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第百九十二話 初めての共同作業


「よし、これぐらいで良いだろう」


 手早く汚れていないサラマンダーの肉を回収する。もはや原形をとどめていないので単なる挽き肉だが。


「ファーガソン、次、来たよ」


 どうやらエレンも母上も完全に見物モードだ。手伝う気は無いらしい。



 空を悠々と旋回しているのは真っ赤な翼竜、フレイムワイバーンの群れだ。


「ワイバーンか……俺は遠距離はあまり得意じゃないんだがな」


 とはいえセレスの前で恰好悪いところは見せられない。


 幸いワイバーンの群れは、俺たちを滅多にないご馳走だと認識したらしい。次々と高度を落として襲い掛かってくる。


 これなら射程に入る――――


「セレス」

「はい、先生」


「お前の技――――借りるぞ」

「はい――――え?」


 ――――インフィニット・ブレードストーム!!!


 見様見真似だが一度見た技なら大抵使える。俺は魔法が使えないので魔法と組み合わせた技は無理だが。


「す――――すごいです!! さすが先生!!!」


 まあ……本家には敵わないが初めてにしては上出来だろう。


「ファーガソン……ご満悦なところ悪いんだけど――――切り刻み過ぎってさっき言ったよね?」


 しまった……また挽き肉を量産してしまった……。


「……すまんエレン」


 そうだったな。これも食材にするんだった。 


『アハハハハ、まあまあ、口に入れば全部同じではないか。ほれ、早く袋に入れるのじゃ』

「母上は手伝ってくれないのか?」

『我は神獣だからの』


 体よく誤魔化されているような気がするが……



 母上のおかげで麓から登山する手間は省けたものの、はっきりいってここは魔物の巣窟だ。次々と襲い掛かってくる魔物を倒さなければ文字通り先へは進めない。


 ようやく洞窟に入って一息つけると思った矢先――――


 その先の空間から強烈なプレッシャーを感じる。


「せ、先生――――アレは――――まさか――――」

「ああ、ファイヤードラゴン――――火竜だな」


 まさか竜までいるとは。


「エレン、あの竜は倒さないと駄目なのか?」

「うん、だってメインディッシュだから」


 どうやら――――駄目らしい。


「仕方ない――――倒すぞセレス」

「は、はい――――初めての共同作業ですね!! 嬉しいです!!」


 恥ずかしそうに頬を染めるセレスが可愛いが、あまりに色気が無さすぎる。


 ちょっと意味が違う気がするが――――セレスが喜んでいるし、俺たちらしい気もする。


「セレス、竜には物理攻撃、魔法攻撃はほとんど効果がない。俺が竜の注意と攻撃を引き受けるからお前は確実に急所を突いて倒すんだ」

「わかりました!! あの技ですね!!」


『GROOOOAAAAA!!!』


 セレスに注意が向かわないように大きく動き回って派手に打撃を与えてゆく。もちろん致命傷にはならないが、竜を苛立たせるのには十分だ。


 それに――――俺が使うこの剣は――――妖精が鍛えた魔法剣。いかな強靭な竜の鱗といえどもその効果は貫通する。魔力の塊である竜にとっては、キルラングレーの力はそれなりに痛みを伴うはず。


 竜にとってみれば相手の打撃は当たる一方で、自分の攻撃が当たらないのはさぞかしイライラが募る事だろう。

 

 そうやって焦れた竜が起こす行動はわかりやすい。



 ――――炎熱ブレスによる広範囲攻撃だ。


 わかりやすいと言ったが、当然ながら対処しやすいものではない。まともに受けたら骨も残らず焼き尽くされて終わる。チラリと横目で見れば――――母上とエレンはめちゃくちゃ頑丈そうな結界の中で呑気に手を振っている。心配するだけ無駄だったようだ。



「よし、予想通りに動いてくれたな」


 竜にブレスを使わせるのは作戦通りだ。


 たしかにブレスは厄介だ――――だが、その分――――大きな隙が出来る――――


「セレス、今だ!!!」


 火竜が周囲の空気を吸い込んでゆく。わずか数秒、失敗すれば俺はブレスの直撃を受けることになるが、セレスにとっては一撃加えるには十分過ぎる時間だ。彼女の実力を知っているからこそ、こうしてここに立っていることが出来る。


 ずっと気配を殺しながらタイミングを計っていたセレスが火竜の背を一気に駆けあがる。

 

 ブレスに集中している火竜はそのことに気づくことは無く、弱点である頭部への接近を許してしまう。


 

「喰らえ火竜、我が最愛なる師より授けられた必殺の剣、その眼にしかと焼き付けるがいい――――ファーガソニック・ギャザリング!!!」


 異能によって強化された帝国のシュレクターをも一撃で倒したあの技が炸裂する――――


 ――――竜とは言えども目玉は比較的強度は低く、それなりのレベルの剣であれば貫くことも可能だ。攻撃も防御もせず、じっとしてくれるはずもないので、実行に移すのは文字通り命懸けになるが。 


 眼球を貫いたセレスの剣は――――そのまま奥にある竜の脳を貫いて破壊する。


『GRRRRRRGYAAAAAA!!!?』


 断末魔の叫び声を上げながらその巨躯を横たえる火竜。


「や、やりました!! 私――――竜を倒せました!!」

「おめでとうセレス、これでお前もドラゴンスレイヤーの仲間入りだな」

「ありがとうございます、私は先生が作ってくれた隙を突いただけですけれど」

「そんなことはない。お前がいたから俺も楽に戦うことが出来た。二人の勝利だセレス」


 一人で対峙すれば厄介な火竜も二人でならここまで容易く倒すことが出来る。


「あ、あの……共同作業も成功しましたし――――これで子が授かるでしょうか?」

「いや……無理だと思う」


 セレス――――お前の知識はどうなっているんだ?


「あはははは、だから教えてあげるって言ったのに」

『はははははは、セレスティアよ、お前は本当に可愛いな』


「はうう……先生?」


 そんな捨てられたネッコみたいな目で見ないでくれセレス。

 

 

「それにしても……あははははは、ファーガソニック・ギャザリングって!! あははははカッコいいねえ」

『ふふふふふ、ファーガソニック・ギャザリングか……うむ、中々のネーミングセンスよなファーガソン?』


 なんか違う方にも飛び火している!? ち、違うんだ――――俺が教えたのはたしかにそうなんだが――――名前を付けたのはセレスで――――


「先生!! どうでしたか私のファーガソニック・ギャザリング!!」

「お、おう……見事だったぞセレス。ただ――――技の名前を叫ぶのはやめた方が良いんじゃないか?」

「大丈夫です、鍛え方が違いますので!!」

「そ、そうか……」


 そのきらめく笑顔を前にしたら何も言えない。


「あはははははは」

『ふふふふふふふ』


 母上、エレン、いつまで笑っているんだ……いたたまれない気持ちになるだろう?

 

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