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最強冒険者のグルメ旅 ~据え膳も残さずいただきます~  作者: ひだまりのねこ


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第二百六話 強くなりたいんだよ


「あら……先、越されてしまいましたね……」


挿絵(By みてみん)


「おはようフィーネ、お前も今帰ってきたのか?」


 いかにも徹夜明けという感じで疲れ切っているフィーネ。


「はい、そのままファーガソンさまのところへ飛び込もうと思っていたのですが――――」

「そうか――――フィーネも一緒に寝るか?」


「それも魅力的なんですが……お風呂――――一緒に入りませんか?」 

  

 頬を染めて恥ずかしそうに俯くフィーネ。


「朝風呂か、悪くない」


 なんだかんだで汗をかいているからな。朝食の時間まではまだ時間がかなりあるし――――



「ふわあ……気持ち良いです……全身がふわふわしてきました……」


 全身を洗うついでにマッサージもしてやる。


「駄目……です……そんな優しくされたら――――寝てしまいます……」


 眠そうなフィーネ。元々目は閉じているからいまいちわかりにくいが。


「大丈夫だ、ちゃんとベッドまで連れて行ってやるから安心して眠るといい」

「ふわい……良い夢がみられるように……ちゃんと……ぎゅってしてください……ね」


 おやすみ――――フィーネ


「ふふ、こうしてみると姉妹みたいだな……」


 仲良く寝息を立てているティアとフィーネ。


 このまま一緒に寝ても良いんだが――――目が覚めてしまったな。朝の稽古でもするか。


 

「おはようファーガソン、朝の稽古か?」


挿絵(By みてみん)


「おはようアルディナ」 


 今日は皆を連れてエルミスラへ行くことになっている。それで迎えに来てくれたのだろうか?


「なあファーガソン、私にも稽古を付けてくれないか?」

「それは構わないが――――」


 少し思い詰めたような様子が気になる。


「私は――――自分のことを強いと勘違いしていた」

「勘違いではない、アルディナは強い。俺が保証する」


 剣だけでも余裕で金級の力があるだろう。セリーナと互角とみている。それに加えて多彩な魔法がある。総合的には白銀級と言っても問題ないレベルだ。


「いや……ファーガソンやリエン、セリーナ、セレスティア、そして――――母上――――ここ数日で思い知ったよ――――本物の強者という存在に触れて気付いたんだ――――私は――――弱い」

「アルディナ……」


「私は――――今まで何をやっていたんだろうな――――時間はいくらでもあったはずなのに」 


「そんなことはない、アルディナの動きを見ればわかる。どれほどの鍛錬を積み重ねたのか――――俺にはわかる」

「ありがとうファーガソン……だが――――私はお前の背中を守りたいんだ!! お前の仲間たちがそうしているように――――お前が安心して背中を預けられる存在になりたい――――」


 ――――だから強くなりたいんだよ


 アルディナの真っすぐな想いに胸が熱くなる。


「……弱音は聞かないぞ?」

「ああ、望むところだ!!」


 剣を交えなければわからない世界がある。


「楽しいなファーガソン」


 銀糸のような髪が――――迸る汗が――――ようやく差し込み始めた朝日を浴びて輝く。 


「綺麗だよアルディナ」

「ふえっ!? な、ななな何を――――」


「隙アリ!」


 動揺したアルディナの剣を飛ばして一本取る。


「くっ……まだまだあああ!!!」


 ふふ、そうだな――――俺もそう思うよアルディナ


 ――――楽しいよな



「ああっ!! 二人ともズルいです!! 私も混ぜてください!!」


挿絵(By みてみん)


 セリーナが朝の稽古にやってきた。


「よし、二人がかりで構わない、かかってこい。ただし――――魔法は無しだぞ」


「その余裕――――消してやろう、いくぞセリーナ!!」

「同感ですね――――後悔させてやりましょうアルディナ!!」




◇◇◇



 真夜中の街道を驚異的なスピードで移動する中型の魔物。


 その姿は馬のようであるが肉食。ヴァルキュレインと呼ばれ、馬の二倍の速度で二倍の時間活動できるため、テイムされ飼い慣らされた個体は移動の足として重宝されている。



「……このペースなら朝までにはダフードに到着できそうだぞ、シバ」


 ダフードを知っているエルフの魔導士セイランがご機嫌な様子で叫ぶ。


「そうか――――ようやくここまで来たか」


 勇者であるシバは、仲間とともに妹の行方を探して目撃情報があったダフードに向かっていた。


「それにしてもこの辺りの街道は本当によく整備されているな――――」


 感心したようにつぶやくのは竜人の戦士トウガ。


 通常、夜中の移動というのは非常に危険だ。魔物というのは基本的に夜行性のため、移動するなら日が出ている間が断然安全。とはいえ彼らは歴戦の勇者パーティ、危険と言っても誤差に過ぎないのだが。


「ダフードは交易都市だと聞いています。流通を支えるためにも街道の整備には力を入れているのでしょう。帝国の場合は主に軍事目的に使われているのですが……」


 帝国の皇女である神官のミヤビは少し悲しそうにまだ暗い空を見つめる。



「そういや気になっていたんだけどよ、仮にダフードに妹さんがいるとして――――シバがこの世界に召喚されたのって三年前だろ? ってことは妹さんも三年間この世界にいたってことだよな? それにしちゃ情報が無さすぎないか?」

「たしかに! それは私も気になっていました」


 セイランの言葉に同意するミヤビ。


「何が言いたい? シバの妹ではないということか?」

「違うよトウガ、ただ気になるなってだけだ」


「そう――――だな、俺もそれについては気になっていたが――――異世界転移にはよくある設定だから――――もしかしたら俺と妹はこちらの世界に来たタイミングが違うのかもしれない」

「なんだそのセッテイというのは? シバはたまに意味が分からないことを言うな」


 すっかり慣れた様子でトウガが呆れてみせる。


「ははは、こっちの話だ。まあ……それならそれで良いんだ」


 こちらの世界に来たばかりなのであれば――――情報が少ないのも納得できる。そして――――奴隷として苦しんでいたという可能性も大きく下がる。


 だからといって喜んでばかりもいられない、知り合いのいないこの危険な世界にやってきたばかりの妹は間違いなく危険な状況にあるはずだ。一度は人身売買組織に捕まってスマホを失っているのは間違いないのだ、今どうやって生活しているのか、なぜ奴隷となっていないのか、お腹を空かせていないか――――シバの心は不安でおかしくなりそうになっている。


 今の彼は魔王を倒した最強の勇者ではなく、妹を心から心配する一人の兄であった。

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