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第十八話 ガルガル焼き&VIPルームアゲイン

 

 わかっている。これは聞いた俺が悪い。



「ふふ、ファーガソン様、せっかくの仮眠室でしたのに、結局一睡も出来ませんでしたね」


 いかん……完全にギルドの掌の上で転がされているような気がして来た。

 

 この後、ローラの相手もしなくてはならないのに……天国で過労死とか洒落にならん。


「あ、忘れずに指名依頼の確認もお願いしますね」


 ……そっちもあったな。


「なあシンシア、この街にガルガル焼きが食べられる店はあるかな?」

「あら、ファーガソン様はガルガル焼きをご存じでしたか。うふふ、そういうことでしたらこの私にお任せください」 



◇◇◇


  

「シンシア、仕事は大丈夫なのか?」


 ギルドを出て隣を歩くのは私服に着替えたシンシア。


「はい、ファーガソン様に関することでしたらすべて仕事扱いになりますので」


 店の場所を教えてもらうだけで良かったんだが……案内すると張り切っているシンシアを見てしまうと断れなかった。


「ん? どうなさったんですか? そんなに見られると恥ずかしいです」

「いや、シンシアはすごいなって思ってな。何でもできるし、知的で……それにとても魅力的だ」

「なんですか? またVIPルーム行きますか?」


 嬉しそうに笑うシンシアの(みどり)がかった青い髪が揺れる。青系の髪はファティアと同じ南方系の特徴だ。南方系の女性って、知的でクールな印象が強いのに、情熱的というギャップがあるんだよな。


 こんな好みど真ん中の子とガルガル焼きなんか食べて大丈夫だろうか?



「お母さん、大事なお客さん連れて来た!! 白銀級の冒険者のファーガソン様」

「なんですって!! それは大変、ささっ、どうぞファーガソン様、娘がいつもお世話になっております」


挿絵(By みてみん)


 『紺碧亭』と書かれた看板が目立つ食堂に入ると、シンシアによく似ているが、やや髪色に青が強い女将さんが大慌てで頭を下げる。お母さん……だと!? これはさすがに想像していなかった。


「一番強力な奴出してあげてね?」

「あはは、言われなくてもそのつもりだよ!!」


 いや……シンシア、俺は普通ので十分――――


 反論する間も無く、俺がアグラで食べたガルガル焼きを二倍くらいにした奴が出される。


 もちろん食うさ。


 出されたものは可能な限り残さずいただく。それが俺のポリシーだからな。

 


「あはは、さすがは白銀級冒険者様ね。良い食べっぷりだわ」

「本当に。まさか一人で全部食べ切るなんて……素敵です」


 シンシアの母親のテレシアさんは、女手一つでシンシアを育て上げ、この店を切り盛りしているらしい。実際たいしたものだし素直に尊敬する。


「いやいや……先日アグラで食べたガルガル焼きも美味かったが、この店のは最高だ」


 お世辞抜きにマジで美味い。同じ料理なのにここまで違いが出るものなのか?


「ふふ、嬉しいことを言ってくれるわ。うちのガルガル焼きには秘伝のタレを使っているからね」


 なるほど、秘伝のタレとやらが違いを生んでいたんだな。


「まあ、一番はたっぷり注いだ愛情だけどね」


 それも違いない。



「でも良かったのか? 俺一人のために店を貸し切りにしてしまって?」


「あはは、そんなの気にしないの。もちろんお代はいらないよ?」

「いや、しかしそれは――――何か困っていることとかあれば力になるぞ?」


 いくらなんでもさすがに申し訳なさすぎる。


「困っていることねえ……そうだ!! ねえ、シンシア、弟か妹欲しいって言ってたよね?」

「うん欲しい!! あ、そうだお母さん、そろそろ孫の顔が見たいって言ってたよね?」


 マズいな……いや、料理は美味かったし、この状況も半分は想定していたから驚きはないんだが、リエンたちも戻って来るし時間……間に合うだろうか?



◇◇◇



「悪いわね、白銀級のお方に頼むような依頼じゃないんだけど」

「大丈夫だ。世話になった分、なるべくたくさん採って来る」


 帰り際、秘伝のタレに使うミリリンの実が無くなりそうだとテレシアさんが言っていたので、食事の御礼に採って来る約束をした。ギルドに依頼すると高くつくからな。

 

「ファーガソン様……とても素敵な食事でしたね。ぜひまた食べに来てください」


 ……ああ、たしかに素晴らしい食事だった。今度はもっとゆっくりしたいものだが。


 満足そうなシンシアと腕を組んでギルドに戻る。そろそろリエンとローラが戻ってくる頃合いだ。




「ただいま~!! ファーガソン様、リエン様の御買物無事完了しました~!!」


 元気なローラの声と共に、たくさんの荷物を抱えた二人が戻ってくる。


「うむ、ローラのおかげで色々と勉強になったし本当に助かった」


 リエンもすっかりローラと打ち解けているようで安心した。辛い過去が変わるわけではないが、少なくとも俺と旅を続ける間は笑顔でいて欲しい。未来はここから積み上げて行けば良いんだ。



「ありがとうローラ、本当に助かったよ」

「いえいえ、私も楽しませていただきましたし、気にしないでください。欲しいものも買っちゃいました」


 ローラの真っすぐなところはとても好感が持てる。やはり育ちが良いんだろうな。


「それじゃあ行こうかリエン、今夜は盗賊討伐の祝勝会だからな」

「うむ、ファーガソンの仲間に会えるのは楽しみなのだが、少し休憩しても構わないか?」


 そうか……よく考えたらリエンはまだ体力がまったく戻っていないんだよな。朝から街までずっと馬車移動だったし、買い物巡りでさぞかし疲れたことだろう。

 

「それじゃあリエン様は仮眠室で少しお休みになっていただいた方が良いですね。ファーガソン様、待ち合わせまでまだ時間はあるのでしょう?」

「そうだな……二時間くらいは大丈夫だ。リエン、ゆっくり休んで来ると良い」

「すまんな、お言葉に甘えて少し休ませてもらうとしよう」


 余程疲れていたのか、ふらふらしながら仮眠室へ消えるリエン。


「さて、俺も少し仮眠を――――」

「ファーガソン様」

「どうしたローラ」


「VIPルームにご案内いたしますわ」


 VIPルームか……なんだろうこの既視感は。

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