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第百九十八話 火竜のステーキ


「提案なんだが――――俺は当分の間旅を続ける。だから、セリカたちは当面今のまま店を続けた方が良いんじゃないか? もちろん店を続けつつ旅に同行したいというのなら好きにすればいいとは思うが」


『うん、店は続けるつもり』

『くっ……店長が一緒に嫁になってしまった以上、止むを得ませんね……』


『でも食べるときは参加する』


 どうやらセリカは時々下界で食べ物屋巡りをしているらしい。時々と言っても数百年に一度程度らしいが。


『私もちょくちょく参加させていただきますね』


 アリスは店のことよりも外の世界の方に興味があるようだ。


『違いますよファーガソンさま、私が興味あるのは――――貴方だけです』


 いきなり真っ赤な顔でそんなことを言われたら――――照れるじゃないかアリス。 


『ファーガソン……これ』


 セリカが渡してきたのは――――鱗?


「セリカ、これは?」

『……私の鱗。持っていればいつでもここに来れる』


「私が渡した座標石と似たようなものだよ。というかそもそも座標石の材料が古代竜の鱗なんだけどね」

『良かったな、古代竜の鱗は一万年に一度しか生え代わらないから貴重だぞ』

 

 おお……ということは、これでいつでもこの店に来れるということか。


 それは――――凄いな。


『……違う、いつでも私に会える』


 セリカまで真っ赤な顔でそんなことを言ってくる――――不意打ちの破壊力がヤバいんだが。

 



『……ん、焼き加減』


 焼き加減を尋ねてくるセリカ。どうやらメインディッシュを作るため厨房に戻るらしい。


『我は血の滴るレアで』

「私はしっかり目に焼いて』

「えっと……私は少し赤みが残るくらいで――――」


『……わかった。ファーガソンは?』


 皆、好みの焼き加減を伝えてゆく。さて――――俺はどうするかな。


「俺はセリカが好きな焼き加減が良い」

『……わ、私が好き? うん……知ってる』


 セリカは真っ赤になって厨房に消えてしまった。


 おい――――なんか盛大に聞き間違いしてないか? 

 

『……ファーガソンさま、料理以外店長はポンコツですから気を付けてくださいね?』


 アリスが忠告してくれるが――――


「ま、まあ……食べられればそれでいいさ」


 俺には祈る事しか出来ない。



「竜の肉なんて滅多に食べられませんからね。今から楽しみです!! 先生は食べたことあるんですよね? どんな感じでしたか」


 竜が討伐されることは非常に稀なうえ、その肉が食用として流通することはまずない。食用にするよりも薬や魔道具の素材として使用した方がはるかに利益率が高いからだ。


 さらに言えば竜を倒した場合、限られた重量制限の中で優先されるのは、無駄に重い肉ではなく、鱗や牙、爪、内臓などの重要部位であって、肉は現地で竜を倒した者だけが楽しむことが出来る特権的なものであったりする。


 例外としては、騎士団などが討伐したケースで、その場合は運搬設備も準備されるので肉も持ち帰ることが出来るが、鮮度はかなり落ちるし、そもそも口にすることが出来るのはやはりセレスのような王族や高位貴族に限られる。


「ハハハ、まあ何度か口にしたことはあるんだが……竜の肉は通常の火力では調理出来ないので基本生で食べることになるんだ」

「ええええっ!? 生で食べるんですか? お腹壊したりしませんか?」

「竜の身体は高密度の魔素で出来ているらしいから生で食べても害は無いらしい。もちろん時間が経過した場合はその限りではないだろうが。味は――――そうだな、さっきワイバーンを食べただろ? あれをもっと濃くした感じかな。生でも相当美味かったから、きちんと調理された場合どんな感じになるのか俺も楽しみにしているんだ」


「私も竜の肉は久しぶりなんだよね……最後に食べたのはファーガソンとだから……もう千年以上前になるのか、月日が過ぎるのは速いよね」


 そうか――――前世の俺はエレンと一緒に竜の肉料理を食べたのか。


『その部分だけ記憶戻してやっても良いぞ?』

「いや……今はやめておく。せっかくだから新鮮な気持ちで味わいたい」

『ふふ、ある意味で記憶が無いというのも羨ましいものだな』


 そうか……エレンや母上にとっては新鮮な感動というものは滅多に無いのだろうな……。想像するくらいしか出来ないが良いことばかりではないことは俺にもわかる。



『お待たせしました、新鮮な竜の肉と言えば――――やはり王道ど真ん中、ステーキでございます!!』


 ステーキか!! やはりテンションが上がるな。


 セレスはもちろん、エレンや母上ですら興奮しているように見える。

 

 アリスが運んできた料理は、皿ではなく頑丈そうな岩板に乗せられていて、サラマンダーの時が可愛く思えるほどの灼熱を纏っている。周囲の空間がその熱によって歪んでしまっている……。


 アレは……数千度どころか――――数万度くらいありそうだ。


 あれを汗一つかかずに平然と運んでいるアリスはやはりタダモノではない。



「セレスティア、私が魔法で冷ましてあげるね」

「ありがとうございます。エレンディアさま!」


 エレンとセレスは仲の良い姉妹のように食べ始める。


 母上は――――


『ガツガツッ、ふむう、ガツガツ、うむ、美味い!!!』


 冷ますことなく熱々のステーキにかぶりついている。野生……もとい神生が刺激されるのか、半分獅子になっているぞ母上……。


『竜肉の中でも火竜の肉はマグマの熱でも耐えますので、この世界広しと言えども火竜の肉でステーキを好みの加減で焼き上げることが出来るのは店長くらいのものでしょう。ああ、ですが――――調理している姿は見ない方がよろしいかと』


 ふふ、やはりアリスもセリカのことはきちんと認めているんだな。それにしてもマグマの熱でも焼けないとは――――セリカがどうやって焼いているのか興味はあるが――――やめておいたほうが身のためだと俺の直感が告げている。



「ところでアリス、俺の分が無いんだが?」

『ファーガソンさまの分は店長が持ってくるそうです』

「セリカが?」 

 

 俺のために特別に調理してくれているのだろうか? 


 とても嬉しいのだが……少しだけ不安もある。ほんの少しだけ。




『……ファーガソン、お待たせ』


 花が咲いたような満面の笑みを浮かべたセリカが料理を運んでくる。



 ――――生の竜肉を

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