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第百八十一話 一撃必殺

 

 乾いた破裂音が響いて、セレスティアの四肢を抑えていた帝国兵が吹き飛んで爆散する。


「なっ!? 一体何が起きた……?」

   

 ゆらりと立ち上がったセレスティアの全身から立ち昇る白色のオーラが周囲の空間を歪める。


 その圧倒的な威圧感に耐えられず、近くに居た帝国兵はその場で命を刈り取られ崩れ落ちる。


 斬りかかった剣はセレスティアの身体に触れることなく白色のオーラによって飴のようにねじ曲がり砂のように崩れ去る。


「う、うわあああ!!! ば、化け物っ!?」 


 突然豹変した王女に恐怖した兵士たちがたまらず逃げ出すのも無理はなかった。触れることが出来なければ捕らえることも倒すことも出来ない。白いオーラに近づくだけで即死するのだ。

 



 かつて――――神聖ライオネル王国を建国した英雄アレクサンダー・レオンハートは白い獅子の姿をした神獣に導かれたと伝わっている。


 そして神獣の祝福を受けた王家の人間は、特別なオーラを纏い万の外敵を退けたとも。人々はそれをライオニック・オーラと呼び、オーラを持つ者を英雄と崇めた。


 しかし、時代を経てオーラを纏うことが出来る人間は居なくなり、いつしか伝説上のものだと考えられるようになった。



 それをセレスティアはこの土壇場で発現させたのだ。




『先生、やはり強くなると楽しいですか?』

『はは、そうでもないぞ』

『……そうなんですか?』



『出来ることが増えるたびに救える範囲が広くなるんだ。だから――――もっとこうしていれば良かった、もっと上手く出来たはず、後悔することも悩むことも増える。だからもっと強くなりたいと思う――――その繰り返しだ。あまり楽しいものではないな』


 先生……今なら私にもわかります。私の決断一つ、行動一つで救える命が変わる。皆は褒めたたえてくださいますが――――私はいつも思っています。もっと早く行けたんじゃないか、別の場所へ向かうべきじゃなかったのかって。 


『でもな……いくら強くなっても――――失われた命は戻ってこないんだ。俺は――――一番大切な人たちを守れなかった――――だから俺は――――助けられる命は助けたいんだよセレス。たとえ自己満足、傲慢であったとしても――――そんな生き方しかできないんだ』


 そう言って微笑んだ先生の顔は――――まるで泣いているみたいでした。



「私は……逃げることも負けることも出来ないのです。なぜなら私の後ろには数えきれない人々の想いが、人生が、命があるのだから!!」


 だから折れない


 かつて憧れた師の背中を知っているから


 ここで負けたらその背中には永遠に届かなくなる



 私は――――先生の背中を守りたい


 もう二度と――――あんな悲しい顔をさせたくない




 だから――――負けない




「ぎゃああ!?」

「ぐはっ!?」


 次々と倒されてゆく帝国兵、今のセレスティアを突き動かしていたのはその燃え滾るような気高き魂の熱。


 とっくに限界は超えている。常識で考えれば動くどころか気絶していてもおかしくない。


 だがセレスティアは止まらない。もはや意識は朦朧として目の焦点が合っているかも怪しい。それでも彼女はひたすら戦い続ける。


 


「……後は――――貴方だけですよ――――シュレクター」


「正直驚きましたよ……なるほど大したものです。人々が英雄と崇め、陛下がご執心なのも納得です。しかし――――」


 それでも貴女は勝てません。


 シュレクターの身体が赤黒い光を発すると全身の筋肉が隆起してまるで鎧の様に変化する。


「これが私の福音『オーバー・リミット』です。極限まで強化された肉体には刃も魔法も通りませんよ!!! それに――――その厄介なオーラも弱くなってきているようですね、そろそろ限界が近いのでしょう」

「…………」


 シュレクターの言う通り、セレスティアのオーラは消えかかっていた。蠟燭は消える最後の瞬間、最も明るくなるという。


 セレスティアはとっくに限界を超えていた。長期戦や持久戦になれば勝ち目はない。



「フフフ、絶望で声も出ませんか、安心してください、動けなくなる程度にはボコボコにしますが殺しはしません。まあ……敬意を払って長引かせないように配慮はするつもりですけどね」


 ゴウッ!!!


