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第百八十八話 英雄秘話


「し、白獅子――――さま」


 セレスは放心状態で立ち尽くしていたが、すぐに片膝を着いて最大級の礼をとる。


 俺も真似するべきか一瞬悩んだが――――柄では無いのでそのまま雄大な白獅子の姿を見上げていた。


 おそらく――――いや、間違いなくセラフィルは伝説の神獣だろう。


 本人がそう言ったわけではないが、直接対峙すれば嫌でも理解できる――――いやさせられる。



『ふむ……少し大きすぎたの。久し振りで調整が難しい』


 そう言いながら体のサイズを調整し始めるセラフィル。その山のような巨体がみるみる縮んでいき、最終的にマダライオンのシシリーと同じくらいのサイズに収まった。


「白獅子さま――――いえ、セラフィルさまは伝説の神獣さまであったのですね。知らぬこととはいえ大変失礼いたしました。こうしてお会い出来て光栄至極にございます」 

『頭を上げよセレスティア。我が下界でどのように伝えられているかは存ぜぬが、王国建国にあたっては特に何もしておらぬ。アレクの側で見守っていただけ故な』


 いや……どう考えてもセラフィルが側で見守っているだけで強力な牽制効果があったと思うが……。


 神獣が背後にいる相手に戦いを挑もうとする馬鹿はいない。なるほど……建国神話において戦争の記述が存在しないのは不自然だと思っていたが、納得した。いたって平和裏 (神獣の威圧で)に建国は為されたのだろう。



『ファーガソンも久しいな。また会えて母も嬉しく思うぞ』


「「……え!?」」


 セラフィルが放った言葉に理解が追いつかない。セラスも石化してしまったように固まっている。

 

 お、落ち着けファーガソン、久しいなというのは、おそらく前世の俺が知り合いだったからだろう。エレンとのことを考えればその可能性もあると思っていた。


 が――――しかし、え……? 母ってなんだ!? 聞き間違いじゃ――――


「うおっ!?」


 セラフィルに押し倒されてその大きな舌で全身をベロンベロン舐めまわされる。そのザラザラとした感触が痛気持ち良い。


『ほれ、どうしたファーガソン? 呆けていないで思う存分母に甘えるが良い』


 ぶんぶん尻尾を振り回すセラフィル。


 その姿を見ているとようやく少しずつ冷静さが戻ってくる。


「あの……セラフィル? 実は俺、前世の記憶が無いんだ、だから母とか言われても何がなんだかさっぱり……」


『ガーン』


 激しくショックを受けているセラフィル。というか何故口でガーンって言った?


「せ、先生……? 話がまったく見えてこないのですが……」

「すまん、後でちゃんと説明する」


 何も知らないセレスは激しく困惑しているが、今は俺も説明している余裕が無い。


『エレンの奴……まさか転生の秘術を失敗したのか……? いや……我が見る限り術自体は問題なく成功している。ふむ……千年という時間の影響か……あるいは記憶自体が封印されているのか――――まあ良い、お前がファーガソンなのは間違いないのだから』


 そう言ってベロンベロンを再開するセラフィル。いや全然良くないぞ、何も解決していないんだが。


 全身すっかり唾液まみれになってようやく解放された。


『さて、感動的な再会も済ませたことであるし――――ファーガソン、セレスティアに状況を説明してやるがよい』


 一方的な再会ではあるが、セラフィルの言う通りだ。このままセラスを置いてけぼりにしていては話が進まない。




 その後、セレスにエレンとのこと転生のこと、俺が知っている範囲で状況を説明する。セラフィルは傍らで面白そうに聴いているだけで特に補足するつもりはないようだ。


「な、なるほど……状況は理解しました。さすが先生です!!!」


 理解できない部分はさすが先生で誤魔化したらしい。どんな状況でもすばやく受け入れることが出来るのは彼女の持つ天性の才能だろうと思う。



『ああ、ちなみにアレクも我の子。ファーガソン、お前の双子の兄だ』


 新たな衝撃の事実に再び固まるセレス。


「えっと……さすがです……先生!! まさか建国の英雄の弟君だったなんて!!」


 正直俺も予想外の展開に驚いている。


「聞きたいことは山ほどあるんだが――――まさか――――お前が下界に降りたのは――――」

『うむ、可愛い我が子が役目を果たせるかどうか心配で見守っていたのだ』


 神獣さまが思ったよりも過保護だった……。



「あ、あの……質問してもよろしいでしょうか?」

『構わん、遠慮なく聞くがよい』

「その……神獣さまというのは――――そのように人間の子を産むことがあるのでしょうか?」


 俺が聞きたかったことをセレスが尋ねてくれた。


『神獣の役目の一つに『英雄を産むこと』がある。我ら神獣は下界の管理者であると同時に調整者でもある。直接手を下すことは無いが、時代や情勢に応じてやむを得ないと判断した場合、強力な個、すなわち英雄を送り込むことがある。まあ……滅多にあることではないが』


「英雄とは――――勇者や聖女とは違うのか?」

『勇者や聖女はこの世界の維持安定のために組み込まれたシステム上の仕様ゆえ我らの管轄ではない。英雄はこの世界が滅んだり偏り過ぎないようにしないための変数――――というのが建前だが、まあ……我らもたまにはそういう気分になるということだ』


 理解できる範囲から想像するに――――神獣とはこの世界を管理するために存在する神々の代行者という位置づけなのだろう。そして聞いた限りではある程度の自由裁量があるように感じる。


「アレクが役目のため王国を建国したことはわかるが――――それでは俺は何のために?」


 少なくとも建国の神話にファーガソンという名は出てこない。


『アレクは智に優れていたが生まれつき身体が弱くてな。そこで武に優れたお前がアレクの影となり支えたのだ。見た目が同じだから気付くものはだれも居なかったしの。おっと、誤解するな、これは他でもないファーガソン、お前自身がそうすることを望んで決めたことだ。アレクはそのことに最後まで反対していたが――――お前は頑固で言い出したら聞かない子だったからの』


「さすが先生です!!!」


 セレス……もう何でもさすがで澄ませるつもりだな。

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