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第百三十七話 立ち入り禁止区域へ


「ぐわぁ、イテテテテテッ!? お、折れる……や、やめて!! ま、参った、俺の負けだ……お前……一体何者なんだ……」


 勝負は一瞬でついた。折ろうと思えば簡単に折れたが、俺にはそこまでする趣味はない。


 見る限りこれまで負けたことが無かったようだが……挑んだ相手が悪かったと認めることが出来るかどうか。余計なお世話かもしれないが、それが成長できるか、生き残れるかの分かれ道になる。


 まあ上には上がいる、それを知ることが出来ただけでも安い授業料だと思うぞ。状況次第では死んでいてもおかしくないんだからな。



「これで俺の勝ちだな? もうフィーネには手を出すなよ」  

「ぐうう……わかった……ドワーフ族にとって勝負は絶対だ。約束は守る……」


 ドワーフ族は粗暴なところはあるが、約束は命に代えても必ず守る。そこは信用できるからこそあえて勝負を受けたわけだが。


「俺はダイクだ。ファーガソンだったな、困ったことがあれば力を貸す。お前は俺を負かした強い男だからな!!」


 そして一度認められれば友として受け入れる情に厚い種族でもある。


「ああ、何かあったらな。ダイク、お前も何かあればいつでも言ってくれ。俺に出来ることなら力になろう」

「ああ、わかった兄弟、フィーネたん邪魔して悪かったな」

「……次、その呼び方したら連行しますからね?」

「ひえ、おっかねえおっかねえ」


 バツが悪くなったのだろう。別人のように大人しくなったダイクは逃げるようにギルドから出て行った。



「えへへ、ファーガソンさま、さっきはカッコ良かったです!! 私のためにあえて勝負してくださったんですよね?」

「まあな、フィーネが困っているのを見過ごすわけにはいかない」

「もう……これ以上私を好きにさせてどうするつもりですか?」

「本当に俺のことが好きだったのか?」

「鈍い人……好きでもない人とファーガソンなんてしません」


 フィーネが初めて見せる恥じらいのような表情に思わずドキリとしてしまう。


「ファーガソンさま……せっかくですしYIPルーム行きましょうか」


 ちょっと待て、この街のギルドにもVIPルームあるのか!?


「この街はダフードをモデルにしておりますので」


 なるほど……道理で既視感があったわけだ。


「仕事は良いのか?」

「私たちはパートナーなのですから。この国ではパートナーとの営みはすべてに優先するのです。もちろん仕事なんかよりも……です」


 



「……これがS級ファーガソン……」


 いかん……フィーネが目を閉じたままピクリとも動かない。いや……目は元からだったな。


「だ、大丈夫かフィーネ? 無理するな」

「ふ、ふふふ、エルフを舐めないでください。この程度なら……上級回復魔法で動けるようになります!!」


 いや、それってかなりの重傷なのでは……。



「さあ、早速調査に行きましょうか、ファーガソンさま」

「もう動いて大丈夫なのか? 依頼を受けたのは俺だし無理しなくても……」


「大丈夫です。回復魔法でバッチリですし、私たちエルフはこの森の中でしたらほぼ無限に魔法が使えますので」

「そうか」


「それに……そもそも私が一緒じゃないと森に入れませんよ?」

「……そうだったな」


 冒険者ギルドの依頼であっても、森に立ち入るのであればエルフの同行は必要になる。



 フィーネによると初めて被害が確認されたのは数か月前だという。


 慎重に調査を進めていたところに第二第三の被害が報告され、現在は森に生息するエルダートレントの全数調査を実施しているところらしいが、現実問題として中々難しいところがあるらしい。



「これはフィーネさま! あの……そちらの人族は?」


 門の前で警備をしていた若い青年エルフがこちらに駆け寄ってくる。


 ミスリールヘイヴンからエルフの居住区である森の中心部へ入るには検問を通る必要がある。


 先日の入国設備とは比べ物にならないほどの厳重な警備体制が敷かれていて、これではネッコ一匹侵入出来ないだろう。


「ご苦労様、ルネ。これから例のエルダートレントの調査に入ります。彼はそのために雇われた冒険者です」

「かしこまりました。しかし……人族に許可が降りるとは珍しいですね」


 青年……とは言ってもおそらく俺よりは相当年上なんだろうが、彼の反応を見る限りやはり人族がミスリールに入ることは相当稀なことのようだな。


「ふふ、彼は私のパートナーですから」

「ええええっ!? あ、あの……フィーネさまが……!?」

「……どういう意味かしら、ルネ?」

「ひぃっ!? あ、いや……さすがフィーネさまの選ばれたパートナーだけに素敵な方だなあ……と」

「ふふ、そうでしょう? 私もそう思います」


 信じられないものを見たという風にこちらを凝視してくるルネ。その視線には明らかに濃厚な敬意が宿っているように感じるのは気のせいだろうか。

 


 検問では全身の消毒と靴の泥などの除去なども念入りに行われる。外部からの動植物を持ち込ませないことで古代からの森の生態系を守っているのだろう。


「お気を付けて」


 ルネに見送られながらゲートを抜けると、たった数十メートル移動しただけなのにガラリと植生が一変する。


「……まるで異世界に迷い込んだような感じがするな」

「ふふ、ここから先が本当の意味でミスリールとなるのですよ、ファーガソンさま」

 

 ミスリールヘイヴンを含めて外部の人間が通過する場所は、厳密に言えばミスリール大森林の外縁部に過ぎない。規定ルートを外れて森に入った場合、悪質でなければ罰金と国外追放で済むが、ここから先は本当の意味で立ち入り禁止区域となるため、万一不法侵入が見つかった場合、基本的に極刑に処せられるそうだ。


「極刑というのは具体的にどうなるんだ?」

「……森の養分となります」

「……それは……実に合理的だな」

「お褒めいただき恐縮です」


 フィーネが薄い笑みを浮かべる。冗談か本気かわからないところが少し怖い。

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