 一瞬の踏み込みで一気に距離を詰めるシュレクター。


 一方のセレスティアは剣を鞘に納めたまま動かない。


 

 

「え? 必殺技を教えて欲しい?」

「はい、だってカッコいいじゃないですか!!」


「でもなあ……必殺技って意外と地味だったりするんだぞ」

「そうなんですか?」

「ああ、生物の弱点というか弱いところを狙うのが必殺技だから、どうしても派手さよりも正確さ重視の技になる」

「なるほど……勉強になります」



 先生……あの時教わった必殺技――――とうとう使う時が来ましたよ。


「いいかセレス、必殺技はこちらにとっても危険と表裏一体だ。失敗すればこちらがやられる。だから必ず一撃で倒すんだ」


 はい――――あれから私、死ぬほど練習したんですよ、幸運なことに使う機会は無かったですけれど。


 人間には鍛えられない場所がいくつかある。


 そこを撃ち抜けばどんなに肉体を強化しても関係ない。




「イアイ……ですか?」

「ああ、昔異世界から召喚された勇者が使っていた技らしいんだが――――」


 最短距離で剣を振り抜く。


 全ての力を集約させて解き放つ――――静から動へ


 予備動作が一切ないからこそ初見では絶対に避けられないまさに一撃必殺――――しかしその分相手の懐に入らなければならないので失敗すれば危険は大きい。 

 

「セレス、目だ、目を狙え」

「目……ですか?」


「ああ、目は鍛えられない。俺はその方法で竜を倒したからな」


 災害級の竜を倒さなければならなかった先生に比べれば――――こんな人間相手なら怖くもなんともない!!



「ハハハ!!! 何か狙っているようですが無駄ですよ、無駄無駄無駄あああ!!!!」



 余程自身の肉体に自身がおありのようですね――――


 ――――隙だらけですよシュレクター



 喰らいなさい――――先生直伝の必殺の一撃を!!!




『ファーガソニック・ギャザリング!!!』




 セレスティアから放たれた剣先は、まるで閃光のようにきらめいて正確無比にシュレクターの目を貫通する。


「が……ば、馬鹿な……なぜ……」


 何が起きたのか理解できないまま、シュレクターは絶命した。



 やりましたよ――――私


 もう一滴も余力は残っていない。すべてを出し切って掴んだ紙一重の勝利。





 ねえ――――先生


 私――――少しは強くなれたでしょうか――――?


 ――――ファーガソン先生



 シュレクターが倒れるのを見届けたセレスティアの瞳から光が消え白色のオーラが霧散する。


 もはや意識は残っていない――――







 

「ああ、強くなったなセレス」


 崩れるように倒れるセレスティアを男が優しく受け止める。



「ねえ、ファーガソン」

「なんだリエン」


「何ですぐに助けなかった? 一歩間違えれば死んでいた」


 不満そうに口を尖らせるリエン。


「そうだな……その必要性を感じなかったから、かな」

「なにそれ……ずいぶんと信用してるんだね、彼女のこと」 


「信用か……ちょっと違うな。少しでも危険だと思えばすぐに動けるようにしていたさ。でも……そうだな……たしかに俺が動いた方が確実で安全だったのは事実だ。だからさ、それはただ俺が……見てみたかったのかもしれない、彼女が己の限界を超える瞬間を――――な」

「余計にわからない」


 頬を膨らませるリエンに苦笑いするファーガソン。



「とりあえず酷い状態だ一旦戻ってチハヤに治療してもらおう」

「そうだね、それじゃあ私はここで座標石持って待ってるよ。ついでにあの獣人の子にも事情を説明しておく」

「悪いなリエン」

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