「おおっ!! キミがファーガソンの婚約者のセリーナかあ……うん、良いね、凛々しい美少女は大好物だよ私もファーガソンも」
私もってなんだよエレン。俺は……まあ否定できんが。
「そ、そう……でしょうか……私は武骨ですし……全然手を出してくれないのでてっきりあまりタイプではないのかと思っていたのですが……」
しまった……セリーナにそんなことを思わせてしまっていたのか。
「それはねセリーナ、ファーガソンがキミのことを大切に思っているからだよ」
「ほ、本当ですか……でも……」
不安そうにこちらを見るセリーナ。エレンの言う通り大事にしていたからこそなんだが、だからといってセリーナに対して不安にさせてしまったのは俺の落ち度だ。
「本当だよセリーナ、いつも自分を抑えるのに苦労してる。不安にさせてすまなかった」
「ば、馬鹿……我慢するくらいなら私は――――いつだって」
「うおっ!?」
恥ずかしいからといって斬撃を繰り出すのやめてくれ。俺じゃなければ真っ二つになってるぞ……。だが――――今後は抑える必要はないかもしれないな。
「わかった、今後はもう少し甘えさせてくれ」
「も、もちろんです。だって私は貴方の――――婚約者なのですから」
嬉しそうに胸を張るセリーナ。
「セリーナ隙アリ!!」
「ふわあっ!?」
おいエレン、まさか全員抱きしめるつもりなのか?
「リリア=フランドルです陛下」
「ふーん……キミがリリアか。へえ、珍しい魂構造してるね、ひょっとして前世の記憶とか……あるでしょ?」
「えっ!? あ、あの……えっと……」
「あはは、ごめんごめん、わかったから言わなくていいよ、かわいいメイドさん」
話がまったく見えてこないが、たしかにリリアには不思議な部分がある。何か関係あるのだろうか。
「それよりリリアってばファーガソンのこと好きでしょ? ファーガソンのことだからどうせ気付いてないよ?」
「あはは……やっぱりそうですよね。いやもうメンバーが強力すぎて出番が無いというか……」
えっ!? リリアは俺のことを好きだったのか? マズいな俺の鈍感さは自分で思っているより深刻なのかもしれない。
「ほら見て、図星って顔してる」
「ああ……薄々わかってましたけど……まさかあそこまでとは……正直自信なくします」
「しかもメイド枠は一気に増えたからね……ねえシルヴィア?」
「ですね……私こそファーガソンさまのメイドなのに……」
エレンの脇に控えているシルヴィアの圧がすごいんだが。これではリリアが怯えて――――
「超絶美少女メイドさんキターーーーーー!!」
「うんうん、シルヴィアの良さがわかるなんてキミもなかなかわかってるねリリア。よし、一緒に愛でよう」
「はい、是非!!」
「……嫌ですが?」
無表情で人形状態のシルヴィアを愛でる二人。俺は何を見せられているんだ……。
「ほら、次はファーガソンに可愛がってもらいなさいリリア」
「か、可愛がって……くださいませ――――ご主人さま」
どうしていいのかわからないので、とりあえずお姫様抱っこをしてリリアの頭を撫でる。
「ふわあ……幸せ~!!」
とりあえず喜んでもらえたようで良かった。
「……ファーガソンさま、私もお願いします」
シルヴィアもご所望か。さすがにリリアだけというわけにもいかないな。
「……楽しいです」
「そうか」
完璧な無表情っぷりを発揮しているから周りから見ればそうは見えないだろうが、俺にはシルヴィアが喜んでいるのがわかる。彼女に尻尾があればブンブン振り切れんばかりになっていたはずだ。




