第百三十六話 ギルドマスターからの依頼
「ファーガソン……貴様……何をしたのかわかっているのだろうな?」
「ああ、ファーガソンした」
我ながらそんな答え方はどうかと思うが、ここまで来たら言い訳も逃げることもしない。それが俺に出来る誠意の表し方だ。
「……良くやった」
「……え!?」
「だから良くやったと言っている」
よくわからないが喜んでいる……のか? だが相変わらず顔は怖い。そうか……元々こういう顔なのか。
「それで……どうだフィーネ?」
「一昨日の今日ですのでまだわかりません」
……一体何の話をしているんだ?
「ふむ……それもそうだな……」
何やら考え込んでいるフィンクさん。
「ファーガソン、この街にはいつまで滞在するつもりだ?」
「今のところは一週間ほどの予定だが」
「わかった。ならば俺から個人的にお前に依頼をしたい。もちろん報酬はギルドの規定に従ってきちんと支払う」
個人的な依頼か……。
ギルドマスターからの個人的な依頼は珍しいことではない。というか毎回のように頼まれるからもはや恒例行事と言っても良い。
まあ元々依頼を受けに来たわけだし、ギルドマスターとの個人的な関係を考えても受けない手はないか。
「わかった、受けよう」
「ほほう! さすがは白銀級だな。依頼内容も聞かずに即答か……あのフィーネが惚れるわけだ、ククク」
悪く思われてはいないのだろうが、悪者が何か企んでいるようにしか見えない。
フィンクさんからどう見えているのかはともかく、フィーネが俺に惚れているとは思えないのだが……?
「それで依頼の内容は?」
「うむ、依頼内容は二つ」
二つもあるのか。
「一つ目は最近ミスリール内で起きている異変の調査だ」
「異変?」
「ミスリール内のエルダートレントが枯れてしまう事件がこのところ立て続けに起きているのだ。エルダートレントは我が国の貴重な資源であり輸出品でもある。それなのに長老会の連中は一向に重い腰を上げようとしないのでな。仕方ないのでギルドが動くことにしたのだ」
「わかった。微力ながら全力を尽くそう」
「うむ、そしてもう一つ、こちらの依頼が本命なのだが――――」
エルダートレント以上に重要な問題があるのか?
「ファーガソンにS級ファーガソンを依頼したい。もちろん相手はフィーネだが」
「S級……ファーガソン?」
なんだ……それは……初耳なんだが……?
「ん? なんだ知らんのか。まあ冒険者ギルドの本部で承認されたばかりだから知らなくても無理はないが……ほれ、ここに書いてあるだろう?」
いつの間にこんなものが……!?
「まあ、以前から要望は多くてな。ギルド本部としても新たな収益源として大いに期待していたらしいのだが……ここに来て一気に実現したらしい」
「フィンクさんすまない、S級ファーガソンと全力ファーガソンとは違うのか?」
「全力ファーガソンはA級相当だな。ちなみに中級ファーガソンはB級に統一されている」
よくわからないが全力ファーガソンよりも上なのか……。
「しかし……そんなことをしたらフィーネが無事ではすまないぞ?」
「おおよ、しっかりと孫の顔を拝ませてくれよ。こちとら百年近く待ち焦がれているんだからな」
孫? ああ、なるほど……そういうことか。S級……想像以上に難易度が高い。
だが――――
「フィンクさん、エルダートレントの方は受けるが、もう一つの依頼は受けられない」
「……何だとっ!?」
怖い顔が一層怖い顔になる。夢に出て来そうで困るな。
「フィンクさん、フィーネとはパートナーなんだ。依頼も報酬も必要ない」
「……ファーガソンさま!!」
「……なるほどな……そう……だな、俺が間違っていた。すまない……気を悪くしないでくれファーガソン、ただ……ちょっと焦っていたようだな、俺らしくもない……」
多少慣れて来たのか、しょげたフィンクさんの顔が少しだけ可愛く見えたような気がする。
エリンやカリンも言っていたが、エルフは恋愛感情が極めて希薄で滅多に恋をしないのだと聞いた。それこそ奇跡に近い確率なのだと。長命種ならではのものなのだろうが、絶滅の危機に瀕しているとあっては焦るのも理解できる。
「わかっている。こればかりは約束は出来ないが、俺に出来ることはやってみよう」
「ありがとうファーガソン、頼んだぜ」
「えへへ、ファーガソンさま、さっきはカッコ良かったです!!」
「そうか? 当然のことを言っただけだぞ」
「それでも……嬉しかったんです、私は」
フィーネが過去最高に近い。エルフの服は薄手で柔らかいのでダイレクトに感触が伝わってくるのだ。ギルド中から凄い目で見られているからもう少しだけ離れてくれると助かるんだが……。
「おいてめえ!! 俺のフィーネたんに触ってんじゃねえ!! ぶっ殺すぞ!!」
ドワーフ族の戦士か。俺が触っているんじゃなくてフィーネが抱きついているんだが……言っても無駄だろうな。
「知り合いかフィーネ?」
「ただの顔見知りです。行きましょうファーガソンさま」
「ただの顔見知り……そんな……!!」
可哀想に酷くショックを受けているみたいだが大丈夫かな?
「この筋肉バカにそんな繊細な心はありません大丈夫です」
「オラあ!! どっちがフィーネたんに相応しいか力勝負しようぜ!!」
「……大丈夫そうだな」
「……でしょう?」
とはいえ、このままじゃフィーネが大変そうだな。
「わかった、勝負を受けよう」
「マジか!! ガハハハハ、人族風情がドワーフ相手に勝負をするとはお前ひょっとして馬鹿だろ?」
お前が勝負しようって言ったんだろうが。
まあ、たしかにドワーフ族は背は低いが人族よりも力が強いのはたしかだ。普通なら力勝負なんて受けないだろうな。普通なら。
「ただし、俺が勝ったらフィーネには金輪際手を出すなよ?」
「ファーガソンさま!!」
フィーネ……それは近いというよりもはや押し付けているのでは?
「ちっ、女の前だからって恰好付けやがって……すぐにその女みてえな顔、泣きっ面に変えてやらあ」
やれやれ、言っておくが俺は力勝負で苦戦すらしたことが無いんだが……な。