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第百九十六話 フレイムワイバーン ~パッケルの肉詰め~


「そういえば――――サラマンダーのハンバーグを食べたせいか身体がぽかぽかしますね」

「たしかにそうだな。寒い冬に食べたら良いかもしれない」


『ふふふ、サラマンダーの肉は身体を温めるだけではなく、再生能力を高めてくれる効果があるのですよ。傷の治りも速くなります』


「アリス、それは本当か?」

『はい、さすがにサラマンダー自身のように八つ裂きにされても再生するということはありませんが』


 大丈夫だアリス、そこまでは期待していない。


「しかし、少しでも再生能力が高くなればとても役に立ちますね、先生!!」

「そうだな、騎士や冒険者にとっては大金を払ってでも食べておきたい食材だろうな」


 もっとも――――サラマンダー自体が幻と言っても良いほどレアな魔物だし、マグマの熱を利用しないと焼くことすら出来ないから人の手には余る食材だろう。



『ところで料理の方はいかがでしょうか?』


「熱いですけれどとても美味しかったです、アリスさん」

『セレスティアさま、店長はすぐに調子に乗るので本当のことを言ってくださいね?』


「ハハハ、いや本当に美味しかったぞアリス」

『うむ、腕は衰えていないようじゃな』

「もう少し冷ましてくれたらもっと良かったんだけど、味は文句なしに美味しかった!」


『そうですか……チッ……』   


 悔しそうに舌打ちするアリス。店長が嫌いなのだろうか?


『違いますよファーガソンさま、嫌いではなく大嫌いなのです。褒められたら調子に乗ってずっと同じ料理ばかり作りやがるのです。同じものを毎日毎日、何年も食べる身にもなって欲しいものですよ』


 さりげなく心を読まれたような――――


「それは――――たしかに災難だな」


 どんなに美味しいものでも、毎日続けば飽きてしまう。


『ですが――――そんな地獄のような日々ももう終わりです。これからは愛しのファーガソンさまにお仕え出来るのですから!!!』


 拳を天井に向かって突き上げると――――


 鼻歌交じりに空いた皿を片付けてゆくアリス。


 仕えるって――――俺はアリスをメイドとして雇うわけじゃないんだが――――


「別に無理に辞める必要は無いんだぞ――――」

『いいえ!!! 断固辞めます!! もういい加減うんざりしているのです』


 どうやらアリスの決意は固いらしい。


『だがアリス、お主はセリカの眷属、あ奴が許可しなければ離れることは出来んだろう?』

『それは――――ファーガソンさまがなんとかしてくださる――――はず』


 母上の言葉を聞いて縋るような期待するような眼差しが向けられる。え――――? 俺が何とかするのか、まあ…嫁に貰うなら当然そうなるか……。


「わかった、出来るだけアリスの希望に沿うように交渉してみるよ」

『さすがファーガソンさま、ありがとうございます!!』


 だが従業員はアリスだけだと言っていたし……普通に考えて簡単に手放してくれるとは思えないが――――



 

『皆さま、続きましては――――フレイムワイバーンのひき肉を使ったハンバーグ――――は私が全力で阻止しました。こちらはパッケルの肉詰めとなります』


 皿の上には、濃い赤紫色の野菜が盛り付けてあり、その中にフレイムワイバーンの挽き肉が詰めてあるようだ。


「アリス、パッケルは初耳だが?」

『パッケルはマグマの熱で生育する火山帯にしか育たない野菜です。イグニスハイト火山の良質な火山灰で育ったパッケルは肉厚で瑞々しくクセのあるお肉とも相性が抜群なのですよ』


 ほほう! それは美味しそうだ。


「マグマの熱で育つ野菜ですか……また熱くて食べられない――――え? 熱くない?」


 肉詰めにナイフを入れたセレスが驚いている。


『パッケルは非常に熱吸収力に優れているので、そもそも熱くならないのですよ』


 先ほどとは正反対だな。肉にはしっかり火が通っているのに冷たいという不思議な料理だ。


『あ、身体が冷えてしまいますので、必ず添えてあるソースと絡めて食べてくださいね?』


『わかったのじゃ』

『セラフィルさまには関係ありませんのでご自由にどうぞ』

『なんじゃ、我だけ仲間外れは悲しいの』


 まあ…数千度の料理を食べてもなんともなかったからな――――



「うむっ!! これは――――美味い!!」


 パッケルの瑞々しさにフレイムワイバーンの肉汁がミックスされて――――旨味の洪水が襲い掛かってくる。噛めば噛むほど染み出てくるパンチの効いたスパイス、表皮付近はパリッとしているのに、中はプルンとしていてしっかりと肉を包み込んで離さない。それぞれ単体で食べても美味しいだろうが、この組み合わせは相性が良すぎる。 


 持ち込んだ食材が肉ばかりだったのでどうなるかと思ったが、焼けるように刺激的な味付けのハンバーグから一転して新しい世界を見つけたような爽やかな味付け。とても気に入ってしまった。


 これならファティアも連れてきてやりたかったな……きっと喜んだはずだ。


「エレンディアさま、ミスリールでパッケルは購入できるのですか?」


 セレスがさっそくエレンに尋ねている。どうやら彼女も気に入ったらしい。


「あはは、収穫が非常に困難だから売ってないね。食べたければ自分で収穫するしかないけど――――」

『パッケルの本体は熱くないが、そもそも生えている場所が超高温地帯で根は数千度の高温に加えて有毒ガスを撒き散らすので命懸けになるだろうな。あ、ドラゴンの好物でもあるから高確率で遭遇するリスクもある』


 なるほどね、わざわざ死地に野菜を取りに来る命知らずはいないだろう。いくらなんでも割に合わなすぎる。


「そういうことならば、幸運に感謝してしっかり味わわせていただきます」

「うむ、ここでしか味わえない料理と女神エルヴァニアに感謝を」


 通常なら豊穣の女神グレナに感謝を捧げる所だが、ここは異界とはいえミスリール、やはり女神エルヴァニアの顔を立てるべきだろう。


「そういえば、母上は神々と会ったことがあるのか?」

『当たり前じゃ。我の口から言えることは何も無いが』


 やはり神々はいらっしゃるのだな。下界に住む我々とどう関わっているのかは知る由も無いが。


「私もお会いしたことあるよ、はるか遠い昔の話だけど」


 エレンも神々と接点があったのか……なんというかスケールの大きい話だな。


 はるか昔――――いわゆる神話の時代――――人と神とはもっと近い関係だったのかもしれない。

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