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第百四十一話 ギガント・ブリューとボロノイ・バイター


「ここにいたのか、探したよフィーネ」


挿絵(By みてみん)


 街の出口に向かって歩いていると背後から聞き覚えのある声が。


 アルディナの副官のティアだ。


「……ティア、一体何の用ですか?」

「参考人として長老会から招集がかかっている。早く行った方が良いよ、あいつら年寄りのクセに気が短いから」


 そういって両肩をすくめるティア。


「くっ……しかし私にはやらなければならないことが……」

「ああ、それなら大丈夫。私が代わりにやっておいてあげるから」


 にんまりと笑うティアにフィーネが苦い顔をする。


「……お気を付けくださいファーガソンさま。このエロフ、ファーガソンさまとファーガソンすることしか考えておりません」


 そんな馬鹿な……と言いたいところだが、魔眼のフィーネが言うならそうなんだろうな。


「酷いなあフィーネ。私だって少しぐらい仕事のことも考えているよ。安心して」


 そういって髪の毛一本摘まんで見せるティア。本当にちょっとなんだな……ある意味潔いのか。


「……まあ仕方ないですね。ファーガソンさま、申し訳ございませんが、エルダートレントの件はティアにバトンタッチしますのでよろしくお願いいたします」


「わかった。フィーネも大変だな」

「あはは、今後のためにも出来るだけ頑張ってきますね」

 

 魔眼を使うつもりなのだろうか? 無理はして欲しくないが……彼女なりの決意があるのだろう。


 森へ入ったらたくさんファーガソン休憩しようと楽しみにしていたフィーネが不憫だが、こればかりは仕方がない。




「うん、やっと二人きりになれたね?」


 ぴったりと抱き着いてくるティア。


「ティア、悪いがエルダートレントの件が先だぞ?」

「ちぇ~、意外と真面目なんだねファーガソンは」


「そうでもないがな」

「あはは、たしかに!! フィーネの匂いがすっごい濃厚に染み付いてるもんね」


 そうだった……エルフ同士はわかるんだったな。なんか気まずい。



「ふーん……馬を飛ばそうと思っていたんだけど……うん、こっちの方が良いね」


 匂いから記憶を読み取ったのか、両手を差し出してくるティア。


「よし、じゃあ行くか!!」

「うん!!」


 ティアを抱き上げて再び走り出す。


 苦しんでいるエルダートレントを助けるために。




「ねえファーガソンさま」

「どうしたティア」


「疲れたからファーガソン休憩したいんだけど」

「……疲れる要素があったか? それにあと少しで到着するぞ?」

「何言ってるの、ファーガソンを我慢するのに疲れちゃったんだよ!!」


「……おう」


 それなら仕方ないか。フィーネにだけ休憩を許してティアには駄目というのも筋が通らない。




「よし、元気になったし仕事終わらせよう!!」

「突然やる気になったな、ティア」

「うん、ちゃちゃっと仕事終わらせてたくさんファーガソンしたいからね」


 爽やかな笑顔で言い放つティアが眩しい。



「おお、ファーガソンさん、それに……ティアさままで!? 街に戻ったのでは?」


 街までの距離と時間を考えたら今日中に戻って来るとは思っていなかったのだろう。ルーナスさんが驚いて目を丸くしている。ファーガソン休憩がもう少し減らせばもっと早く来れたんだがな。


「ねえファーガソンさま、今変なこと考えてなかった?」

「いや、何も」


 エルフは魔眼がなくても結構鋭い気がする。迂闊なことは考えられない。


「ルーナスさん、ギガント・ブリューを手に入れた。さっそく試してみよう」

「おお!! まさか……本当に……女神エルヴァニアに感謝を」


 ルーナスさんもいい加減限界だったのだろう。本当に嬉しそうな笑顔を見せる。


「それで? この酒をこの穴に注入すれば良いの?」

「ああ、出来るかティア?」

「こんなの余裕だって。私は樹液だって魔法で吸い出せるんだから」


 自慢げにその少年のように薄い胸を張るティア。


「えい!!」


 この程度なら魔法の詠唱さえ必要ないらしい。ティアの魔法でギガント・ブリューが穴の奥へするすると入ってゆく。


「これでしばらく様子を見よう」




『URUUUUUUUUUU……』


「うわっ!? なんか出て来た!!」


 穴の中から長さ一メートルほどの細長いモノが這い出てきて動かなくなった。


 どうやらちゃんと効果があったようだ。


「上手く行ったみたいだな。これがボロノイ・バイターの幼体だ」


 堅い木を噛み砕くこげ茶色の顎に幾重にも層になっている青白い体。


「これがボロノイ・バイターか……キモいね」

「なるほど……これが……研究用にいただいてもよろしいでしょうか?」


「構わないが食べないのか? めっちゃ美味いぞソレ」


「え……? コレ食べれるの?」

「ほう!! それは興味深い」


 成体はマズいが幼体は激ウマだ。一度食べたら病みつきになる。


「ファーガソンさん、それなら他のエルダートレントも治療してしまいましょう!!」

「……ルーナスのヤツ、食べる気満々だね……はあ……仕方ない、やりますか」



「今日のところはこんなところでしょう」


 ルーナスさんが九匹目の幼体を回収したところで作業の中断を告げる。


 幼体を取り除いたエルダートレントはルーナスさんの治療で容体は回復しつつある――――が、強い酒の影響か酔っぱらっているようにもみえる。


「うへえ……これだけ並ぶと壮観だね……」

「ああ、こんなに大きな幼体は見たことが無い。おそらくはエルダートレントを食べて育ったからだろうな」


 通常サイズの二倍から三倍は優に超える大物だ。


 一般的に大きい個体は味も大味になりやすいものだが、はたしてどうだろうな。

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― 新着の感想 ―
セミの、羽化間際の幼虫が美味しい、なんて話は聞いたことありますけど。 松食い虫(カミキリ虫)の魔物?の幼虫が、美味しいとはねえ。 まあゴキブリさんのから揚げよりは、気分的にマシかもしれないですね~。 …
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