第十七話 受付嬢ローラとシンシア VIPルームは天国
「思ったよりも早く終わったね。私も残りの雑用片づけたら今日はもう休むから、ファーガソンもゆっくり休んでね」
帰りの道中は順調そのもので、昼過ぎにはダフードへ到着した。
さすがのエリンも若干気怠そうに見える。まあ、寝不足だけが原因じゃないとは思うが。
「あはは、本当にお疲れ様でした、ファーガソン様」
ウルカも疲れ切っているな。あれだけエリンに振り回されて、リエンのフォローもしていたんだ。無理もない。
今回の依頼では、リエンという新しい仲間も出来たし、高額報酬も手に入れることが出来たから文句は無いんだが、別の意味でなかなかハードな依頼だったな……俺もほとんど寝ていない。
ファティアたちとの待ち合わせは夜だからまだ相当時間があるし、宿に戻ったら仮眠でもするか。
「これからどうするんだファーガソン?」
「まずはギルドで依頼達成の手続きだな。リエンも今回の依頼の報酬があるから、お前も手続きする必要があるぞ」
「私はまったくわからないんだが……?」
そりゃそうだ。
「大丈夫だ。面倒な手続きはエリンが全部やってくれるから、今回は冒険者証を受付で出すだけで問題ない。やり方は俺の隣で見ていればわかる。少しずつ慣れて行けば良いさ」
ここダフードでなら問題ないが、仮にもリエンは金級冒険者だ。あまりに何も知らないと他の場所で不審がられてしまうからな。ここに滞在している間に何度か依頼をこなして慣れてもらう必要があるだろう。
幸いリエンは頭の回転が速く、元々の教養レベルが半端ではないので、理解も速い。誰も読まない分厚い冒険者規約まで読み込んでいたから、下手すると俺より詳しくなる日も遠くないかもしれない。
「よし、報酬も受け取ったし、宿に戻ってゆっくり……と言いたいところだが、まずはリエンの買い物しないとな」
「私の買い物? 何を買うのだ?」
「何って……着替えとか日用品とか武器や装備とか必要だろう? 服だってエリンからもらったそのローブしか持ってないんだから」
「言われてみればそうだな……しかし、買い物もしたことが無いし、何を買ったらいいかすらわからん」
そうか……リエンは王女様だったから、身の回りのことは自分ではやったことないよな。とはいえ、俺じゃあ役に立たないし、ファティアたちはどこにいるかわからないから困ったな……。
「ふふ、お困りのようですね!! ファーガソン様」
「おお、貴女は受付のお姉さん!!」
「……ローラです。そろそろ名前覚えてください」
「すまんローラ、今覚えた」
「まあ良いでしょう。それでファーガソン様、リエン様のことでお困りなんですよね?」
「よくわかったな」
「えへへ、実はさきほどギルドマスターから頼まれただけです。困っているだろうから手助けしてやれと」
エリンありがとう。さすがギルドマスターやっているだけあって、本当に頼りになる。
「ふふ、何を隠そう私、実は貴族家の令嬢で侍女見習いの教育も受けていますから、すべてお任せください」
「おお……ローラが女神さまに見えるぞ」
「もちろん、報酬はファーガソン様からきっちりいただきますからね? うふふ」
ローラの猛禽類のような目が光る。
そういうことか……ま、まあ良いだろう。実際困っているのは間違いない。
「これで足りるかな?」
「十分過ぎます」
「もし余ったら、二人で美味しいものでも食べてくれ。ローラが必要なものを好きに買ってくれても良い」
「えええっ!? 良いんですか!! 嬉しい、ありがとうございます!!」
ローラに支度金百万シリカを渡すと大喜びで出かけて行った。これでリエンの方は何とかなりそうだな。
「さて……今のうちに仮眠しておくか」
宿に戻ろうかと思ったが、リエンのこともあるので、ギルドの仮眠スペースを利用することにする。
ギルドには必ず冒険者のための仮眠室が併設されている。俺は白銀級なので、利用は無料だ。金に困っているわけではないが、所属する組織から大切にされていると感じることは意外とモチベーションの維持に役立つので馬鹿にならない。
「やあ、仮眠室を利用したいんだが、空はあるか?」
「あら、ファーガソン様、仮眠室ですね……はい、大丈夫です。当ギルドにはVIPルームがございますのでご案内いたしますね」
VIPルーム? それはすごいな。たかが仮眠室におおげさな気もするが、良質な環境は回復に役立つ。酷いギルドだと、床にそのまま雑魚寝させられるからな……まあ風雨がしのげるだけそれでもかなりマシではあるんだが。何よりも安全だということが大きい。
「あ、そういえばファーガソン様あてに草むしりの指名依頼が何件か来ておりますが、今確認いたしますか?」
「そ、そうか……わかった、後で確認させてもらうよ」
なぜ指名依頼が何件も? まさかマリアの口コミ?
貴族社会は口コミというか良くも悪くも情報が伝わるのが早い。特に女性同士のネットワークは恐ろしいほどだと身をもって実感する。
「こちらがVIPルームになります。貴重品はあちらのカウンターに預けることも出来ますので、ご利用くださいね」
おおお!!! これは素晴らしい……もはや高級宿並みじゃないか。エリンはギルドマスターとして本当に有能なのだな。他のギルドもぜひ見習ってほしい。
「ファーガソン様、まずは汗を流してはいかがですか?」
「え? まさか風呂があるのか?」
「はい、こちらへどうぞ」
VIPルームには小さいながらも立派な浴槽が付いていた。
しかも――――
「おお、湯沸かしの魔道具か!!」
有難いことにお湯が使えるのだ。これは嬉しい。
「フフ、喜んでいただけて良かったです。それでは服を脱がさせていただきますね」
「あ、いや、そのくらいは自分で――――」
「これもサービスに含まれておりますので」
そうなのか。それなら断るのも悪いか。
「まあ……なんてたくましい。ではお身体洗わせていただきますね」
「い、いや、さすがにそこまでは――――」
「これもサービスに含まれておりますので」
なら仕方がないな。
「そういえば君の名前は?」
「シンシアです」
シンシアのおかげで王さま気分を味わうことが出来た。VIPルーム最高だな。
「お疲れ様でした。何かお飲み物をお持ちしますか?」
「シトラ水を頼むよ」
「かしこまりました」
ふう……風呂上がりに冷えたシトラ水はたまらない。これは氷系の魔道具でも使っているのかもしれない。
「ありがとうシンシア。おかげでゆっくり休めそうだよ」
心身ともにさっぱりしたら瞼が重くなってきた。
「それは何よりです。無料でマッサージのサービスが付いておりますので、そのまま横になっていただければ。そのまま寝てしまっても大丈夫ですからね」
なんてこった……マッサージを受けながら眠れるとか、ここは天国なのか?
「なんだか至れり尽くせりで悪いな」
「お気になさらず、これもサービスに含まれておりますので」
これで無料とか申し訳なさ過ぎる。何か個人的に御礼をしたくなってしまうな。
「なあシンシア、何か俺に出来ることはないだろうか?」