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第百六十話 鈍い男


「ファーガソン、チハヤの力、もしかしたら対帝国の切り札になるかもしれない」


 聴取を終えて外に出ると、リエンがチハヤを目で追いながらつぶやく。


「ああ、そうだな。浄化することで能力そのものを無効化出来れば勝算は大きくなる」


 力というものは恐ろしい。一度手に入れてしまえば以前には戻れない。どうしても力に頼った戦い方というものになってしまう。


 もちろん帝国は異能無しでも強大であることに変わりはないが、想定していたものが使えなくなった時、対応することは簡単ではない。


 特に今の帝国は異能によるゴリ押し戦法で無茶な拡大路線をひた走っているようだからな。



「だが……いくら有用だからといってチハヤを危険な最前線に連れて行くというのは同意できない」

「わかっている。敵がどんな異能を持っているかわからない以上、チハヤに絶対危険なことはさせないさ」


 たとえチハヤが聖女であったとしても、戦えるわけではないのだ。


 それに――――


 これは王国と帝国の戦いだ。異世界人であるチハヤを巻き込んで良い道理はない。


「――――なんてこと考えてるでしょう?」

「ち、チハヤ!? お前……心が読めるのか?」


「そんなわけないでしょ。ファーギーはわかりやすいんだよ、自覚無いみたいだけど」


 呆れた様子のチハヤ。そういえば、誰かにわかりやすいと言われた気が……。


「……リエン?」


 視線を送ると苦笑いしながら頷くリエン。どうやら俺は本当にわかりやすいらしい。


「はっきり言っておくね。私、助けられる力があるのに見ているだけなんて絶対嫌だから」


 やれやれ……言い出したら聞かないところがあるんだよな。俺も他人のことは言えないが。


 それでも――――はいそうですかと言うわけにはいかない。


「だが……あまりにも危険だ」





「大丈夫だよ」


 どこまでも自然体で微笑むチハヤ。



「だってファーギーが守ってくれるんでしょ?」


 本当に――――


 敵わないよ、チハヤ。


 お前が大丈夫だと言えば本当にそんな気がしてしまう。



「ああ、もちろんだ。お前には指一本触れさせない、この命に代えても……な」

「あはは、そこだけ聞くと愛の告白みたいだね~ちょっと嬉しいかも」


 ……なぜそうなる?


「ファーガソン……お前はわかりやすいだけじゃなくて意外と鈍いところがある」


 リエンが呆れた様子でツッコミを入れてくる。


 そんな馬鹿な、自慢ではないが俺の勘の鋭さは超一級だぞ? そのおかげでこれまで生き残って来たんだ。



「あはは、言っても無駄だよリエン」

「そうみたいだな。どうやらファーガソンは戦闘特化型、必要なリソースを全て割いた結果そっち方面の能力は青銅級が妥当といったところか」


 なぜか意気投合して笑いあっているチハヤとリエン。


 何となく失礼なことを言われているような気がするが……こういうところが鈍いということなのか?





「ファーガソン、リエン、せっかくの休暇にすまないな」


「気にするなアルディナ、元々こちらからお願いしようと思っていたことだ」

「ファーガソンに同意。それよりアルディナ、首都エルミスラにはどうやって行くつもり?」 


 リエンが瞳を輝かせている。何を期待しているんだか……。


「歩いて行ったら七日はかかるからな、今回はゲートを使って移動する」 

「やったあ!! あの転移系の魔法か。楽しみ過ぎる」


 転移系? ああ、あのアルディナが消えた魔法か。


「ハハハ、確認していないが、私の知る限り外部の人間が使用を許されたのは初めてだと思う」


 ふむ、長老会もそれだけ危機感を持っているということか……? それなら案外話はスムーズにいくかもしれないな。



「ところでどこにゲートがあるんだ?」


 てっきり門のような魔道具があるのかと思っていたんだが。

 

「首都エルミスラにはゲートがあるから魔道具は不要だ。ちなみにミスリール国内ならどこからでも首都へ飛べる」


 つまり……設置されたゲートに向かって転移する魔法……ということか。それにしても広大なミスリール全土が範囲とは……凄まじいな。


「なるほど、ゲートが座標の働きをしているのかな……アルディナ、他にもゲートはあるのか?」


 リエンが興味深そうにたずねる。


「ああ、ミスリールヘイヴンを含めて国内の主要集落には設置されている。ただし、機密保持のため場所を知り使用出来るのは私を含めて一部の者だけだがな」


 それは当然だろうな。誰にでも気軽に使えたら便利ではあるが、有事には敵にも使われてしまうからな。 


「どうやって行き先を指定するんだ?」

「ははは、リエンは魔法となると目の色が変わるな。私はゲートに使用者登録をしているから、場所を念じるだけで済む」

「ほほう……ますます興味深い。誰かは知らないがゲートを作った者は間違いなく天才だな。早く実物を見てみたいものだ」


「ふふ、すぐに見れるさ、二人とも私にしっかりと掴まってくれ」


「わかった」

「了解」


「よし、それでは飛ぶぞ――――エルミスラ」


 俺たちがアルディナに掴まると――――


 一瞬だが視界がブレる。



「着いたぞ、ようこそ首都エルミスラへ」 


 今まで森の中に居たはずなのに、次の瞬間巨大な神殿のような場所が目に飛び込んでくる。


 目の前にあるほのかに発光する朱色のシンプルな門のようなものがゲートだろうか? 変わった造形だな……シンプルなのに見たことが無いデザインだ。



「わあ!! これがゲートか……ねえアルディナ、ちょっと見ても構わない?」

「ああ、お前には結界の再構築をしてもらわなければならないからな。壊さなければ好きなだけ見れば良い」

「好きなだけっ!!!」


 歓喜の叫び声を上げるリエン。


「アルディナ、リエンに好きなだけは危険だ。何時間どころか何日も動かなくなるぞ」

「そうなのか? ではとりあえず長老会が始まるまでだ」


「わかった。私はここにいるから時間が来たら呼びに来て」

「では二時間後に迎えに来る」


 聞こえているのかいないのか。すでにリエンの返事は無く、ゲートに夢中になっている。

  


「なるほど……たしかにあれでは動けなくなるまでああやっていそうだな」

「ああ、普段はわりと無関心というかむしろ冷めている感じなんだがな……」


 俺も剣の修行をしているときは似たようなものかもしれない。


 気付いたら三日経っていて依頼をキャンセルされたことがあるからな……。 

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