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第百三十九話 百年の孤独

  

「フィーネ、ミスリールにはドワーフ族も住んでいると聞くが?」


 少なくともギルドの資料にはそう書いてあったが。  


「ええ、たしかにドワーフ族のコミュニティはございますが……ミスリール内とは言っても辺境の山岳地帯ですのでほとんど交流もありませんし実はあまり関係も良くありません。そもそも片道一週間はかかりますから……それならばまだ他国から輸入した方が確実で早いかと」


「いずれにしても取り寄せるしかないでしょうな。それまで被害が広がらないことを祈るしかないが」


 場合によってはリリアに頼んでフランドル商会経由で取り寄せてもらった方が早いかもしれないな。大きな街なら少なからずドワーフ族のコミュニティがあるから在庫を持っている可能性が高い。


 そうか……ミスリール内のドワーフ族とエルフの関係はあまり良好ではないんだな。まあ仮に良好だとしても、彼らは頑固だし金では動かないから譲ってくれるとは限らないし、そもそもの話この国のドワーフ族がギガント・ブリューを持っているかも不明だ。


 ん……? 待てよ……ドワーフ族か。


「フィーネ、一度ミスリールヘイヴンに戻ろう」

「え? 急にどうなさったんですかファーガソンさま?」


 驚いたのか閉じた目が少し開くフィーネ。 


「冒険者ギルドにドワーフ族がいただろう? ダイクに頼んでみようと思う」

「ああ……そういえば居ましたね……くっ……たしかに現状打てる手はそれしかなさそうですね……非常に残念ですが……」


 ドワーフ族とエルフ族は仲が良くないと聞いていたが……敵対関係にあるわけではないし……相性の問題なんだろうか?



「ルーナスさん、私たちは一旦ミスリールヘイヴンへ戻りますので後を頼みます」

「わかりました。上手く手に入ることを女神エルヴァニアに祈っております」


 女神エルヴァニアか……たしか植物を司る女神だったか。大陸では一般的に豊穣の女神グレナが有名なためにあまり知られていないが、たしかエルフという名前もこの女神由来だと聞いたことがある。


「悪いなフィーネ、また抱っこする」

「お気になさらず。気に入っておりますので」


 再びフィーネを抱き上げミスリールヘイヴンを目指して走り出す。


「フィーネはダンクの居場所に心当たりは?」

「いいえ。ですが、ドワーフ族は目立ちますからすぐにわかると思います」


 なるほど……たしかに悪目立ちする風貌だしな。依頼に出ていないことを祈るしかない。 



「ファーガソンさま、お疲れでしょうからそろそろファーガソン休憩しましょう」

「え? あ、ああ……」


 またファーガソン休憩か……あと少しでミスリールヘイヴンに着くんだが……。だがたしかに少し疲れた気がしないでもない。


「よし、回復しておくか」

「はい!!」


 しかし……本当にこの森はどうなっているんだ? ファーガソンすればするほど回復するとか。 



「……ファーガソンさま、出来ればこのまま……こうしてずっと休憩していたいですね」

「そうだな……魅力的な考えだがこうしている間もエルダートレントが苦しんでいるからな」

「ふふふ、お優しいんですね、ファーガソンさまは」


 フィーネもこんな風に笑うんだな……なんだか意外だ。


「そんなことはないさ。俺ほど自己中で傲慢な男もそういないと思うぞ」

「そうですね……ファーガソンさまは……自己中で傲慢で……誰よりも優しいお方です」


「フィーネ……」

「ファーガソンさま、私がどうしていつも目を閉じているかご存じですか?」


 くるりと背を向けるフィーネ。


「いや……?」


「私の目……魔眼なんです」  

「……魔眼?」


 ごく稀に生まれつき特殊な力を瞳に宿した者が生まれるというが……。


「私の魔眼の力は……心が見えるんです。考えていることや欲望……あらゆる感情が……」

「それは……」


 言葉にならない……それはどれほどの苦しみだ。終わりのない呪いと言っても良い。


「はい、地獄でした。生きてゆくのが嫌になるほどに……でもその苦しみを言ってしまったら……皆気味悪がって私から離れて行ってしまいます。だから……このことは誰も知りません」 


 フィーネは……ずっと独りで耐えていたというのか……?


「……なぜ俺に秘密を話す気になったんだ?」

「それは――――」


 振り返ったフィーネの瞳が俺をしっかりと見つめている。


 まるで虹のような七色の光に目を奪われる。



「――――ファーガソンさまだからですよ」


 あふれだした光が頬を伝う。


「なぜ泣く?」


「嬉しいからです。心のままに生きている貴方のような男性に出会えたから。そして――――悲しいからです。私にはあなたの心を捉えることが出来ないから」


 そんなことはない――――と言えない。


 フィーネのことは大好きだ。


 だが……俺にはやらなければならないことがある。ここで歩みを止めるわけにはいかない。


「良いのです。貴方の心の一部に私が居ることはわかってますから……それで十分です」

「フィーネ、俺に強がりは必要ないぞ」


「……ではもう少し休憩したいです」

「わかった、気が済むまで休憩しよう」






「なあフィーネ」

「はい、なんでしょうか?」


「入国審査の時、お前最初からわかっていただろ?」

「はい」

「やっぱり……あれでも結構焦ったんだぞ?」

「ふふふ、あれでもフォローしたつもりなんですけれど……面白くてつい」


 こらえきれずにクスクス笑いだすフィーネ。


「まったく……でもまあ結果的に良かった。こうしてフィーネと出会えたしな」

「あら……嬉しい。もう少し休憩しましょうか」

「……タフだな」

「ご存じなかったのですか? エルフは森の中では強いのですよ、ファーガソンさま」

「ああ、今思い知ったよ」


 悪戯っぽく微笑むフィーネを抱きしめる。


 やれやれ、まだまだ街へは戻れそうにないな。

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