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第百九十三話 到着? 秘境のレストラン


「しかし――――本当に凄いなこの革袋、まさか火竜丸ごと入ってしまうとは――――」


 エレンに言われるままに革袋を竜に押し当てると、ズルズル吸い込まれるように山のような巨体が袋の中に消えてしまった。

 

「すごいですよコレ。火竜丸ごとなんて聞いたこともありません。おそらくですが――――売れば小国が買えるくらいの資産になると思います」


 セレスの言葉は決して大袈裟ではない。

 

 竜はその皮、鱗、肉、爪、内臓、血、骨など肉体を構成するすべての部位が有用で貴重な素材となる。


 しかし――――竜が生息している場所は人里離れた辺境や極地、自力で素材を持ち帰るのは不可能に近い。だからこそ断腸の思いで少しでも高価で希少な部位を選んで持ち帰るしかないのだ――――


「メインディッシュにするから肉は一塊貰うけど、残りは売るなり好きにすればいいんじゃない?」

「良いのか?」

『倒したのはお前とセレスティアだからな、好きにするがよい』


 二人が良いならありがたく頂いておこう。


「先生、もし売却されるのでしたら私にお任せいただけませんか? ギルドなどに支払う手数料が勿体無いですし」

「ああ、それは助かる。ぜひよろしく頼む」


 高値が予想される希少な素材は買い取りではなく通常競売方式のオークションにかけられる。その際、落札代金の三十パーセントを手数料としてギルドに支払う必要がある。


 一見すると手数料が高いように感じるかもしれないが、顧客への告知、会場の設営、運営、落札者への輸送など高い手数料を払ってでもギルドに仲介してもらう方が楽だし安心だ。個人的なコネがあるなら別だが、冒険者が自分で売ろうとすれば足元を見られて安く買い叩かれるのがオチだ。


 そういう意味でセレスという超一級のコネを持っている人間に任せられるなら何も言うことは無い。王国が買い取ってくれるにせよ、他国に売却するにせよおそらく国家レベルの資産が無ければ手が出ない案件だしな。

  


「それに――――保存機能まで付いているから、痛みの早い食材や素材も持ち帰ることが出来る」


 長らく冒険者稼業をしてきたが、この革袋があったらと思う場面は正直数えきれないほどあった。


「ふふ、そんなに気に入ったのならあげるよ。同じのもう一枚持ってるから私とお揃いだね」

「え!? 良いのか!! ありがとうエレン」


 個人的に今までで一番嬉しい魔道具かもしれない。


「くっ……先生とお揃い……羨ましいです」 

『たしかにセレスティアだけ除け者では可哀そうよな、よし、これをやろう』


 悔しがるセレスに母上が渡したのは一着の道着。


「母上……一体どこからそんなものを?」

『我の異界から取り出しただけじゃ』


 さすが神獣……魔道具いらずだな。


「お母さま……これは――――?」

『うむ、ファーガソンが修行で使っていた道着だ。サイズも自動で伸縮するからお前が着ても良し、染み込んだ血と汗を吸うも良し、好きに使うがよい!!』


 ちょっと待て、それは前世の俺が使っていたものだろう? それにそんな汚いものをセレスが欲しがるわけ――――


「ありがとうございますお母さま!!! とても――――とても――――嬉しいです!!」


 花が咲いたように満面の笑みを浮かべるセレス。


「ちょっと待てセレス、着るのは構わないが――――匂いを吸うのは――――」

「ふふ、もしかして前世の先生に嫉妬されているんですか!! 嬉しいです!!」


 いや違う――――そうじゃない。


「でしたら――――しばらく先生が着て上書きしてください、ね? 宝物にします」


 そんな純粋な瞳でおねだりされたら――――


「わかった」


 断れるはずもないよな。




「本当にこんなところに店があるのか?」


 店どころか生き物の気配すらないんだが。


「そうですよね……仮にあったとしてもお客さんが来ない――――というか来れないような……」


 セレスの意見に完全同意だ。母上のおかげで山頂付近からスタートしたのにあれだけの魔物と戦う羽目になったのだ。仮に麓から目指していたらと思うと――――店に辿り着くには少なくとも俺やセレスクラスの強さがなければ難しいだろう。


「あはは、営利目的の店じゃないからね、店主の趣味と暇つぶしを兼ねているんだよ」

『うむ、あ奴の料理の腕は本物ぞ。食事にそれほど興味が無い我ですらたまに食べたくなるからの』 


 なるほど……趣味か。それなら納得は出来ないが理解は出来る。


 だが――――エレンや母上の知り合いとなると――――やはりただモノじゃないんだろうな。


 千年寝ていたエレンが食べに行こうと誘うくらいだ。死んでいるかも? とかまったく気にしていない謎の信頼感が逆に怖い。


「先生、楽しみですね!!」

「ああ、そうだな」


 セレス……お前の受け入れの早さも怖いぞ。


「ちなみにその店はいつから営業しているんだ?」


「さあ? 私が初めて行ったのが五千年前だから……少なくともそれよりは前じゃない?」

『我が初めて行ったのは……昔過ぎて覚えておらんな』


 駄目だ……次元が違い過ぎて感覚がおかしくなってくる。


 まあ……昔からやっている老舗の名店という認識で大きく間違いはないのだろう。




『着いたぞ』

「……いや……母上、着いたと言われても煮えたぎるマグマしかないんだが?」


 やはりというか、当たり前の現実が立ち塞がる。


「あはは、このまま火口に飛び降りるんだよ、ここが店の入り口になってるから」

「えええ? あの……エレンディアさま、普通に死んでしまうと思うのですが……」


 俺もそう思うぞセレス。


「不安なら私が先にやってみせるね。えいっ!!」


 火口に飛び込んだエレンの身体がマグマに触れる前に消えた!?


『ふふ、あの店もまた異界の一種でな? ほれ、見ててやるから勇気を出せ』


 なるほど……見えているものが全てではないということか。


「セレス、俺を信じられるか?」

「はい、真実と正義の女神アストレアに誓って」

「よし、飛ぶぞ」

  

 セレスをお姫様抱っこして火口へ飛び降りる。


 


 ――――一瞬の落下




 ――――ふわりと包み込まれるような浮遊感




 ――――気付けば、火山の焼けつくような熱さえ跡形も無く消え去って



 

 ――――歴史を感じる立派な門構えのレストランの前に俺たちは立っていた。

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