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第百四十八話 料理人ルーイ


「料理……どう?」


挿絵(By みてみん)


 店の奥から調理服姿のルーイさんが姿を現す。


 食事中一度も姿を見せないなと思っていたが、てっきり店のオーナーの息子というだけでなく料理人でもあったのか。


「ルーイさん、冒険者のファーガソンだ。心が満たされる――――素晴らしい料理だった。食べることが出来て幸運だったよ」

「そう……良かった」


 相変わらず不機嫌そうで言葉数は少なかったが、なんとなく喜んでいるのかなとなぜか感じた。


 何人ものエルフと交流を深めて来たからだろうか。エリンとフリンを見分けることに比べたらなんてことないという自信なのか。どちらにせよ少しでもこの感謝と感動の気持ちが伝われば嬉しい。


 それにしても、エルフ親子の年齢差を考えたら熟練度という意味で追いつくことは難しいだろうが、これだけの店を任せられているんだ。その腕、センスは天才的だと心から思う。


「そうだ。なあルーイさん、あの『センチュリー・フォレスト』という酒はどこかで購入できるのか? とても気に入ってしまったんだ」

「……お酒?」


 ルーイが困ったように固まってしまった。変なことを聞いてしまったかな?


「ファーガソンさま、残念だけど『センチュリー・フォレスト』は非売品なんだよね。ただ他にも購入出来る美味しい果実酒があるから、おすすめの銘柄と扱っている店をいくつかピックアップしてあげるよ」


 ティアが脇から教えてくれる。


 なるほど……まあそうだろうな。希少な酒だろうし、本来ミスリールの人々が楽しむべきものだ。


「……ちょっと待ってて」


 そう言い残して店の奥へ消えてしまったルーイさん。失礼なこと言って気分を害していないと良いが。


「今の内に会計頼めるか?」

「ああ、お会計ならすでにティアさまからいただいております」


 ティアが払っておいてくれたのか。


「悪かったなティア、結構な金額だっただろう?」

「気にしない気にしない。今夜は私にご馳走させてよファーガソンさま」


 そう言ってひらひらと手を振るティア。


「いやしかし……一人や二人分じゃないんだぞ?」

「あはは、気にしないで。幼馴染価格だし、誘ったの私だし。それにこう見えて結構裕福な家の娘だからこの程度痛くもかゆくもないし。エルフってね、生活にほとんどお金かからないんだよ。だから使う機会なんて滅多にないんだ。だからさ」


 なるほど……そういうことなら今回は甘えさせてもらうか。


「わかった。今夜はご馳走になるよティア。その代わり、もし困ったことや助けが必要な時は遠慮なく言って欲しい。俺とお前はパートナーなんだからな」

「ファーガソンさま……うん、じゃあ早速一つお願いしても良い?」


「ああ、何でも言ってくれ」

「ファーガソンさまが……為すべきことを為し終えたら――――また会いに来てくれる?」


 そんな泣きそうな顔するな、ティア。この場で抱きしめたくなるじゃないか。


「ああ、必ず。約束するよ」 

「うん、必ずだよ」


 戻って来なければならない場所が増えてゆく。


 結局、俺はこうやって旅を続けるのかもしれない。それもまた楽しいことだと思うのだ。



「これ……お土産」


 なんとルーイさん、わざわざお土産を持って戻って来た。


「ありがとうルーイさん。お土産まで良いのか?」

「構わない……余っていただけ」


 気にするなと軽く頷くルーイさん。


「そうか、それじゃあ有難く頂戴するよ。また必ず食べにくる」

「予約いらない」


 ん? どういう意味だ?


「ファーガソンさまたちなら予約も紹介も不要だからいつでも好きな時に来て構わないってさ」


 ティアが翻訳してくれる。すごいな……あの短い言葉の中にそんな情報が。




「ルーイさん、良い人だったな」


「本当だよね、料理は上手いしイケメンだし」

「人族の街に来たら人気で大変なことになるでしょうね」

「寡黙なところもカッコいいです」

「悔しいですけれど料理の腕は素晴らしかったです。調味料に頼らない素材を活かした料理、とても新鮮で勉強になりましたし」


 ルーイさん、女性陣の評判良いな。


「ねえティアさん、もしかしてルーイさんって恋人?」


 リュゼが目をキラキラさせてたずねる。


「へ? いやいや、ルーイはただの幼馴染だから。それからリュゼさまは勘違いされているようですがアイツは女ですよ?」


 苦笑いするティア。


「「「「「えええっ!?」」」」


 マジか……俺も完全に男だと思っていた。言われてみれば綺麗な顔をしていたが、エルフだしな……。アルディナもそうだが、エルフの男女の見分けはいまだに難しい。フィンクさんくらいわかりやすい人は滅多にいないんだよな。


「それに――――私の恋人はファーガソンさまですし」


 ティアの発言にリュゼが固まった……。


「ファーガソン……抱っこしなさい」


 なぜだ? まあするけれど。


「それよりルーイのヤツ、よっぽどファーガソンさまのことが気に入ったんだろうな。あんなに愛想が良い奴じゃないし……それに……その土産、『センチュリー・フォレスト』だよ? まさか……惚れたのかな? あはは」


 待てティア、あれで……愛想が良かった……だと!? 普段はどうやって意思疎通しているんだ……。


「ファーガソン……肩車しなさい」


 なぜだ? もちろんするが。


「たぶん、フィーネが言っていたフェロモンとやらのせいだと思うぞ?」

「ああ、そうみたいだね。自覚があるなら大丈夫かもしれないけど、なるべく換気の悪い場所でエルフと長時間一緒に居ない方が良い。さっきの店だって、従業員が危険な状態だったからね?」


 そうなのか? 全然気付かなかった。


 それでセリーナがずっと殺気を放っていたのか。てっきり機嫌が悪いのかと心配していたんだが。


「わかった。なるべくオープンテラスタイプの店を選ぶように注意する」 

「後はとにかく一人では行動しないこと、だね。エルフは欲望よりも礼儀やマナーを優先するから、連れが居るならそう簡単には声をかけてこない……はず。その点については可能な限り私が一緒に居てあげるから安心してね」


「助かるよ、ティア」

「良いって、私にもメリットしかないし。でもさ、ちょっと勘違いしているみたいだから言っておくけど、フェロモンだけで落ちるほどエルフは甘くないからね? ファーガソンさま自身からにじみ出る魅力そのものに惹かれているんだってことは知っていて欲しいな。私たちエルフは、そういうものにとても敏感で素直なんだよ」


 フェロモンのせいじゃない。それはあくまでも背中を押す程度のものだとティアは言う。


「そうか。それは何と言うか……ちょっと嬉しいものだな」

 

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