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第百八十四話 聖域 セレスティアルオーレア


「ところでファーガソン、セレスティア、この後ちょっと冒険してみないか?」


 エレンが悪戯っぽく微笑む。


「冒険?」


 いきなりの提案にセレスと顔を見合わせる。 


「俺は構わないが、セレスに危険なことはさせられないぞ?」

「わ、私なら大丈夫です!! 先生と一緒なら地獄の底だろうとお付き合いします――――」


 セレスの俺に対する高評価というか過剰な信頼はどこから来ているのだろう……?


「あはは、まあ……危険と言えば危険だけど、この三人なら大丈夫だよ」


 やはり危険なのか……とはいえ、俺は白銀級冒険者だしセレスは王国の英雄、おまけに最強格のエルフであるエレンが一緒に居て危険な場所はちょっと想像できないが。


「……どこへ行くつもりだ?」


「決まってるでしょ、転移魔法で帝都へ行って皇帝以下をぶっ飛ばすんだよ」


「……え?」

「あ、あの……エレンディアさま?」


 まさか――――本気か……? たしかに少数精鋭で乗り込んだ方が――――


「冗談に決まってるでしょ? あはははは」


 シルヴィアがここに居たらきっと爆笑している――――いや……彼女が爆笑している姿は想像できないな。


「だがエレン、皇帝を倒すだけなら冗談抜きで悪くない作戦かもな」

「はい、ですが――――皇帝一人倒したところで帝国が止まる保証はありませんし、帝国が崩壊した場合、大陸中を巻き込んだ大戦あるいは大きな混乱が起こるかもしれなせん」

「そうだね。いずれにせよ時期尚早、情報が足りないと思うよ、現段階では……ね」


 それに――――帝都とノーザンフォートレスでは比較にならないほど距離が違う。実験段階の今はどのみち難しい。



「エレンディアさま、それではどこへ行くのですか?」

「――――イグニスハイト火山だよ」






「じゃあ、ちゃちゃっと公務終わらせてくるからその間若いお二人でごゆっくり~」


 エレンが仕事を終わらせるまでの間、俺たちは『原初の樹セレスティアルオーレア』に登ることになった。この神聖な大樹はエルミスラの中心であると同時にミスリール建国のシンボルでもある。王宮として利用されているのはごく一部、下層部分であって、それより上に登るには女王の許可が必要となるそうだ。


 観光地ではなくいわゆる聖域であるため普通なら間違っても人族に許可など下りない。


「もしセラフィルが居たらよろしく伝えておいてね」

「セラフィル? 誰だそれは?」

「行けばわかるよ、じゃあね」



「先生、本当によろしいのでしょうか?」

「まあ……良いんじゃないか? エレンが良いって言うんだし、せっかくなら楽しめばいい」


 神秘に満ちたミスリールの奥の奥、セレスティアがややしり込みするのもわかる。俺だって正直同じ想いだからな。


「それでは楽しんでらっしゃいませ」


 念入りに浄化してもらったあと、いよいよ王宮から上、セレスティアルオーレアに登ることになる。


「ありがとうシルヴィア、お前は来ないのか?」

「私は聖域には入れませんのでここでお帰りをお待ちしております」


 なるほど、シルヴィアですら入れないとは……本当に限られた者しか入ることは許されていないんだな。


「先生……ずいぶんとミスリールに馴染んでらっしゃるのですね。王女殿下といい、女王陛下といい、今のメイドといい先生とやけに親しげでした。まだこの国へ来てから一週間ほどしか経っていないということでしたが……?」


 うっ……セレスがジト目で見つめてくる。たしかに普通に考えればおかしいよな――――俺もそう思う。


「ははは、たまたまだ。エレンは身内みたいなものだから」

「エレンディアさまが身内……ですか? それは一体……」

「まあ……話せば長くなるんだが、また今度ゆっくり話すよ。今はお前のことが知りたい」


「わ、私を知りたいっ!? わ、わかりました……先生になら私――――何でも、どんなことでもお話します!!」  


 な、なんか妙に気合入ってるな……? 迂闊に変なこと聞かないようにしないと。


「そういえばセレスティアルオーレアとセレスティアの名前は関係あるのか?」

「私の名前は王国初の女勇者セレスティアから名付けられたと聞いておりますが……」


 ということは直接的な関係は無さそうだな。


「せっかくだし、とりあえず上がれるだけ上に行ってみようか。エレンが言っていたセラフィルのことも気になるし」

「そうですね」


 滅多に入れない聖域に立ち入るチャンスを得たのだ。時間が許す限り登ってみたい。

 

 王宮は下層部だと言ったが、それでも王宮の最上階は百メートル近くある。そこから上となると最初からかなりの高さだ。移動には階段などは無いので、ひたすら徒歩で登ってゆく。とはいえ、そもそもセレスティアルオーレア自体が巨大なので木登りというよりは登山に近い感覚なのだが。


「大丈夫かセレス? 足場が弱くなっている部分があるから気を付けろ」

「はい、ありがとうございます」


 差し出した手を嬉しそうに掴むセレス。


「うわあ……見てください先生、絶景ですよ」

「おお!! これはすごいな……」


 たまに出現する出窓のような木のうろからエルミスラの街を見下ろせば、まさに絶景としか言えない光景が広がっている。街中から立ち昇る温泉の湯煙と巨大な古木が織りなす大自然のパノラマはまさに壮観の一言だ。


「こうしてみると人間同士の争いなんて些細なことのように感じてしまいますね」

「そうだな、俺もそう思うよ」


 その秀麗な横顔に浮かんでいる想いは俺には想像も出来ない。この若さで国を背負い先頭に立って戦い続けているのだ。少しでも気が休まれば良いと思ってしまう。


「どう……しましたか? 私の顔に何か付いてますか?」

「あ、いや綺麗な横顔だなと思ってな」


「ふえっ!? そ、そういうところです!!」

「ん? 何か変なことを言ったか? よし、そろそろ少し休憩しようか」

「……はい、先生」


 もう四、五百メートルは登っただろうか? すでにエルミスラの街はほとんど見えず、逆に雲の方が近い。二人で丁度良いくぼみに腰を降ろす。


「どこまで伸びているんでしょうね……もしや本当に神々が住まう天界まで続いているのでしょうか?」

「そうだな……実に気になるところではあるが、今回はそこまでは行けそうもないな」


 それでも――――王宮で感じた聖なる力は登れば登るほどより強く感じる。このまま頂上まで行けば神々に会えると言われても信じてしまうだろう。


「ほらセレス、これを飲んでみろ」


 老舗の名店『エーテリアル・バウム』で飲ませてもらった古木の露『エルドリッチ・ドリュー』、ミスリール最古のセレスティアルオーレアのものであればさぞかし美味いだろうと思って集めておいたのだ。もちろんエレンには許可を取っている。


「あ、ありがとうございます。丁度喉が渇いて――――え? えええ? な、なんですか……コレ?」

「美味いだろ? さっき俺も舐めてみたが最高だった」


「お、美味しいと言いますか……人生で初めての衝撃です。なんというか……魂まで癒されたような……」


 瞳を潤ませて感動しているセレス。喜んでもらえて良かった。

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