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第二百十話 嫉妬


「良かったなシバ、妹さんが無事だとわかって、しかも聞いた話じゃ最強の護衛付きらしいじゃないか」


 セイランは部屋を見渡してから満足そうにベッドの上で身体を伸ばす。


「まあな……」


「なんだずいぶん浮かない顔をしているな、まあここで会えなかったのはたしかに残念だけどよ」

「違いますよセイラン、シバさまはチハヤさまと一緒にいる方のことが気になるのでしょう」


 図星だというようにシバは顔をスッと逸らす。


「ああ、ファーガソンとかいう白銀級冒険者のことか、姫さまのパートナーの。私も名前を聞いたことぐらいはあるぜ」

「売られそうになっていたチハヤさまを盗賊団から助け出したのも彼だということでしたね。まさに命の恩人、ヒーロー。だから――――ご自分がするつもりだったその役目を取られて拗ねているんですよシバさまは」

 

 でもそういうところが可愛らしくて好きなんですけどね、とミヤビは微笑む。

 

「ああ……わかってるんだ。だが――――冒険者なんて連中は所詮女を食い物にすることしか考えていない!! そんな危険なヤツにチハヤを任せるわけにはいかねえだろ!!」


 冒険者に対する酷い偏見、土下座して謝れとためいきをつきながら、セイランはシバの顔を両手で押さえてキスしそうな至近距離からその眼を覗き込む。


「それでシバ……本音は?」

「奴が超が付くイケメンでめちゃくちゃモテるらしいからくそ羨ましいです、しかもあのエリンさんまで……はい、嫉妬してます」

「素直でよろしい。嫉妬は――――これでチャラにしろ」


 そう言ってシバにキスするセイラン。

 

「はあ……シバさまには私たちがいるではないですか。それでは不満ですか?」


 苦笑いしながらミヤビもシバの頭を優しく撫でる。


「そんなわけあるか、俺にはもったいないくらいだよ二人とも」

「わかってるならもう諦めろ。それに――――そのファーガソンのおかげでお前が私のことをちゃんと見てくれるなら感謝しないとな」


 セイランもシバの隣に腰を降ろしてミヤビと共に頭を撫で始める。


 シバが危機感を持ったことで、ミヤビやセイラン、特にセイランへの意識や対応が明らかに変化したことにセイランは喜びを隠せないでいる。


 割とぐいぐい行くミヤビとは対照的にエルフであるセイランはどこか遠慮がちで一定の距離感を崩そうとはしないところがあった。シバもそんな彼女のスタイルを尊重してきたため、共に過ごした年月の割には関係は深まっていなかったのだ。


「セイラン、俺は正直お前をファーガソンには会わせたくないと思っている」

「なんだ、姫さまに言われたことを真に受けたのか? 大丈夫だって――――」


 ファーガソンにはエルフを強力に惹きつける魅力がある――――エリンが言った言葉をシバはずっと気にしていた。元々エルフは人族に比べ色恋に淡泊な傾向があるが、セイランもその例に漏れずあまり好意を前面に出すことはない。そのことが余計にシバを不安にさせているのだが、セイランにはそのあたりの機微は伝わらない。


「駄目だ!! いや……すまない、お前を信じていないわけではないんだ……ただ、たとえ一瞬でも他の男に惹かれる表情を見たくない――――というか」


 シバは自分でも情けないことを言っている自覚があるのか珍しく赤面している。


 一方のセイランは、普段あまり見せることのない弱気な発言、そして自分に対する独占欲をぶつけられて満更でもない様子で微笑む。


「シバ……お前、そんなに私のこと好きだったんだな? むふふ、でもよ、チハヤと再会したら一緒に暮らすか、そうでなくてもずっと側に居るつもりなんだろ? ならずっと会わないわけにもいかないじゃねえか、覚悟決めるしかないだろ」

「そ……それじゃあまるで千早がずっとファーガソンと一緒にいることが決まってるみたいじゃないか」


 セイランの正論に反論できず、せめてもの抵抗を試みるシバだったが――――


「シバさま……逆にお伺いしますけど、現状チハヤさまがファーガソンさまから離れる理由があるとお思いですか?」


 エリンの話では、ファーガソンとの関係は良好そのもの、同行しているメンバーとも家族のように仲が良く、そして何より重要なのが、同行しているのがチハヤ本人の強い希望によるものだということだ。別れさせようとすれば恨みを買うだけだろう。


「ぐっ……たしかに」


「それに――――私たちが好きだと言いながら、常に他の女性に惹かれているシバさまに言われたくないですね。鏡貸しましょうか?」

「ハハハッ、ミヤビの言う通りだな。お前も少しは私たちの気持ちを味わうべきだ」


「ははは……返す言葉もないな。たしかにその通りだ、すまない」


 素直に頭を下げるシバ。


「わかってくだされば良いのです。ご心配なら――――たくさん愛してくださいませ」

「そうだな――――幸いこの部屋の壁は分厚いらしいから好都合じゃねえか」


「よーし!! 二人とも今夜は寝かせねえぞ!!」


「その意気や良し、だが――――飯を食ってからにしてくれ」

「と、トウガっ!? いつからそこに?」


「安心しろ、よーし!! 二人とも今夜は寝かせねえぞ!! のところからだ」

「くっ……殺せ」


 トウガはあまりそういうことを気にするタイプではないのだが、聞かれた方は恥ずかしい。


「あの……先ほどエリンさまに教えていただいたお店に行きたいのですが……」


 恥ずかしそうに手を挙げるミヤビ。


「ああ、ガルガル焼きの店か!! むふふ、たしかに名案だなミヤビ」


 ニヤリと笑うセイラン。


「ガルガル焼き? なんだそれ美味いのか?」

「俺は何でも構わん。腹が減ったから早く行くぞ」 


 勇者一行のダフードでの冒険は――――始まったばかりだ。

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