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第百四十話 ダイクを探せ


 ……いかん。フィーネと休憩しずぎて街へ戻るのがすっかり遅くなってしまった。


 すぐにダイクが見つかると良いんだが……。



「ファーガソンさま、ここは私にお任せください」

「フィーネ……? 何をするつもりだ」

「たとえ呪いでも……役に立つことはあるのですよ」


 軽く微笑んだフィーネが、街に向かって薄っすらと目を開く。


 無茶だ!! まさか……街全体に魔眼を使うつもりか!?


「……くっ!?」


 両耳を押さえてうずくまるフィーネ。


「大丈夫か、顔色が悪いぞ」

「……この程度なら大丈夫です。それよりもヤツの居場所がわかりました。行きましょう」


 無茶しやがって……。一度に不特定多数の意識が流れこんできたら……お前の心が壊れてしまう。


「心配してくださるんですか? ふふ、以前の私ならそうかもしれませんが……今は違います。アナタがいるから私は壊れません。それよりも役に立てることが嬉しいのです」


 そんなことを言われたら……また休憩したくなるじゃないか。


「これは……一刻も早くヤツを見つけなければ……ですね!!」


 フィーネも休憩する気満々だな。

 



「本当にここで間違いないのか?」


 路地裏に入ったが行き止まりだ。


「はい、どうやら無許可の闇酒場のようですね。入口が巧妙に隠されています」


 渋い顔をしながら行き止まりの壁の一部を押すと、地下への階段が姿を現した。


「……無駄に凄い技術だな」

「ドワーフ族は見た目と粗暴な性格からは想像もできないほど器用ですからね……こういうカラクリは得意のようです」


 魔眼の力はすごいな……どんな秘密も丸裸にしてしまう。


「さて、入ってみるか……フィーネは俺の後ろから来てくれ」

「はい」



「おう、誰に聞いてどうやって入って来たのか知らねえが、ここはドワーフ族専門の店だ。悪いことは云わねえ、さっさと帰んな」


 階段を降りてゆくと店の用心棒だろうか? 屈強なドワーフ二人が立ち塞がる。


「ミスリール行政局の者です。無許可の営業は違法ですよ。これ以上立場を悪くしたくなければ大人しく通しなさい」


 フィーネが用心棒に身分証を提示すると二人の顔色が変わる。


「ちっ……面倒なヤツに見つかっちまった。どうする?」

「とりあえず捕らえてオーナーの所へ連れて行けばいいんじゃねえか?」


 やれやれ腕っぷしは強そうだが頭は回らないようだな。そんなことをしても罪が重くなるだけだろうに……。


「フィーネ、下がってろ」

「そうですね……話して通じる相手ではなさそうです」


 うんざりしたようにため息を吐くフィーネ。


「なんだお前は? 人族がドワーフに勝てると思ってんのか?」

「女の前だからって恰好つけてんじゃねえぞ」


 フィーネの言う通りだ。ドワーフ族相手に話し合いは無意味。



「いてててて……わ、悪かった……降参するから許してくれ」

「あわわわ……お前……バケモンじゃねえか……」


「……中、入るぞ」

「ひぃっ!? ど、どうぞ……」


 店内はドワーフ族専門というだけあって、天井が低い。フィーネはともかく俺は少しでもジャンプしたら頭をぶつけるな……コレ。



「何事だ? 表の連中は何をしてる?」


 野太い声がして店の奥から店長らしきドワーフが出てくる。



「よう兄弟」

「げっ!? ファーガソン……なんでここに? うわっ、フィーネたんまで……」

「……その呼び方はやめてください」

 


「なるほど……ね。冒険者は隠れ蓑で、本業は違法酒場のオーナーというわけか?」

「いや違う、両方とも本業だ。それに闇酒場は儲けるためにやっているんじゃねえんだ!! 慣れない土地にやってきた同胞に少しでも楽しみを提供するためでな……」


 必死に言い訳をするダイク。性格的に嘘を言っているわけではないだろうが……。おそらくだが、書類とか届け出とかよくわからないまま面倒くさいことを後回しにしていたんだろう。隠し通路や隠し扉は、こそこそ隠れていたわけではなく、種族的な習慣によるものだろう。


「黙りなさい。理由は関係ありません。他の店はきちんと届け出をして税金をおさめているのです。脱税は重罪ですよ? 運が良ければ店と資産の没収と国外への永久追放……悪質と認められれば……死罪もありえるでしょうね……」


 フィーネの言う通りだ。法の前では理由は関係ない。わからないなら聞けば良いこと。それすらもせずに放置していたなら、経営者の怠慢に他ならない。そんなことを認めてしまったら誰も法を守らなくなり無法地帯となってしまう。


「そ、そんな……た、頼む、助けてくれ……」


 真っ青になって震えあがるダイク。 


 仕方ない奴だな。少しだけ助け舟を出してやるか。


「なあフィーネ、届け出をしていた書類がうっかり紛れてしまったり手違いで登録されていなかったということがあったんじゃないか?」

「……そうですね、そういう可能性もゼロではないでしょうが」


 急に何を言い始めたんだとポカンとしているダイク。


「なあ兄弟、この店にギガント・ブリューあるか?」

「え? あ、ああ……あることはあるが……」


「よし、じゃあそれ全部寄こせ」

「ええええっ!? 全部はさすがに……残り少なくて」

「そうか……残念だ。お前にはもう少し長生きして欲しかったんだが……」

「わ、わかった、全部やる、やるから!!」


 もちろんしっかり対価は払うつもりだが、少しは反省してもらわないとな。


「そうですか。今思い出したのですが、ギガント・ブリューを政府に卸してくれるはずの店の書類を手違いで紛失してしまいましてね。悪いのですがもう一度書いてもらっても? 書き方がわからなければ教えますので今ここでお願いします」


 すっと登録書類を差し出すフィーネ。


「あ……ありがてえ……この恩は一生忘れねえ……恩に着る兄弟、フィーネたん……」


「コイツ……やっぱり連行しようかしら」

「ひぃい、すまねえ……フィーネ……さん」

「……まあ良いでしょう」


 

 ギガント・ブリューも手に入ったし、ダイクの店もフィーネが上手く処理してくれることになって営業は続けられることになりそうだ。


 ちょっと脅し過ぎたかもしれないが、今後は正々堂々と商売できるんだから長い目でみたらその方が良い。


 今後、ミスリールもボロノイ・バイター対策でギガント・ブリューを常備するようになるだろうから、ダイクにとっても安定した売り先が確保出来てお互いに損はないだろう。



「ギガント・ブリューも手に入りましたし、森へ戻りましょうファーガソンさま」

「そうだな、出来れば今日中に効果を確認しておきたい」


 俺も使った経験はあるが、それはあくまでも普通の樹の話であって、エルダートレントにどの程度効果があるのかは実際に使ってみないとわからないからな。

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